自由のための41隻
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/03/24 05:29 UTC 版)
自由のための41隻(じゆうのための41せき、英語: 41 for Freedom)とは、アメリカ海軍における弾道ミサイル潜水艦のうち、ジョージ・ワシントン級からベンジャミン・フランクリン級までの1959年から1967年にかけて就役した41隻の艦の総称。信頼性と生残性を備えた、海洋ベースの核抑止戦力を可能な限り素早く創出することが目標であった。
これらの艦は「自由のための41隻」と通称され1690年代初にその目標を達成した。しかし、1972年のSTARTⅠによって、戦略核兵器を既存の数に制限するという条約の目標に沿って、アメリカ合衆国の潜水艦発射弾道ミサイル発射管の数を、41隻の潜水艦のミサイル発射管の合計に基づいて656発に制限した[1]。
概要
アメリカは1959年以来、レギュラス・ミサイルを用いて、核抑止のために核兵器を潜水艦に搭載して展開してきた。しかしながら。これは一時しのぎの措置にとどまるものでしかなかった。というのもレギュラスはサイズ(1隻当たりに搭載可能なミサイルの最大数はハリバット〈USS Halibut,SSGN-587〉に搭載されている5発)と航続距離、速度の制限があり、しかも発射時には浮上して、ラジオ指令誘導しなければならないという脆弱なものだった。
戦略核抑止力に対するアメリカ海軍の寄与の主たる要素として意図されていたのは潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM、アメリカ海軍の用語では艦隊弾道ミサイル〈FBM: Fleet Balistic Missle〉)を搭載した弾道ミサイル潜水艦(同Fleet Ballistic Missile Submarine)であった。「自由のための41隻」は潜水艦発射弾道ミサイルで武装し、冷戦期において、アメリカを脅かすいかなる外国勢力との核戦争の脅威にも抗しうる抑止力を創出した。
アメリカ海軍はこれらの潜水艦のために、新しい船体分類記号としてSSBNを付与した。「自由のための41隻」の嚆矢たるジョージ・ワシントン(USS George Washington, SSBN-598)は1959年12月30日に就役し、掉尾を飾ったウィル・ロジャース(USS Will Rogers, SSBN-659)は1967年4月1日に就役した。41隻は、後継のオハイオ級によって置き換えられた。
低速攻撃型原子力潜水艦
「自由のための41隻」の中の数隻は後年になって、第二次戦略兵器削減条約(STARTⅡ)を遵守しつつ、後継のオハイオ級を配備する余地を作るために攻撃型潜水艦に転換された[2]:203/423。アメリカ海軍の攻撃型原子力潜水艦(SSN)は慣例的に高速攻撃型潜水艦(Fast Attack Submarine)と呼ばれている[3][4]が、SSBNから転換されたSSNは対照的に「低速」攻撃型潜水艦(“Slow attack” SSNs)[2]:203/423と呼ばれている。
具体的には、ジョージ・ワシントン級、イーサン・アレン級、ベンジャミン・フランクリン級、から10隻が転換された。
- ジョージ・ワシントン級からは、ジョージ・ワシントン、パトリック・ヘンリー、ロバート・E・リーの3隻が1982年に転換されたが、1985年には最初の1隻が退役した[2]:203/423。
- イーサン・アレン級は、建造された5隻全てが1981年に転換された。ただし5隻のうちサム・ヒューストンとトーマス・ジェファーソンの2隻は特殊作戦の支援用であり、サム・ヒューストンは1991年まで現役にとどまった[2]:203/423。
- ベンジャミン・フランクリン級から転換された2隻は特殊作戦の支援用として転換され、2002年に退役したカメハメハは、「自由のための41隻」のなかで最後まで現役にあり、その艦歴は約37年に達した[2]:203/423。
これらの「低速」攻撃型潜水艦は、STARTⅡの条項を遵守するため、弾道ミサイル発射管にコンクリートを充填して使用不能にした他、弾道ミサイル潜水艦の任務に必要な航法精度を確保するために搭載されていた慣性航法装置2基を1基に減じるだけでなく、攻撃型潜水艦として必要な火器管制システムに換装する[2]:203/423などの措置を施されたうえで転換された。
しかし、これら「低速」攻撃型潜水艦は、スタージョン級以降の様な現代的な攻撃型潜水艦と比べてソナー・システムの能力で劣り、騒音を発する機関をラフトに載せて音響的に隔離する静粛化の仕組みも備えていない。さらにもともと同世代の攻撃型原子力潜水艦(スキップジャック級からスタージョン級まで)より大型であり、転換前後とも一貫して推進機関の中心にあったのは同じS5W原子炉であり[2]:203/423、もともと水中速力も20ノット前後でしかなかった速力の向上は望むべくもなかった。
攻撃型と言いつつ、こうした能力的な限界があったため、主として訓練用途で対潜戦演習における標的を務めたり、その他の2次的な任務に充当された[2]:203/423。
| 級 | 艦名 | 艦体番号 | 転換 | 退役/ 除籍 |
備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| ジョージ・ワシントン級 | ジョージ・ワシントン | SSBN-598 →SSN-598 |
1982年 | 1985年1月24日 1986年4月30日 |
|
| パトリック・ヘンリー | SSBN-599 →SSN-599 |
1982年 | 1984年5月25日/ 1984年12月16日 |
||
| ロバート・E・リー | SSBN-601 →SSN-601 |
1982~1983年 | 1983年12月1日/ 1986年4月30日 |
||
| イーサン・アレン級 | イーサン・アレン | SSBN-608 →SSN-608 |
1980年9月1日 | 1983年3月31日/ 1983年4月2日 |
|
| サム・ヒューストン | SSBN-609 →SSN-609 |
1980年11月10日 | 1991年9月6日 (1991年3月1日不活性化) |
特殊作戦用潜水艦に転換 | |
| トーマス・A・エジソン | SSBN-610 →SSN-610 |
1981年3月11日 | 1985年1月24日/ 1986年4月30日 |
||
| ジョン・マーシャル | SSBN-611 →SSN-611 |
1983年 | 1992年7月22日/ 同日 |
||
| トーマス・ジェファーソン | SSBN-618 →SSN-618 |
1981年3月11日 | 1985年1月24日/ 1986年4月30日 |
特殊作戦用潜水艦に転換 | |
| ベンジャミン・フランクリン級 | カメハメハ | SSBN-642 →SSN-642 |
1992年 | 2002年4月2日/ 同日 |
|
| ジェームズ・K・ポーク | SSBN-645 →SSN-645 |
1994年 | 1999年7月8日/ |
ベンジャミン・フランクリン級のうち、カメハメハとジェームズ・K・ポークの2隻は、SEALのプラットフォームとして運用するため、1992年から1994年にかけて改装され[2]:203/423、これら2隻のうちカメハメハは、2002年に退役するまで現役にとどまった。 また、サム・レイバーンとダニエル・ウェブスターの2隻は、退役の後、アメリカ海軍の原子力運転員を訓練するための訓練艦に転換され、2014年時点で、チャールストン海軍基地に係留され繫留訓練艦として原子炉運転員の訓練に従事していたが、老朽化に伴い運用を終了して、後継の訓練艦として指定・転換されたロサンゼルス級原子力潜水艦2隻と交代し、非活性化・解体された[5]。
比較
| 第2世代SSN(参考) | 第2世代SSBN | 第1世代SSBN | |||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 自由のための41隻 (41 for Freedom) |
|||||||
| スタージョン級 | パーミット/ スレッシャー級 |
ベンジャミン・フランクリン級 (改ラファイエット級) |
イーサン・アレン級 | ジョージ・ワシントン級 | |||
| 短船体型 | 長船体型 | ||||||
| 船体 | 水上排水量 | 4250 t | 4460 t | 3705 t | 7,320 t | 6,955 t | 5,959 t |
| 水中排水量 | 4780 t | 4960 t | 4311 t | 8,240 t | 7,880 t | 6,709 t | |
| 全長 | 89.1 m | 92.1 m | 83.2 m | 129.5 m | 125 m | 116.3 m | |
| 全幅 | 9.7 m | 9.7 m | 9.7 m | 10 m | 10.1 m | ||
| 吃水 | 7.4 m | 9.4 m | 7.7 m | 9.4 m | 8.4 m | 8.1 m | |
| 主機 | 機関 | 原子炉+蒸気タービン | |||||
| 方式 | ギアード・タービン | ||||||
| 原子炉 | WEC S5W | ||||||
| 出力 | 15,000 shp | ||||||
| 水中速力 | 25 kt | 28 kt | 21 kt | 21 kt | 22 kt | ||
| 兵装 | 水雷 | 533mm魚雷発射管×4門 | |||||
| SLBM | - | - | ポラリスA3[注 1]×16基 | ポラリスA2[注 2]×16基 | ポラリスA1[注 2]×16基 | ||
| 同型艦数 | 9隻 | 28隻 | 14隻 | 12隻[注 3] | 5隻[注 4] | 5隻[注 5] | |
一覧
| 級 | 竣工 | 退役 | 保管 | 就役期間 | ポラリス A1/A2 | ポラリス A3 | ポセイドン C3 | トライデントI C4 | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| Yes/No | 隻数 | Yes/No | 隻数 | Yes/No | 隻数 | Yes/No | 隻数 | |||||
| ジョージ・ワシントン級 | 5 | 5 | 0 | 1959–1985 | 5 | 5 | 0 | 0 | ||||
| イーサン・アレン級 | 5 | 5 | 0 | 1961–1992 | 5 | 5 | 0 | 0 | ||||
| ラファイエット級 | 9 | 9 | 1* | 1963–1994 | 9 | 9 | 9 | 0 | ||||
| ジェームズ・マディソン級 | 10 | 10 | 1* | 1964–1995 | 0 | 10 | 10 | 6 | ||||
| ベンジャミン・フランクリン級 | 12 | 12 | 0 | 1965–2002 | 0 | 12 | 12 | 6 | ||||
* Preserved as training vessels
脚注
出典
- ^ “Nuclear-powered Ballistic Missile Submarines” (英語). Fast Attacks and Boomers: Submarines in the Cold War. 国立アメリカ歴史博物館 (2000年). 2012年1月30日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i Peter Lobner (2018年). “Marine Nuclear Power:1939 – 2018 Part 2A:United States - Submarines”. Lynceans.org. 2026年1月7日閲覧。
- ^ “Submarines”. Submarine Force Pacific. 2026年1月10日閲覧。
- ^ Brian O'Rourke (2004). “U.S. Navy Fast-Attack Submarines”. proceedings (U.S.Naval Institute) Vol.150/10/1,460 2026年1月7日閲覧。.
外部リンク
- 41 for Freedom Submarines - Naval History and Heritage Command
- Nuclear-powered Ballistic Missile Submarines - National Museum of American History
- 自由のための41隻のページへのリンク