PEEPとは? わかりやすく解説

呼気終末陽圧

(PEEP から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/01 14:01 UTC 版)

人工呼吸器の圧波形。PEEPは2cmH2Oに設定されており、圧波形の横軸は時間、縦軸が気道内圧である。呼気時に設定通り2cmH2Oの圧となっている。

呼気終末陽圧(こきしゅうまつようあつ、: Positive end-expiratory pressure: PEEP)とは、呼気英語版の最後の時点で、大気圧(体外の圧力)を上回っている肺内の圧力(肺胞圧英語版)のことである[1]肺胞全体に一定の圧がかかるために血液の酸素化が改善する。肺内シャント増大による低酸素血症無気肺肺水腫などがよい適応となる[2]。PEEPには、外因性PEEP(人工呼吸器によって加えられるPEEP)と内因性PEEP(不完全呼気によって生じるPEEP、auto-PEEPとも呼ばれる)の2種類がある。外因性PEEPは人工呼吸器に設定された治療的パラメータだが、内因性PEEPは肺胞過膨張を伴う機械換気合併症である[3]

なお、吸気時では無く、吸気時に加えられる陽圧はプレッシャーサポートと呼ばれる、PEEPとは別の人工呼吸器のモードである。

内因性PEEP

内因性PEEPとはauto-PEEPとも呼ばれる。これは、次の呼吸を開始する前の不完全な呼気のことで、肺胞の過膨張(エア・トラッピングとも呼ばれる)が進行する。これにより、呼気終了時の肺胞圧が上昇する。圧損傷英語版のリスク増大や呼吸仕事量の増大など弊害が大きいために、内因性PEEPはできるだけ低下させることが望ましい[4]

分時換気量が多い(過換気)、呼気流量制限(気道閉塞)、呼気抵抗上昇(気道狭窄)で内因性PEEPが起こりやすい。auto-PEEPは通常の気道内圧のモニタリングでは評価が困難である[4]。測定法としては、呼気終末時に人工呼吸器の回路を口元で閉塞して患者側の呼吸回路内圧を測定する[4]、呼吸回路の吸呼気流速と気道内圧を同時記録して、流速がゼロの時の気道内圧を測定する、等の方法が提案されている[4]

内因性PEEPが確認されれば、気道内圧の上昇を止めるか低下させるための措置を講じるべきである[5]。根本的な原因を管理しても内因性PEEPが持続する場合、患者に呼気流量制限(閉塞)があれば、外因性PEEPを適用することが有用な場合がある[6][7]

外因性PEEP

外因性PEEPは治療的なPEEPとも呼ばれる[8]。 外因性PEEPは人工呼吸のモードの基本的な要素であり、同期式間欠的強制換気(SIMV)やプレッシャーサポート(PS)など、他の換気モードと併用可能である[9]

ほとんどの機械的人工呼吸患者では、呼気終末期の肺胞虚脱を緩和するために、低いPEEP(4~5cmH2O)が適用される[10]。急性肺損傷、急性呼吸窮迫症候群、その他の低酸素血症を伴う呼吸不全の患者では、低酸素血症を改善したり、人工呼吸器関連肺損傷(ventilator-associated lung injury: VALI)英語版を軽減したりするために、より高いレベルのPEEP(>5cmH2O)が使用されることがある[11]

合併症と影響

PEEPは以下の生理学的影響ないしは合併症を生じる。

  • 頭蓋内圧(ICP)。PEEPは脳血流の阻害によりICPを増加させるという仮説があるが、PEEPが高くてもICPは増加しないことが示されている[12][13]

歴史

イギリスの麻酔科医ジョン・インクスター英語版がPEEPを発見したとされている[14]。彼の発見が1968年の世界麻酔学会議(World Congress of Anaesthesia)のプロシーディング英語版で発表されたとき、インクスターはこれを残存陽圧(Residual Positive Pressure)と呼んだ。

出典

  1. ^ positive end-expiratory pressure” (英語). TheFreeDictionary.com. 2024年5月17日閲覧。
  2. ^ 呼気終末陽圧 日本救急医学会・医学用語解説集”. www.jaam.jp. 2024年5月26日閲覧。
  3. ^ UpToDate”. www.uptodate.com. 2023年4月1日閲覧。
  4. ^ a b c d 時間宏明、平川方久 (1993). “auto-PEEPの測定と臨床における問題点”. 人工呼吸 10: 20-26. https://square.umin.ac.jp/jrcm/pdf/10-1/10-1-003.pdf. 
  5. ^ Caramez, MP; Borges, JB; Tucci, MR; Okamoto, VN et al. (2005). “Paradoxical responses to positive end-expiratory pressure in patients with airway obstruction during controlled ventilation”. Crit Care Med英語版 33 (7): 1519–28. doi:10.1097/01.CCM.0000168044.98844.30. PMC 2287196. PMID 16003057. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2287196/. 
  6. ^ Smith, TC; Marini, JJ (1988). “Impact of PEEP on lung mechanics and work of breathing in severe airflow obstruction”. J Appl Physiol英語版 65 (4): 1488–99. doi:10.1152/jappl.1988.65.4.1488. PMID 3053583. 
  7. ^ Kondili, E; Alexopoulou, C; Prinianakis, G; Xirouchaki, N et al. (2004). “Pattern of lung emptying and expiratory resistance in mechanically ventilated patients with chronic obstructive pulmonary disease”. Intensive Care Med英語版 30 (7): 1311–8. doi:10.1007/s00134-004-2255-z. PMID 15054570. 
  8. ^ 機械的人工換気の概要 - 21. 救命医療”. MSDマニュアル プロフェッショナル版. 2024年5月17日閲覧。
  9. ^ Mechanical Ventilation: Pressure Support and Control and Volume-Assured Pressure Support (Respiratory Therapy)” (英語). elsevier.health. 2024年5月17日閲覧。
  10. ^ Manzano, F; Fernández-Mondéjar, E; Colmenero, M; Poyatos, ME et al. (2008). “Positive-end expiratory pressure reduces incidence of ventilator-associated pneumonia in nonhypoxemic patients”. Crit Care Med英語版 36 (8): 2225–31. doi:10.1097/CCM.0b013e31817b8a92. PMID 18664777. 
  11. ^ Smith, RA (1988). “Physiologic PEEP”. Respir Care英語版 33: 620. 
  12. ^ Frost, EA (1977). “Effects of positive end-expiratory pressure on intracranial pressure and compliance in brain-injured patients”. J Neurosurg英語版 47 (2): 195–200. doi:10.3171/jns.1977.47.2.0195. PMID 327031. 
  13. ^ Caricato, A; Conti, G; Della Corte, F; Mancino, A et al. (March 2005). “Effects of PEEP on the intracranial system of patients with head injury and subarachnoid hemorrhage: The role of respiratory system compliance”. The Journal of Trauma and Acute Care Surgery英語版 58 (3): 571–6. doi:10.1097/01.ta.0000152806.19198.db. PMID 15761353. 
  14. ^ Craft, Alan (December 13, 2011). “John Scott Inkster”. BMJ 343: D7517. doi:10.1136/bmj.d7517. 

関連項目



PEEP

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/11 10:12 UTC 版)

呼吸困難」の記事における「PEEP」の解説

PEEPとは呼気終末陽圧のことである。人工呼吸依存患者ではPEEPがないと呼気終末遠位気道虚脱が起こると考えられている。原則としては肺障害ない場合必要がないが、肺障害程度によってPEEPが酸素化改善目的用いられる。PEEPに関して血圧余裕ない場合除いて3~5cmH2Oが無難であると考えられている。この値が生理的なPEEPであるとかつては考えられていたためである。2008年現在、生理的なPEEPは存在せず、PEEPによる肺障害可能性なども検討されているがコンセンサス得られていない最小限のPEEP、least PEEP,best PEEP,agressive PEEPという様々な考え方存在するARDSなどではPEEPを20cmH2Oほどかけることもある。

※この「PEEP」の解説は、「呼吸困難」の解説の一部です。
「PEEP」を含む「呼吸困難」の記事については、「呼吸困難」の概要を参照ください。

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