無理回転とは? わかりやすく解説

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無理回転

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2017/09/07 08:48 UTC 版)

力学系数学理論において、無理回転(むりかいてん、: irrational rotation)とは、次の写像のことを言う:

但し θ無理数である。R/Z、あるいは境界が貼り合わされる区間 [0, 1] と見なすと、この写像は全回転に対する割合 θ(すなわち、2πθ ラジアンのある角)による円の回転を表すことになる。θ は無理数であるので、この回転は円周群において無限の位数を持ち、写像 Tθ周期軌道を持たない。

上の代わりに、無理回転は乗法を用いて次の写像のように表すことも出来る:

これら加法と乗法の記法の間にある関係は、群同型

.

である。φ等長であることを示すことも出来る。

θ が有理数であるか無理数であるかに応じて、円周の回転には明確な区別が存在する。有理回転は、 および であれば に対して になるという事実より、力学系において無理回転ほどの興味を引くものではない。 であれば を示すことも出来る。

意義

無理回転は、力学系の理論において基礎となる例を与える。ダンジョワの定理英語版に従うと、回転数 θ が無理数であるような円板の向き付け保存 C2-微分同相写像はすべて、Tθ位相共役である。無理回転は測度保存エルゴード変換であるが、混合的英語版ではない。角度が θ であるトーラス上のクロネッカー葉層英語版と関連する力学系に対するポアンカレ写像は、θ による無理回転である。無理回転に関連するC*-環は、無理回転環英語版として知られ、幅広く研究されている。

性質

  • θ が無理数であるなら、回転 Tθ の下での [0,1] の元の軌道は [0,1] において稠密である。したがって、無理回転は位相的に推移可能英語版である。
  • θ が無理数であるなら、Tθ は一意的にエルゴード的である。
  • 無理回転および有理回転は、位相的に混合ではない。
  • 無理回転はルベーグ測度に関してエルゴード的である。
  • 無理回転は、唯一つの不変な確率測度であるルベーグ測度を伴い、一意的にエルゴード的である。
  • [a,b] ⊂ [0,1] を仮定する。Tθ はエルゴード的であるため、次が成り立つ。
    .

一般化

  • 円周回転は群の並進(group translation)の例である。
  • S1 からそれ自身への一般の向き付け保存同型写像 f に対し、位相同型写像 を満たすなら、f のリフトと呼ばれる。但し である[1]

応用

  • 円周の回転に関する歪積(Skew product)について:1969年にウィリアム・ヴィーチ(William Veech)は、極小であるが一意にエルゴード的ではない力学系の例を次の様に構成した[2]:「単位円周の二つのコピーを用意し、それぞれ終点が 0 となるような長さ 2πα の区分 J を反時計回りに取る。θ を無理数とし、次の力学系を考える。第一の円周のある点 p を始点とする。軌道が J に到達するまで、2πθ によって反時計回りに回転する。その後、第二の円周の対応する点に移動し、J に到着するまで 2πθ によって回転する。再び第一の円の対応する点に戻り、以下この手順を繰り返す。ヴィーチは、θ が無理数であるなら、システムは極小であるがルベーグ測度が一意にエルゴード的でないような無理数 α が存在することを示した」[3]

関連項目

参考文献

  1. ^ Fisher, Todd (2007年). “Circle Homomorphisms”. 2015年2月6日閲覧。
  2. ^ Veech, William (August 1968). “A Kronecker-Weyl Theorem Modulo 2”. Proceedings of the National Academy of Science (USA) 60 (4): 1163–1164. PMC 224897. http://www.pubmedcentral.nih.gov/articlerender.fcgi?tool=pmcentrez&artid=224897. 
  3. ^ Masur, Howard; Tabachnikov, Serge (2002). “Rational Billiards and Flat Structures”. In Hasselblatt, B.; Katok, A.. Handbook of Dynamical Systems. IA. Elsevier. http://www-fourier.ujf-grenoble.fr/~lanneau/references/masur_tabachnikov_chap13.pdf. 

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