Mrs Eaves
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/01/11 02:05 UTC 版)
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| 様式 | セリフ |
|---|---|
| 分類 | トランジショナル |
| デザイナー | ズザナ・リッコ |
| 制作会社 | エミグレ |
| 制作年月日 | 1996年 |
| ベース書体 | Baskerville |
| 派生品 | Mrs Eaves XL、Mr Eaves |
Mrs Eaves(ミセス・イーヴス)は、1996年にズザナ・リッコによってデザインされたトランジショナル・セリフ書体である。本書体は、1750年代にイギリスのバーミンガムで制作されたバスカヴィル(Baskerville)を基に設計されている。低いエックスハイトと多様で特徴的な合字を備え、見出しや推薦文などのディスプレイ用途を意識した設計が特徴である。
Mrs Eavesは、リッコとその夫であるルディ・ファンデルランスが運営するフォント制作会社エミグレからリリースされた。その後、本文用として設計された「XL」バージョンや、サンセリフ体のコンパニオン書体であるMr Eavesもファミリーに加えられている[1]。
背景
書体名「Mrs Eaves」は、イギリスの活字設計者・印刷業者であるジョン・バスカヴィルの助手であり、後に妻となったサラ・イーヴス(旧姓ラストン[2])に由来する。サラはジョンの死後も、表立って評価されることなく[3]彼の仕事を管理し続けた[4]。
ジョン・バスカヴィルは、自身の書体と同様に、同時代の社会規範から外れた側面を持つ人物であった。印刷・活字事業を立ち上げるにあたり、彼はサラ・イーヴスを住み込みの家政婦として雇用した。やがて彼女が夫リチャードと別居状態となり、5人の子を抱えるようになると、サラはバスカヴィルの私的なパートナーとなり、あわせて組版や印刷の助手も務めるようになった。その後、疎遠となっていた夫の死から間もなく、バスカヴィルとサラは結婚した。デザイナーのリッコは、この書体に「Mrs Eaves」と名付けることで、タイポグラフィ史の中で忘れ去られてきた一人の女性に敬意を表した[5]。
概要
Mrs Eavesは、ジョン・ハンディがバスカヴィルのために制作した活字を基にしたリバイバル書体である。バスカヴィルと同様にオールド・スタイル体から脱却し、ほぼ垂直のストレスを持つ。バスカヴィルの活字と共通する特徴的な文字として、下部のカウンターが開き、スワッシュ状の「耳」(右上の装飾)を備える小文字の g が挙げられる。ローマン体とイタリック体の双方において、大文字の Q には流麗なスワッシュ状のテールが与えられている。大文字の C は上下にセリフを持ち、大文字の W の中央接合部の頂点にはセリフがなく、また大文字の G には、完全なセリフには至らないものの、その名残を思わせる鋭く突き出した小さな突起(スパー)が見られる。
リッコによるデザインは、厳密な意味での純粋なリバイバルにはとどまらない。制作にあたり、彼女はバスカヴィルの時代の印刷とは対照的に、現代の印刷方法を考慮した。すなわち、活版印刷に比べたオフセット平版印刷のフラットさ、ならびに植字機や画面表示の解像度である。Mrs Eavesの全体的な線幅は他の多くのリバイバル書体よりもかなり太く、他のバスカヴィルのデジタル・リバイバルを小さなポイントサイズで印字した際にしばしば見られる貧弱さを補い、活版印刷の予測不可能性の感覚をいくぶん取り戻している。これを補い、ページをより明るく見せるために、リッコはエックスハイトを低くし、ページ上でインクが占める面積を減らした。
『エミグレ』誌第38号「The Authentic Issue」において、Mrs Eavesが初めて大々的に使用された[6]。
『Eye』誌(2002年春号、第11巻第43号)のインタビューで、リッコはMrs Eavesが成功した書体だと考える理由を次のように述べている。
| 「 | Mrs Eavesは、十分な伝統に現代的なひねりを加えた、絶妙なバランスの書体だったのだと思います。親しみを感じるほどに馴染み深く、それでいて興味を引くほどに他とは違う。オリジナルのバスカヴィルと比べてプロポーションが比較的広いため、詩のような少量のテキストに存在感を与えたり、エレガントな見出しや印刷広告に用いたりするのに役立ちます。読者のペースをわずかに落とし、メッセージについてじっくり考えさせるのです。[7] | 」 |
リッコはまた、Mrs Eavesのためにプチキャップ(Petite Caps)のセットもデザインした。これは小さなエックスハイトに合わせ、通常のスモールキャップよりも高さを低くしたものである。これにより、プチキャップのフォントを備える最初の書体ファミリーとなり、OpenType仕様の機能の一つとなった[8]。
派生書体
Mrs Eavesには、用途の異なる複数の派生書体が存在する。本文組版を想定してエックスハイトを高くし、字間を詰めた「Mrs Eaves XL」(2009年)が追加されたほか、JohnstonやGill Sansに着想を得たサンセリフ体の「Mr Eaves」および「Mr Eaves XL」がリリースされている。
Mrs Eaves XLは、オリジナルのMrs Eavesに対してリリース当初から広く指摘されていた点への対応として設計された。その指摘とは、字間が非常に広く不均一であるため、本文用の長文テキストには適さないというものであった。この点について、発売元のエミグレも「一般的に、大量のテキストを組むには字間が広すぎ、どことなくまとまりがない。……スペースの節約は、オリジナルのMrs Eavesをデザインする際の目標の一つではなかった」と述べている[9]。
Mr Eavesは、オリジナルのMrs EavesおよびMrs Eaves XLに対応する形で、レギュラーとXLの2系統で展開されている。それぞれのサイズには、レギュラーとナローの2種類の字幅が用意されており、さらにセリフ体の原型に近いヒューマニスト的デザインの「Sans」と、Futuraに代表されるジオメトリック・サンセリフ体に近い、より簡潔な造形の「Modern」という2つのスタイルが存在する[10][11]。
合字
Mrs Eavesは、一般的なものから装飾的なもの、文字同士が絡み合うデザインやスワッシュを伴うものに至るまで、極めて多様な合字を備えることを特徴とする。すべてのバリエーションには、標準的な fi、ffi、fl の合字に加え、18世紀の活字に見られる古典的な ct や st の合字、さらに歴史的に前例のない独自の合字も含まれている。
これらの合字は複数のフォーマットで提供されてきた。当初は独立したエキスパートセット・フォントとして提供されていたが、近年ではOpenTypeフォーマットにおけるスタイル代替(stylistic alternates)として統合されている。ローマン体およびイタリック体には、合字のみを有効化した「Just Ligatures」と呼ばれるバリエーションも存在する。OpenTypeフォーマットのフォントには、213種類に及ぶすべての合字が収録されている[12]。
字形の特徴
- 小文字の g はテールが開いた形状をしている
- 大文字の Q にはスワッシュ状のテールが付されている
- イタリック体では、a に比べて e のカウンターが小さく設計されている
- 大文字の J はベースラインよりも大きく下方に突き出している
- 大文字の A はクロスバーの位置が高く、頂点が鋭く尖っている
- 大文字の C は上下の両端にセリフを持つ
- 大文字の W および小文字の w では、中央のストロークが省略されている
- 大文字の E は下側のアームが長く取られている
- 多くのバージョンでは、カリグラフィー風の形状を持つ J が採用されている
- 大文字の T はアームが広く張り出した形状をしている
脚注
- ^ Lupton, E. (2004). Thinking with Type: A Critical Guide for Designers, Writers, Editers, and Students. New York, Princeton Architectural Press.
- ^ “Sarah Eaves”. luc.devroye.org. 2025年8月31日閲覧。
- ^ “The Women Redressing the Gender Imbalance in Typography” (英語). Eye on Design. (2016年9月28日). オリジナルの2024年12月13日時点におけるアーカイブ。 2025年8月31日閲覧。
- ^ McNeil, Paul (2017). The visual history of type. London: Laurence King Publishing. p. 559. ISBN 978-1-78067-976-1
- ^ Shaw, Paul (1996). “Baskerville Revisited”. Print 50: 28D.
- ^ “Emigre #38”. Emigre. Sacramento, CA: Dome Printing. 1996. 2026年1月10日閲覧.
- ^ Eye, Number 43, Volume 11, Spring 2002.
- ^ “Petite Caps, anyone?” (英語). TypeDrawers. 2021年3月31日閲覧。
- ^ “Introducing Mrs Eaves XL”. Emigre. 2014年11月6日閲覧。
- ^ “Mr Eaves”. Emigre Fonts. 2014年11月6日閲覧。
- ^ “Mr Eaves specimen”. Emigre. 2016年3月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年11月6日閲覧。
- ^ “Mrs Eaves Design Information: Emigre Fonts”. Emigre.com. 2012年8月13日閲覧。
参考文献
- Blackwell, Lewis. 20th Century Type. Yale University Press: 2004. ISBN 0-300-10073-6.
- Fiedl, Frederich, Nicholas Ott and Bernard Stein. Typography: An Encyclopedic Survey of Type Design and Techniques Through History. Black Dog & Leventhal: 1998. ISBN 1-57912-023-7.
- Macmillan, Neil. An A–Z of Type Designers. Yale University Press: 2006. ISBN 0-300-11151-7.
- Meggs, Philip B. and Roy McKelvey. Revival of the Fittest. RC Publications, Inc.: 2000. ISBN 1-883915-08-2
- Updike, Daniel Berkley. Printing Types Their History, Forms and Use, Vol. II. Dover Publications, Inc.: 1937, 1980. ISBN 0-486-23929-2
- Emigre http://www.emigre.com/EFfeature.php?di=109
外部リンク
- Mrs_Eavesのページへのリンク