Tyndall effectとは? わかりやすく解説

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チンダル現象

(Tyndall effect から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/01/15 15:23 UTC 版)

木漏れ日による白色の光跡
右のコロイド溶液はチンダル現象を示す

チンダル現象(チンダルげんしょう、: Tyndall effect)は、の特性によって起こる物理化学現象の一つ。分散系(微小粒子を含む気体または液体)に光を照射した際、散乱光によって光路可視化される現象である。 コロイドを含む懸濁液に光を当てると光線が横方向から見える現象として知られる。 19世紀イギリス物理学者ジョン・ティンダル(John Tyndall)が詳細な観察を行ったことにより、この名称が付けられた[1]

チンダル現象を引き起こす光の散乱は、物理学的には、微粒子によるミー散乱により説明される[2][3]粒径が1 µm以上では、可視光域における散乱強度の波長依存性が低くなり、白色を説明する[4]。 一方、粒径が光の波長より十分小さい場合、ミー散乱はレイリー散乱で近似でき、短波長側がより強く散乱される。これが青色に見える理由である。 英語版のページには、50 nmから1 µm程度の粒子による青色散乱をチンダル散乱として区別する説明が見られるが、学術的にそのような共通認識はなく、物理学的にはミー散乱の理論に包含される。

歴史

ティンダルは、微粒子を入れたガラス管に光を通す実験を行い、光の通路が側面からは青く輝き、奥側では赤く見えるという散乱の特徴を1869年に報告した[5]。 また、牛乳のような微粒子を含む懸濁液に白色光を照射すると、光路が可視化される一方、真水では光路が見えないことを示し、この差異が両者の識別に有用であることを明らかにした[5]。 この観察が後にチンダル現象(コロイド懸濁液での光の散乱)として知られるようになった。

この観察から、ティンダルは、空が青い理由を微粒子による光の散乱であると推定した[5]。 その後レイリー卿による散乱理論の発展の端緒となり、レイリーは1871年、粒径が波長より十分小さい粒子によるレイリー散乱を理論化した[6][7]。 レイリー散乱は短波長光がより強く散乱されるため、青空の色の説明にも応用された。

しかし、粒子により空が色づいて見えるとすれば、微粒子の濃度や湿度によって空の色は著しく変化することになってしまう。 スモルコフスキー英語版1908年分子熱運動による微視的な密度ゆらぎが散乱を起こすことを着想し[8]アインシュタイン1910年に体系的な散乱理論として完成させた [9]

1908年グスタフ・ミーによって発表されたミー散乱は、色々なサイズの等方均質球による光の散乱と吸収電磁気学理論を適用した理論である[10]。 この問題の数学的扱いは非常に困難であるが、その理論はレイリー散乱よりも一般的である。

チンダルブルー

チンダルブルーの例とされるオパールガラス:側面からは青く見えるが、透過光は橙色に見える

散乱光が青色を呈する現象を、チンダルブルー(英: Tyndall blue)と呼ぶ場合がある[11]。 チンダルブルーは、多層干渉構造による構造色にみられる鮮やかな青色とは異なり、一般に彩度が低く柔らかい青色を呈する。

現在、チンダルブルーの定義については、次の2種類が存在する。

  1. レイリー散乱を含めた、散乱光が呈する青色全般[11]
  2. 分子と粒子の間のサイズ(50 nm~1 µm)のコロイド粒子によるチンダル散乱が呈する青色[12]

チンダルブルーという語が初めて使われたのは、1923年にバンクロフトが羽毛の青色について論じた論文である[13][14]。彼は光散乱に由来する青色を “Tyndall blue” と呼称した。上の定義では 1.に相当する。

色素や規則的構造では説明できない青色を、微粒子による光散乱による青色(チンダルブルー)で説明しようとする試みは、20世紀初頭から存在した。しかし、その後の研究によって否定された例もある。

生物に見られる青色の例

青い虹彩

ヒトの青い虹彩の色は、虹彩前部のストローマ内の微細な粒子による光散乱によるものとされている。この説明を初めて示したのは Mason(1924)である。虹彩には青色の色素が存在せず、ストローマが「濁った媒質」として短波長光を強く散乱し、後部の色素上皮が長波長光を吸収することで青色が強調されると報告した[15]。 その後の研究では、虹彩色はメラニン量やその分布とも密接に関係することがわかっている[16][17]

チンダル現象と誤解された例

鳥類の羽毛

カワセミインコなどの羽毛に見られる青色について、光散乱で説明する試みが20世紀初頭にあった。

  • 1919年にバンクロフトは、羽毛の青色をコロイド粒子による散乱現象と類似のものとして論じた[18][13][14]。その主な理由は、電子顕微鏡による観察では、構造に規則性が見られなかったことである。

その後の研究では、否定的な見解が出ている。

  • 1998年、Prumらは、インコ羽毛の電子顕微鏡像について空間フーリエ変換解析を行い、リング構造の短距離秩序が存在することを報告した[20]
  • 2009年、Dufresneらによる小角X線散乱(SAXS)を用いた研究でも同様の結果を得ており、その構造が発色の原因であることを示した[21]

これらの研究により、現代では鳥類の青色羽毛は、微細構造による散乱と干渉が複合した「構造色」として理解されている。

蝶の鱗粉

鱗粉の多くは構造色で説明されるが、Papilio zalmoxisアフリカ産の大型アゲハチョウ)の雄の青い鱗粉については、鱗粉内部にある空気を含んだ管状構造(alveoli)の不均一性がレイリー散乱による青いチンダル色を生じると論じられた(Huxley, 1976)[22]

しかし、Prumら(2006)は、電子顕微鏡による鱗粉構造の観察と、Huxley(1976)のデータの再検討から、この青色は蛍光色素によって生じていると結論づけた[23]

こうした研究の進展により、最近では、動物の色で、純粋に光散乱により発色しているものは、ほとんどないだろうという見解が広まっている[24]

ヒアルロン酸

美容医療では、ヒアルロン酸フィラーを浅く注入した際、特に下まぶた皮膚が青色に見えることがあり、Hirschら(2006)はこれをチンダル現象による青色散乱と説明した[25]。しかし、この説には当初から光学的根拠がなく、後にRootmanら(2014)が詳細に検証した結果、チンダル現象では説明できないと結論づけられた[26]。Rootman らが否定した主な理由は、

  1. フィラーはコロイド粒子ではなくチンダル現象の前提を満たさないこと、
  2. 皮膚は青色光を強く減衰させるため散乱光が外観として残りにくいこと、
  3. 観察される青色は皮膚による吸収・散乱と視覚の対比効果など複合的な光学作用で説明できること

である。 このため、ヒアルロン酸による青色変化をチンダル現象と呼ぶのは、美容医療で慣用的に広まった誤用と考えられている。

脚注

  1. ^ 吉村 壽次 編『化学辞典 第2版』(第2版)森北出版、2009年。ISBN 978-4-627-24012-4 
  2. ^ Tilley 2011, p. 184
  3. ^ 中垣, 正幸 (1967). “球形コロイド粒子による光散乱”. 日本化学雑誌 88 (5): 481–496. doi:10.1246/nikkashi1948.88.5_481. 
  4. ^ Tilley 2011, p. 185
  5. ^ a b c Tyndall, John (1869-01-14). “IV. On the blue colour of the sky, the polarization of skylight, and on the polarization of light by cloudy matter generally”. Proceedings of the Royal Society of London: 223–233. https://api.semanticscholar.org/CorpusID:121593427. 
  6. ^ Rayleigh, J. W. Strutt (1871). “On the scattering of light by small particles”. Philosophical Magazine. 4 41: 447–454. 
  7. ^ Rayleigh, J. W. Strutt (1871). “On the light from the sky, its polarization and colour”. Philosophical Magazine. 4 41: 107–120. 
  8. ^ Smoluchowski, M. (1908). “Molekular-kinetische Theorie der Opaleszenz von Gasen im kritischen Zustande”. Annalen der Physik 330: 205–226. doi:10.1002/andp.19083300402. 
  9. ^ Einstein, A. (1910). “Theorie der Opaleszenz von homogenen Flüssigkeiten und Flüssigkeitsgemischen in der Nähe des kritischen Zustandes”. Annalen der Physik 338: 1275–1298. doi:10.1002/andp.19103381213. 
  10. ^ Mie, Gustav (1908). “Beiträge zur Optik trüber Medien, speziell kolloidaler Metalllösungen” (ドイツ語). Annalen der Physik 25 (3): 377–445. doi:10.1002/andp.19083300302. 
  11. ^ a b Tilley 2011, p. 176
  12. ^ Helmenstine, Anne Marie (2020年2月3日). “Tyndall Effect Definition and Examples” (英語). ThoughtCo. 2025年11月29日閲覧。
  13. ^ a b Bancroft, Wilder D.; Chamot, Emile M.; Merritt, Ernest; Mason, Clyde W. (1923-04). “Blue Feathers”. The Auk (American Ornithological Society) 40 (2): 275–300. doi:10.2307/4073818. http://www.jstor.org/stable/4073818. 
  14. ^ a b Bancroft, Wilder D. (1923-08-01). “Structural Colours in Feathers”. Nature 112 (2807): 243. doi:10.1038/112243a0. https://doi.org/10.1038/112243a0. 
  15. ^ Mason, C. W. (1924). “Blue Eyes”. The Journal of Physical Chemistry (American Chemical Society) 28 (5): 498–501. doi:10.1021/j150239a007. ISSN 0092-7325. https://doi.org/10.1021/j150239a007. 
  16. ^ Sturm, R. A.; Larsson, M. (2009). “Genetics of human iris colour and patterns”. Pigment Cell & Melanoma Research 22 (5): 544–562. doi:10.1111/j.1755-148X.2009.00606.x. 
  17. ^ Dorgaleleh, S.; Jangjoo, M.; Rezvaninejad, P. (2020). “Molecular and biochemical mechanisms of human iris color: A comprehensive review”. Journal of Cellular Physiology 235 (12): 8972–8982. doi:10.1002/jcp.29824. 
  18. ^ Bancroft, Wilder D. (1919-06-01). “The Colors of Colloids. VII”. The Journal of Physical Chemistry (American Chemical Society) 23 (6): 365–414. doi:10.1021/j150195a001. https://doi.org/10.1021/j150195a001. 
  19. ^ Raman, C. V. (1934). “The origin of the colours in the plumage of birds”. Proceedings of the Indian Academy of Sciences A 1: 1–7. 
  20. ^ Prum, R. O.; Torres, R. H.; Williamson, S.; Dyck, J. (1998-11). “Coherent light scattering by blue feather barbs”. Nature 396 (6706): 28–29. doi:10.1038/23838. 
  21. ^ Dufresne, E. R.; Noh, H.; Saranathan, V.; Mochrie, S. G. J.; Cao, H.; Prum, R. O. (2009). “Self-assembly of amorphous biophotonic nanostructures by phase separation”. Soft Matter 5 (9): 1792–1795. doi:10.1039/B902775K. 
  22. ^ Huxley, Jonathan (1976). “The coloration of Papilio zalmoxis and P. antimachus, and the discovery of Tyndall blue in butterflies”. Proceedings of the Royal Society of London. Series B. Biological Sciences 193: 441–453. https://api.semanticscholar.org/CorpusID:85087211. 
  23. ^ Prum, Richard O.; Quinn, Tim; Torres, Rodolfo H. (2006-02-15). “Anatomically diverse butterfly scales all produce structural colours by coherent scattering”. Journal of Experimental Biology 209 (4): 748–765. doi:10.1242/jeb.02051. ISSN 0022-0949. https://doi.org/10.1242/jeb.02051. 
  24. ^ 木下, 修一「発色原理が異なる色―構造色―」『日本画像学会誌』第50巻第6号、2011年、543–555頁、doi:10.11370/isj.50.543 
  25. ^ Hirsch, Ranella J.; Narurkar, Vic; Carruthers, Jean (2006). “Management of injected hyaluronic acid induced Tyndall effects”. Lasers in Surgery and Medicine 38 (3): 202–204. doi:10.1002/lsm.20277. 
  26. ^ Rootman, Daniel B.; Karlin, Jonathan; Moosavi, Christina; Wong, Brian J. F. (2014). “Does the Tyndall Effect Describe the Blue Hue Periodically Observed in Subdermal Hyaluronic Acid Gel Placement?”. Ophthalmic Plastic and Reconstructive Surgery 30 (6): 465–471. doi:10.1097/IOP.0000000000000194. 

参考文献

Tilley, R. J. D. (2011) (英語). Colour and the Optical Properties of Materials: An Exploration of the Relationship Between Light, the Optical Properties of Materials and Colour (2nd ed. ed.). Chichester, West Sussex, U.K.: Wiley. ISBN 9786613677839 

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