ATTESA E-TS
日産スカイラインの4WDシステムの名称で、FR車のトルクスプリット4WDである。FR車をベースに前輪駆動トルク用の湿式クラッチを備え、専用の外部油圧から電子制御でクラッチ圧を調圧し、スロットル開度、車速、前後輪の回転差、前後G、横Gなどから最適トルクを伝達する。
ATTESA E-TS
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/08/16 15:32 UTC 版)
ATTESA E-TS(アテーサ イーティーエス)とは、日産自動車が開発した電子制御トルクスプリット四輪駆動システムの名称。「Advanced Total Traction Engineering System for All Electronic - Torque Split」の略である。
かつては日産のウェブサイトやカタログ上でも「ATTESA E-TS」と表記されていたが、V36型スカイライン(2006年発売)以降は「アテーサE-TS」の表記が主になった[注釈 1]。従って本項では、以降現在の主流である「アテーサE-TS」と表記する。
開発の経緯
→経緯については日産・スカイラインGT-R BNR32も参照の事。
元々このアテーサE-TSは、グループAレース向けにR32型スカイラインGT-R(1989年発売)用として開発されたものである[1]。 グループA規定のレースにR31型スカイラインを投入していた当時、主にインターTECにおいてボルボ・240ターボやフォード・シエラRS500コスワースなどが席巻していた[2]。特に、R31型スカイラインGTS-Rを投入を以てしてもシエラRS500コスワースと圧倒的な差は無く、GTS-R投入の裏でR32型スカイランGT-Rの計画が立てられ、RB26DETTエンジンと共に開発されていたのがこのアテーサE-TSである[2]。
このアテーサE-TSが採用された理由としては、グループAの規定によって改造幅が厳しく制限されており、その中に当時のタイヤの質とタイヤ幅の問題があり[注釈 2]、シエラRS500コスワースに対抗するべく設定したRB26DETTから発生する600psものパワーを従来の後輪駆動では受け止められないとされていた為、本システムの採用が既定路線となっていた[1]。
当時の日産の四駆技術としては、日産・サファリ(1980年発売)に搭載していたパートタイム4WDシステムと、後のアテーサの前身であるN13系日産パルサー 4WDモデル(1987年発売)に搭載されたトリプルビスカス・フルオート・フルタイム4WDしかノウハウがなく、1986年発売のポルシェ・959をベンチマークとしており[3]R31型スカイラインを用いて試作のアテーサE-TSを積んだ試験車を制作し[注釈 3][4]、スーパーHICASと共に開発が進められた。
解説
アテーサE-TSは、基本的には前:後輪のトルク分配比率を0:100(後輪駆動)とし、走行条件に応じてこの比率を0:100 - 50:50の範囲で前輪に対しても電子制御でトルクを自動配分する。そのため、後輪へは直結状態で駆動力を伝え(センタースルー)、前輪へはトランスファーで分岐させている。トランスファーに組み込まれた湿式多板クラッチの押し付け力を油圧の変化で増減し、前輪へ伝達されるトルクの大きさを変化させる。そのため、センターデフは装備していない。分類上は現代でいえば「アクティブ・オン・デ・マンド式」[6]であるが、当時は切り替え操作の不要な「フルタイム4WD」で駆動力の伝わり方は「スタンバイ4WD」という異なる2つのシステムのハイブリッドということで斬新なものであった[7] 。
このクラッチを放した状態では後輪駆動、クラッチを結合した状態ではリジッド四輪駆動になり、この間を電子制御で無段階に変化させている。
さらに、このシステムには、前後4輪の車輪速度センサと、横Gをアナログ的に検出するGセンサを備えている。これらセンサからの入力信号を受け、コントローラが油圧多板クラッチの圧着力を変化させ、前輪へのトルク配分を決定する。
したがって、通常の後輪駆動状態から、後輪にかかる駆動トルクの増大で、後輪のスリップ量が大きくなると、前輪へも駆動トルク伝達を行う。前輪へ伝達する駆動トルクの大きさは、横Gの大きさと前後輪の回転速度差に応じて変化する方式としている。
例えば、アイスバーンのように、タイヤの摩擦係数μ(ミュー)の低い路面で、操舵角に対して横Gが小さかったり、後輪のスリップ量が大きい場合は、前輪へのトルク伝達を増やす。
一方、ドライ路面でのコーナリングのように、横Gが非常に大きい状態では、ホイールスピンが起こっていても前輪へ伝達するトルクをあまり増やさない。 これは、後輪側の駆動トルクを大きくし、かつ前輪の駆動トルクを小さく配分することにより、後輪をアクセルワークによって積極的にコントロールするマージン(ドリフトコントロール性)と、前輪の操縦性(アンダーステア対策)を確保している。
さらに、ABSとの総合制御も実現している。4輪それぞれに設けられた車輪速度センサやGセンサにより、作動タイミングをきめ細かくコントロールできるため、より自然な制動性能を確保している。急制動時には、4輪すべてに適切な割合でエンジンブレーキ力を割り振り、ブレーキ性能とアンチスキッド性も高めている。
R33型スカイラインGT-R Vスペック(1997年発売)、R34型スカイラインGT-R Vスペック(1999年発売)などでは、後輪に多板クラッチ電子制御式リミテッドスリップデフ(LSD)を組み合わせた「アテーサE-TS PRO」へと発展した[4]。
搭載車の車両型式には基本的に「N」がつくことで見分けることができる[注釈 4]。
搭載車種
- スカイライン(R32型 (GT-R、GTS-4)・R33型 (GT-R、GTS-4)・R34型 (GT-R、GT-FOUR、GT-X FOUR)・NV35型・NV36型・HNV37型)
- GT-R(R35型)
- スカイラインクロスオーバー(NJ50型)
- レパード (JY33型)
- ステージア (WGNC34型 - NM35型)
- セドリック・グロリア (ENY33型 - ENY34型)
- フーガ (PNY50・KNY51)
- シーマ (FY32型 - F50型)
- セフィーロ (NA31型) アテーサクルージング (1990年8月) / SE-4 (1992年5月)
- ローレル (GNC34型25メダリスト4WD / 25エクセル4WD - GNC35型メダリストFour / クラブS-Four)
- パルサー GTI-R 世界ラリー選手権グループA仕様車[8]
関連項目
脚注
注釈
- ↑ 例外の例として、2008年2月にマイナーチェンジしたF50型シーマ後期型のカタログでは一部ATTESA E-TSと表記されている箇所もある。
- ↑ グループAの区分として、(排気量に加え過給機係数x1.7を合計し)排気量3.5リッター以下までがタイヤ幅10インチ、4.5リッター以下・5リッター以下はタイヤ幅11インチとなっていた[2]。
- ↑ 開発のテストドライバーを担当した加藤博義によると、1985年~1986年頃とされる[4]。実際に日産自動車の加藤の紹介ページには、雪上テストをしているR31型のテスト車両の写真が掲載されている[5]。
- ↑ ただし、J31型ティアナの4WD車(型式:TNJ31・フルタイム四駆)など一部例外も存在する。
出典
- 1 2 “Racing GT-R HISTORY Vol.6 「グループA神話 II」”. NISMO (2017年). 2026年1月9日閲覧。
- 1 2 3 “NISMOの歴史 グループA Part 3 最強のグループAマシンBNR32型スカイラインGT-R登場(1989~1990)”. NISMO. 2026年1月9日閲覧。
- ↑ “【R32「GT-R」開発秘話】今だからテストドライバーのトップが明かす「最初のテスト車はニュルブルクリンクで通用しませんでした」”. Auto Messe Web(交通タイムス社) (2023年10月14日). 2026年1月9日閲覧。
- 1 2 3 “【24年間所有する通勤仕様】「スカイラインGT-R」の4ドアセダンを、今もテストドライバーのトップが愛用している理由とは?”. Auto Messe Web(交通タイムス社) (2023年2月18日). 2026年1月9日閲覧。
- ↑ “レジェンド 03:天職に就いた男、加藤 博義。”. 日産自動車. 2026年1月9日閲覧。
- ↑ “走り好きにバカにされがちな「生活四駆」って結局なんなのよ? ナメちゃいけない「安ウマ4WD」の正体とは!”. Web CARTOP(交通タイムス社) (2025年6月17日). 2026年1月9日閲覧。
- ↑ “【R32〜35GTRのバカッ速伝説はこの秘密兵器があってこそ! 日産が生み出した「アテーサE-TS」という驚異の4WD制御”. Web CARTOP(交通タイムス社) (2024年10月18日). 2026年1月9日閲覧。
- ↑ “日産: NISSAN HERITAGE COLLECTION|パルサー(サニー)GTI-R 1992年RACラリー出場車”. www2.nissan.co.jp. 2026年7月12日閲覧。
外部リンク
日産自動車広報資料「Nissan News Flash」
- ATTESA_E-TSのページへのリンク