アプロディーテー 信仰

アプロディーテー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/15 18:13 UTC 版)

信仰

東方起源の性格

古くは東方の豊穣・多産の女神アスタルテーイシュタルなどと起源を同じくする外来の女神で、『神統記』に記されているとおり、キュプロスを聖地とする[2]。オリエント的な地母神且つ金星神としての性格は、繁殖と豊穣を司る神として、庭園や公園に祀られる点にその名残を留めている。そして愛の女神としての性格を強め、自ら恋愛をする傍ら神々や人々の情欲を掻き立てて、恋愛をさせることに精を出している。同じく愛の神エロースと共にいる事もしばしばである。また、これとは別に航海の安全を司る神として崇拝されたが、これはフェニキアとの関連を示唆するものと考えられる。

スパルタコリントスでは、アテーナーのように、甲冑を着けた軍神として祀られていた[2]。特にコリントスはギリシア本土の信仰中心地とされ、コリントスのアクロポリス(アクロコリントス)のアプロディーテー神殿には、女神の庇護下の神殿娼婦[注 2]が存在した。この所作もまた東洋起原のものとされる。

古くから崇拝されていた神ではないために伝えられる説話は様々である。ヘーパイストスの妻とされるが、アレースと情を交わしてエロースなどを生んだという伝承もある[1]。アプロディーテーとエロースを結び付ける試みは、紀元前5世紀の古典期以降に盛んとなった。

金星の女神

本来、豊穣多産の植物神としてイシュタルやアスタルテー同様に金星の女神であったが、このことはホメーロスやヘーシオドスでは明言されていない。しかし古典期以降、再び金星と結び付けられ、ギリシアでは金星を「アプロディーテーの星」と呼ぶようになった。現代のヨーロッパ諸言語で、ラテン語の「ウェヌス」に相当する語で金星を呼ぶのはこれに由来する。

グレゴリオ聖歌でも歌われる中世の聖歌『アヴェ・マリス・ステラ』の「マリス・ステラ(Maris stella)」は、「海の星」の意味であるが、この星は金星であるとする説がある。聖母マリアがオリエントの豊穣の女神、すなわちイシュタルやアスタルテーの系譜にあり、ギリシアのアプロディーテーや、ローマ神話のウェヌスの後継であることを示しているとされる。

ローマ神話での対応と別名

ローマ神話ではウェヌスVenus)をアプロディーテーに対応させる[1]。この名の英語形は「ヴィーナス」で、金星を意味すると共に「愛と美の女神」である。

別名として、レスボス島の詩人サッポーアプロディタἈφροδιτα, Aphrodita)[注 3]と呼んでいる。また、キュプリス(「キュプロスの女神」の意)という別名もある[1]。キュプロス島には古くからギリシア人植民地があったが、キュプロスを経由して女神の信仰がオリエントより招来されたためとも考えられる[1]。アプロディーテーとキュプロスには本質的な関係があった。

その海からの生誕と関係して「キュテレイア(キュテーラの女神)」と呼ばれるほか、キュプロスの都市パポスにちなみ「パピアー(パポスの女神)」とも称される。ヘーラーは、毎年1回沐浴して、元の純潔な処女に戻ったが、アプロディーテーもパポスで同じ沐浴を行っている[6]


注釈

  1. ^ オウィディウスによると、ピュグマリオーンの孫キニュラースの娘。
  2. ^ ヒエロドゥーライ(hierodoulai、「神聖奴隷」「神婢」)。ただし、娼婦男娼の場合があるため、男娼のみの場合、または両性をまとめて呼ぶ場合は、ヒエロドゥーロイ(hierodouloi)と称する。
  3. ^ アイオリス方言と考えられる。

出典

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u マイケル・グラント、ジョン・ヘイゼル『ギリシア・ローマ神話事典』。
  2. ^ a b c d e フェリックス・ギラン『ギリシア神話』。
  3. ^ 戸塚七郎訳『饗宴』グーテンベルク21、2012年。
  4. ^ 芝崎みゆき『古代ギリシアがんちく図鑑』、バジリコ
  5. ^ 松村一男『歴史がおもしろいシリーズ! 図解 ギリシア神話』103頁。
  6. ^ ロバート・グレーヴス『ギリシア神話 上巻』、12章6。






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