過去の開示
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/12/25 14:24 UTC 版)
外傷体験にさらされた個体が、そこからの回避を指向するようになるのは、個体保存の原則によるものであるが、これは再び再帰性の問題で、個体の心身に深く浸透している記憶が、その回避を妨げるものである。それは、われわれは「危害から回避するためには、危害を記憶しなければならない」というパラドックスを生きているからに他ならない。 このパラドックスを調停するために、われわれの心は抑圧、解離、分裂などの心的防衛の機能を忙しく使い分けている。これらはもともと、目的に合致した機能であるはずだが、いっぽうではわれわれを外傷体験に支配された存在にもしてしまう。この状態では、いわば患者は過去の記憶に支配された状態といえる。第2段階の目的は、これを逆転し、患者自身が記憶を管理する立場に転換することにある。 そのためには、封印されている記憶の蓋を開けなければならない。これがこの段階における「過去の開示」に相当する。 しかし、これは時に危険をともなう作業である。過去を開示しないことによって、患者はなんらかの心的バランスを保っているため、それを操作することによって、収拾がつかないほどに諸症状が噴出する場合もありうるからである。少なくとも、侵入的回想にともなうパニック発作が頻発している状態では、この作業に進むべきではない。たとえば、彼らの安全がとりあえず確保され、集団療法の場に落ち着いて座っていられて、夜はじゅうぶんな睡眠がとれ、少なくとも自室で過ごすことができ、朝は起きて治療空間へ出かけていけるくらいまで、第1段階の回復がなされていなければならない。
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