反応拡散系とは? わかりやすく解説

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反応拡散系

(reaction-diffusion system から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/15 14:09 UTC 版)

グレイ=スコット モデルを使用した、トーラス上の2つの仮想的な化学反応と拡散のシミュレーション

反応拡散系(はんのうかくさんけい、: reaction-diffusion system)とは、空間に分布された一種あるいは複数種の物質の濃度が、物質がお互いに変化し合うような局所的な化学反応と、空間全体に物質が広がる拡散の、二つのプロセスの影響によって変化する様子を数理モデル化したものである。

概要

反応拡散系は、化学の分野において自然な形で応用されるものである。しかし、化学的ではない動力学過程を表現する上でも、反応拡散系は応用される。例えば、生物学地質学物理学生態学において、そのような応用例は見られる。数学的に言うと、反応拡散系は半線形放物型偏微分方程式の形を取るものである。

一般的には次のように記述される。

あるフィッシャーの方程式の進行波解の図

一つ以上の定常同次解を備える系において、典型的な解は、その同次状態をつなぐ進行波として与えられる。そのような解は、その形状を変えずに一定の速度で移動し、u(xt) = û(ξ) と記述される。ここで ξ = x − ct であり c はその進行波の速度を表す。ここで、進行波は一般的に安定な構造を備えるが、非単調な定常解(例えば、前進と反前進のペアで構成される局所化された領域)は不安定であることに注意することである。c = 0 の場合には、この記述内容には次のような簡単な証明が存在する[7]u0(x) が定常解、u=u0(x) + ũ(xt) が無限小摂動解であるなら、線型安定性解析によって次の方程式が導かれる。

t = 0のノイズの多い初期状態。
  • t = 10の系状態。
  • t = 100のほとんど収束した状態。
  • フィッツフュー=南雲の例に対し、そのチューリング分岐およびホップ分岐のための線型安定領域の境界を作る中立安定曲線は、次式で与えられる。

    回転する螺旋。
  • ターゲットパターン。
  • 定常的な局所化されたパルス(散逸ソリトン)。
  • 三成分およびそれ以上の成分の反応拡散方程式

    様々な系に対して、二つよりも多い成分の反応拡散方程式が提唱されている。例えば、ベロウソフ・ジャボチンスキー反応のモデル[13]血液凝固のモデル[14]あるいは平面の気体放電英語版[15]などが挙げられる。

    より多くの成分を含む系では、一成分あるいは二成分の系では起こり得ないさまざまな現象(例えば、大域的フィードバックのない空間多次元における安定ランニングパルスなど)が起こることが知られている[16]。扱う系の性質に依存して起こり得る現象についての導入と系統的な概要については、[17]で与えられている。

    応用と普遍性

    近年、反応拡散系はパターン形成英語版に対する基本的なモデルとして、多くの関心を集めている。上述のパターン(進行波、スパイラル、ターゲット、六角形、ストライプ、散逸ソリトン)は様々なタイプの反応拡散系において見られる。しかしそこには多くの矛盾、例えば、局所反応項においてそれらが見られるなど、が存在する。反応拡散過程は、生物学における形態形成と関連する過程に対する本質的な基盤であることも、述べられている[18] 。そして、それは動物の毛皮や、皮膚の色素沈着に対しても関連付けられている[19][20]

    反応拡散方程式のさらなる応用例は、生態の侵入[21]や感染症の拡がり[22]、腫瘍の成長[23][24][25]や、傷の治癒[26]などに見られる。反応拡散系が関心を集める別の理由には、それらが非線型偏微分方程式であるにもかかわらず、解析的な扱いがたびたび可能となることが挙げられる[7][8][27][28][29]

    実験

    化学における反応拡散系のよく管理された実験には、現在三つの方法があることが知られている。第一に、ゲル型リアクター[30]あるいはキャピラリーチューブ[31]が用いられること。第二に、キャタリティック表面上の温度パルスが調べられること[32][33]。第三に、反応拡散系を用いて神経パルスの進行がモデル化されること[10][34]、である。

    それらの一般的な例とは別に、適切な環境下ではプラズマ[35]や半導体[36]のような電気輸送系も、反応拡散の手法によって表現することが出来ることが判明している。それらの系に対して、パターン形成に関する様々な実験が行われている。

    関連項目

    参考文献

    1. ^ A. Kolmogorov et al., Moscow Univ. Bull. Math. A 1 (1937): 1
    2. ^ R. A. Fisher, Ann. Eug. 7 (1937): 355
    3. ^ A. C. Newell and J. A. Whitehead, J. Fluid Mech. 38 (1969): 279
    4. ^ L. A. Segel, J. Fluid Mech. 38 (1969): 203
    5. ^ Y. B. Zeldovich and D. A. Frank-Kamenetsky, Acta Physicochim. 9 (1938): 341
    6. ^ B. H. Gilding and R. Kersner, Travelling Waves in Nonlinear Diffusion Convection Reaction, Birkhäuser (2004)
    7. ^ a b P. C. Fife, Mathematical Aspects of Reacting and Diffusing Systems, Springer (1979)
    8. ^ a b A. S. Mikhailov, Foundations of Synergetics I. Distributed Active Systems, Springer (1990)
    9. ^ A. M. Turing, Phil. Transact. Royal Soc. B 237 (1952): 37
    10. ^ a b R. FitzHugh, Biophys. J. 1 (1961): 445
    11. ^ J. Nagumo et al., Proc. Inst. Radio Engin. Electr. 50 (1962): 2061
    12. ^ N. Kopell and L.N. Howard, Stud. Appl. Math. 52 (1973): 291
    13. ^ V. K. Vanag and I. R. Epstein, Phys. Rev. Lett. 92 (2004): 128301
    14. ^ E. S. Lobanova and F. I. Ataullakhanov, Phys. Rev. Lett. 93 (2004): 098303
    15. ^ H.-G. Purwins et al. in: Dissipative Solitons, Lectures Notes in Physics, Ed. N. Akhmediev and A. Ankiewicz, Springer (2005)
    16. ^ C. P. Schenk et al., Phys. Rev. Lett. 78 (1997): 3781
    17. ^ A. W. Liehr: Dissipative Solitons in Reaction Diffusion Systems. Mechanism, Dynamics, Interaction. Volume 70 of Springer Series in Synergetics, Springer, Berlin Heidelberg 2013, ISBN 978-3-642-31250-2.
    18. ^ L.G. Harrison, Kinetic Theory of Living Pattern, Cambridge University Press (1993)
    19. ^ H. Meinhardt, Models of Biological Pattern Formation, Academic Press (1982)
    20. ^ J. D. Murray, Mathematical Biology, Springer (1993)
    21. ^ E.E. Holmes et al, Ecology 75 (1994): 17
    22. ^ J.D. Murray et al, Proc. R. Soc. Lond. B 229 (1986: 111
    23. ^ M.A.J. Chaplain J. Bio. Systems 3 (1995): 929
    24. ^ J.A. Sherratt and M.A. Nowak, Proc. R. Soc. Lond. B 248 (1992): 261
    25. ^ R.A. Gatenby and E.T. Gawlinski, Cancer Res. 56 (1996): 5745
    26. ^ J.A. Sherratt and J.D. Murray, Proc. R. Soc. Lond. B 241 (1990): 29
    27. ^ P. Grindrod,Patterns and Waves: The Theory and Applications of Reaction-Diffusion Equations, Clarendon Press (1991)
    28. ^ J. Smoller, Shock Waves and Reaction Diffusion Equations, Springer (1994)
    29. ^ B. S. Kerner and V. V. Osipov, Autosolitons. A New Approach to Problems of Self-Organization and Turbulence, Kluwer Academic Publishers (1994)
    30. ^ K.-J. Lee et al., Nature 369 (1994): 215
    31. ^ C. T. Hamik and O. Steinbock, New J. Phys. 5 (2003): 58
    32. ^ H. H. Rotermund et al., Phys. Rev. Lett. 66 (1991): 3083
    33. ^ M. D. Graham et al., J. Phys. Chem. 97 (1993): 7564
    34. ^ A. L. Hodgkin and A. F. Huxley, J. Physiol. 117 (1952): 500
    35. ^ M. Bode and H.-G. Purwins, Physica D 86 (1995): 53
    36. ^ E. Schöll, Nonlinear Spatio-Temporal Dynamics and Chaos in Semiconductors, Cambridge University Press (2001)

    外部リンク

    • Java applet 反応拡散のシミュレーション
    • Another applet グレイ=スコットの反応拡散
    • Java applet いくつかの種の蛇に見られるパターン形成をシミュレートするための反応拡散
    • Gallery 反応拡散の画像と動画
    • TexRD software 反応拡散を基盤とするランダム・テクスチャー・ジェネレーター
    • Reaction-Diffusion by the Gray-Scott Model: Pearson's parameterization グレイ=スコット反応拡散のパラメータ空間の可視図
    • A Thesis 反応拡散パターンと分野の概観についての論文
    • ReDiLab - Reaction Diffusion Laboratory ベロウソフ=ジャボチンスキー、グレイ=スコット、ウィラモフスキー=レスラーおよびフィッツフュー=南雲モデルをシミュレートした Flash & GPU based application(完全なソースコード付き)



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