Deontic logicとは? わかりやすく解説

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義務論理

(Deontic logic から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/03/04 14:30 UTC 版)

義務論理: deontic logic)は、義務権利などの概念を扱う論理学の一分野である。規範論理とも。典型的な記法としては、OA(A は義務的である、A であるべきだ)と PA(A は許されている、A でもよい)がある。deontic という言葉は古代ギリシャ語の déon(拘束されているもの、適切なもの)を語源とする。

歴史

前史

インドミーマーンサー学派の哲学者や古代ギリシアの哲学者は、義務的概念の形式論理的関係に注目していた[1]。また、後期中世哲学では、義務的概念と真理的概念を比較している[2]ゴットフリート・ライプニッツは自著 Elementa juris naturalis において、licitumillicitumdebitumindifferens の間の論理関係がそれぞれ、possibleimpossiblenecessariumcontingens の間の論理関係に対応していると記している。

Mallyの義務論理

アレクシウス・マイノングの弟子 Ernst Mally は著書 Grundgesetze des Sollens で初めて義務論理の形式体系を提唱し、ホワイトヘッドラッセル命題論理の文法を使って定式化した。Mally の記法では、論理定数 U と ∩、単項作用素 !、二項作用素 f と ∞ が使われ、以下のような意味を持つ。

  • !A = A であるべきだ
  • A f B = A は B を必要とする
  • A ∞ B = A と B は互いを必要とする
  • U = 無条件に義務的である
  • ∩ = 無条件に禁じられている

また、f、∞、∩ は以下のように定義された。

(Def. f.) A f B = A → !B
(Def. ∞.) A ∞ B = (A f B) & (B f A)
(Def. ∩.) ∩ = ¬U

Mally は5つの形式的でない原則を提案した。

  1. A が B を必要とし、B ならば C である場合、A は C を必要とする。
  2. A が B を必要とし、A ならば C である場合、A は B と C を必要とする。
  3. 「A が B を必要とする」とは、「A ならば B である」が義務的である場合だけを意味する。
  4. 無条件に義務的であるなら、義務的である。
  5. 無条件に義務的であることは、自身の否定を必要としない。

彼はこれらの原則を公理として以下のように定式化した。

I. ((A f B) & (B → C)) → (A f C)
II. ((A f B) & (A f C)) → (A f (B & C))
III. (A f B) ↔ !(A → B)
IV. ∃U !U
V. ¬(U f ∩)

これら公理から Mally は 35 の定理を導出したが、その多くは Mally が認めているように奇妙なものとなった。カール・メンガーは定理として !A ↔ A (「A が真である」と「Aであるべき」が同値)が導かれることを示し、! の導入に問題があるとした[3]。メンガー以降、Mally の体系は哲学者からは見向きもされなくなった。Gert Lokhorst は Mally の35の定理とメンガーの定理の証明をスタンフォード哲学百科事典Mally's Deontic Logic として列挙した。

フォン・ウリクトの義務論理

最初の妥当と思われる義務論理はゲオルク・ヘンリク・フォン・ウリクトが論文 Deontic Logic [4]として発表したものである。フォン・ウリクトは deontic という言葉を英語で初めて義務論理を指す言葉として使った。Mally の論文はドイツ語で Deontik という言葉を使っていた(1926年)。フォン・ウリクトの論文以降、多くの哲学者や計算機科学者がその研究をしたり、義務論理体系を構築するようになった。とはいうものの、義務論理は論理学の中でも議論が多く、共通認識が形成されていない領域の1つである。

1951年のフォン・ウリクトの論理体系は、命題論理に様相論理学を取り入れたものだった。1964年、フォン・ウリクトは A New System of Deontic Logic を著し、そこでは命題論理への回帰が見られ、Mally の論理体系に非常に近くなっている。フォン・ウリクトが規範的推論のために可能性と必然性の様相論理を採用したことは、ライプニッツへの回帰であった。

標準義務論理

フォン・ウリクトの初期の体系では、義務性と権利性は行為(acts)の特質として扱われた。すなわち、OA は「Aすべきである」、PA は「Aしてもよい」と解釈された。しかし間もなく、命題についての義務論理に可能世界意味論による単純で簡潔な意味論が見つかり、フォン・ウリクトもそれを採用した。命題についての義務論理では、OA は「Aであるべきである」、PA は「Aであってもよい」と解釈される。この義務論理を標準義務論理(standard deontic logic)と呼び、SDLKDDなどと略記される。

構文論

標準義務論理は、様相論理KDに相当する論理である。したがって、古典論理の公理系に、次の公理と推論規則とを追加したものが標準義務論理の公理系である。

  • 公理K
    この節の加筆が望まれています。

    義務論理の重要な問題として、条件付き義務をどう正しく表現するかという問題がある。すなわち、「あなたがタバコを吸うなら、あなたは灰皿を使うべきだ」のような文である。以下の2つの表現のどちらが適切かは明確ではない。

    この節の加筆が望まれています。

    他にも様々な義務論理の体系があり、例えば、非単調義務論理、矛盾許容義務論理、動的義務論理などがある。

    ヨルゲンセンのジレンマ

    義務論理にはヨルゲンセンのジレンマと呼ばれる問題がある[8]。一般に、規範は真理値を持たないとされる。しかし、もし規範が真理値を持たないのだとすると、次の二つの文の間でジレンマに陥る。

    1. 論理的推論が成り立つには、その要素(前提と結論)が真理値をもっていなければならない。
    2. 規範的言明の間には論理的推論が成り立つ。

    1と2のどちらも正しいように思われる。しかし1と2を同時に受け入れるとすると、論理的に矛盾する。これがヨルゲンセンのジレンマである。

    考えられる解答としては主に以下の三つが知られる。

    • 規範的言明は真理値をもつと考える。メタ倫理学の用語を用いれば、これは規範の実在論ないし認知主義を採用することに相当する。
    • 規範(norm)と規範命題(norm-proposition)とを区別する。規範そのものは真理値をもたないが規範命題は真理値をもつと考えた上で、義務論理は規範命題を扱うのであって規範そのものを扱うのではないとする。
    • 真理とは異なる概念を用いて論理的推論の妥当性を説明する。例えば、言語行為論で定義されるような、正当性(validity)や成功(success)によって規範的言明の推論の妥当性を説明する。

    関連項目

    脚注

    1. ^ Huisjes, C. H., 1981, "Norms and logic," Thesis, University of Groningen.
    2. ^ Knuuttila, Simo, 1981, “The Emergence of Deontic Logic in the Fourteenth Century,” in New Studies in Deontic Logic, Ed. Hilpinen, Risto, pp. 225-248, University of Turku, Turku, Finland: D. Reidel Publishing Company.
    3. ^ Menger, Karl, 1939, "A logic of the doubtful: On optative and imperative logic," in Reports of a Mathematical Colloquium, 2nd series, 2nd issue, pp. 53-64, Notre Dame, Indiana: Indiana University Press.
    4. ^ von Wright (1951)
    5. ^ Hilpinen (2001, p. 163)。
    6. ^ 渡辺 (1985, p. 125)。
    7. ^ McNamara (2006)、第四節。
    8. ^ Jørgensen & 1937-38

    参考文献

    外部リンク


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