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反対称交換相互作用 」は翻訳されたばかりのものです。不自然あるいは曖昧な表現などが含まれる可能性があり、このままでは読みづらいかもしれません。(原文:
en: Antisymmetric exchange )
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(2023年10月 )
ジャロシンスキー・守谷ベクトルの向きは局所構造により決まる
物理学 において、反対称交換相互作用 (はんたいしょうこうかんそうごさよう、英 : Antisymmetric exchange )、またはジャロシンスキー・守谷相互作用 (英 : Dzyaloshinskii–Moriya interaction, DMI )とは、磁気交換相互作用のうち、2つの隣接する磁気スピン
S
i
{\displaystyle {\boldsymbol {S}}_{i}}
鉄鉱石 の主成分、α -Fe2 O3 のヘマタイト 構造。
反対称交換相互作用の発見の端緒として、20世紀 初頭に典型的には反強磁性を示すα -Fe2 O3 結晶が弱い強磁性を示すことが観測された[ 1] 。1958年 、イーゴリ・ジャロシンスキー はランダウ の2次相転移理論(英語版 ) に基いて反対称交換相互作用が相対論的スピン格子と磁気双極子相互作用に起因することの証拠を提示した[ 2] 。1960年 、守谷亨 はスピン軌道相互作用 が反対称交換相互作用の微視的な機構であることをつきとめ[ 1] 、この現象を「異方性超交換相互作用 の反対称部分」と呼んだ。1962年 にベル研究所 のD. TrevesとS. Alexanderがこの用語を単純化して反対称相互作用と呼んだ。ジャロシンスキーと守谷の貢献をたたえてジャロシンスキー・守谷相互作用 とも呼ばれる[ 3] 。
導出
DMIの関数形はアンダーソン による超交換相互作用 表式で書かれたイオン
i
,
j
{\displaystyle i,j}
α -Fe2 O3 およびα -Cr2 O3 のとるコランダム型結晶構造 (赤:金属イオン、青:酸化物イオン )
右図に示す結晶構造を持つ重金属酸化物は、金属イオンによって強磁性体にも反強磁性体にもなる。この構造は酸化アルミニウム (Al 2 O 3 )からなる鉱石にちなみコランダム型 結晶 構造とよばれ、R 3 c 空間群 に分類される。この構造はD6 3d 空間群をもつα -Fe 2 O 3 およびα -Cr 2 O 3 と同一の単位胞 を含む。右図から、4つのM3+ イオンが菱面体単位胞の体対角線(英語版 ) [ 注釈 1] に沿って並んでいることがみてとれる。Fe 2 O 3 構造では、1つめと4つめの金属イオンが正で真ん中2つは負である。α -Cr 2 O 3 構造では、1つめと3つめの金属イオンのスピンが正で2つめと4つめのスピンが負である。両化合物はともに低温( <250 K )では反強磁性を示すが、α -Fe 2 O 3 はこの温度以上では構造を変化させ、総スピンベクトルが結晶軸からずれ、(111)基底面に沿って若干の角度をもつようになる。これによりFe 2 O 3 は 250 K 以上では瞬時強磁性モーメントを示すようになるが、Cr 2 O 3 にはこの変化は起きない。したがって、これらの結晶構造に反対称交換相互作用が生じる原因は、イオンのスピン分布および総スピンモーメントのミスアライメント、そして結果として生じる単位胞の反対称性の組み合わせであるといえる[ 2] 。
応用
磁気スキルミオン
磁気スキルミオン は磁化場にあらわれるテクスチャである。 渦状スキルミオンとハリネズミ状スキルミオンがあるが、どちらもジャロシンスキー・守谷相互作用により安定化されている。スキルミオンはそのトポロジカルな性質から、次世代のスピントロニクス デバイスへの応用が期待されている。
磁性強誘電体
反対称相互作用は、近年発見された種類の磁性強誘電体(英語版 ) における磁場誘起電気分極の理解上も重要である。磁性強誘電体においては、磁気構造 により配位イオンの微小変位が引き起こされることがある。これは、磁性強誘電体が格子エネルギーを犠牲にしても磁気相互作用エネルギーを増加させる傾向にあるためである。この機構は「逆ジャロシンスキー・守谷効果」と呼ばれる。特定の磁気構造のもとでは、全ての配位イオンが同一方向に変位を受け、全体として電気分極が引き起こされる[ 5] 。
この磁気電気結合のため、磁性強誘電体は電場の印加により磁気を制御する必要のある応用上注目されている。このような応用の具体例としてはトンネル磁気抵抗効果 センサーや電場による調整機構つきのスピンバルブ、高感度交番磁場 センサー、電気的調整機能つきマイクロ波デバイスなどが挙げられる[ 7] [ 8] 。
ほとんどの磁性強誘電体はFe3+ イオンとランタニド イオンを含む。下表によく知られている磁性強誘電体化合物の一部を示す。より多くの例については磁性強誘電体(英語版 ) の項を参照されたい。
磁性強誘電体の例
材料
強誘電体 T C [K]
磁性体T N (T C ) [K]
種別
BiFeO 3(英語版 )
1100
653
孤立電子対
HoMn 2 O 5
39[ 9]
磁気駆動
TbMnO 3
27
42[ 10]
磁気駆動
Ni 3 V 2 O 8
6.5[ 11]
MnWO 4
13.5[ 12]
磁気駆動
CuO
230[ 13]
230
磁気駆動
ZnCr 2 Se 4
110[ 14]
20
関連項目
脚注
出典
^ a b c d T. Moriya (1960). “Anisotropic Superexchange Interaction and Weak Ferromagnetism”. Physical Review 120 (1): 91. Bibcode : 1960PhRv..120...91M . doi :10.1103/PhysRev.120.91 .
^ a b I. Dzyaloshinskii (1958). “A thermodynamic theory of "weak" ferromagnetism of antiferromagnetics”. Journal of Physics and Chemistry of Solids 4 (4): 241. Bibcode : 1958JPCS....4..241D . doi :10.1016/0022-3697(58)90076-3 .
^ D. Treves; S. Alexander (1962). “Observation of antisymmetric exchange interaction in Yttrium Orthoferrite”. Journal of Applied Physics 33 (3): 1133–1134. Bibcode : 1962JAP....33.1133T . doi :10.1063/1.1728631 .
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^ Cyril Laplane; Emmanuel Zambrini Cruzeiro; Florian Frowis; Phillipe Goldner; Mikael Afzelius (2016). “High-precision measurement of the Dzyaloshinskii-Moriya interaction between two rare-earth ions in a solid”. Physical Review Letters 117 (3): 037203. arXiv :1605.08444 . Bibcode : 2016PhRvL.117c7203L . doi :10.1103/PhysRevLett.117.037203 . PMID 27472133 .
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注釈
^ 図では菱面体晶を六方晶表示しているため、菱面体単位胞の体対角線は図の単位胞の長軸に相当する。