FLiBe
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/09/14 04:22 UTC 版)

FLiBeはフッ化リチウムとフッ化ベリリウムの混合物から作られる溶融塩である。原子炉の冷却材や核燃料物質の溶媒として用いられる。オークリッジ国立研究所による溶融塩原子炉実験(MSRE)では両方の目的で使用された。
モル比2:1で混合すると Li
2[BeF
4] (四フッ化ベリル酸リチウム)を生成する。この化合物の融点は459℃、沸点は1430℃、密度は1.94 g/cm3である。
容積比熱は4,540 kJ/(m3·K)と水と同程度で、ナトリウムの4倍以上、一般的な原子炉条件下でのヘリウムの200倍以上である[1]。比熱容量は2,414.17 J/(kg·K)と、水の6割程度である[2]。
FLiBeは白から透明の外観で、固体状態では結晶粒がある。融解すると完全に透明な液体となる。しかし、UF4やNiF2などの可溶性フッ化物は固体と液体の両方で塩の色を劇的に変化させる。このことから、分光測色法は溶質の分析によく用いられ、MSREでは運用中広範に使用された[3][4]。
BeF2が50%をわずかに上回る混合比で共融混合物となり、融点は360℃である。この共融混合物はBeF2添加により粘度が非常に大きくなるため実際には使われなかった。BeF2がガラスのようにふるまうのはルイス塩基を十分に含んだ溶融塩混合物であるためである。アルカリフッ化物のようなルイス塩基はフッ化物イオンをベリリウムに供与し、ガラス状結合を切断することで粘度が大きくなる。FLiBeでは二つのフッ化リチウムからフッ化物イオンがベリリウムに供与され四フッ化ベリル酸イオンをつくる[5]。
化学的性質
FLiBeをはじめとした多くのフッ化物塩が関わる化学反応は、反応温度が高いことや、塩がイオン性であること、多くの反応が可逆反応であることなどから、特異な性質を示す。
まず基本的な性質としてFLiBeが溶融すると自らと錯体を形成する。
核特性
リチウムとベリリウム、フッ素の原子量が小さいため、FLiBeは効果的な中性子減速材となる。天然のリチウムの約7.5%はリチウム6だが、これは中性子を吸収してアルファ粒子とトリチウムに崩壊するため、FLiBeの中性子の吸収を抑えるためにほぼ純粋なリチウム7が使用される[7]。例えば、MSREの二次冷却材に使われたFLiBeのリチウムは99.993%がリチウム7だった[8]。リチウム7が中性子を吸収するとベータ崩壊とアルファ崩壊を経てベータ粒子とアルファ粒子に崩壊する。
ベリリウムは高速中性子が当たると2つのアルファ粒子と2つの中性子に分裂することがある。フッ素は(α,n)反応に対して無視できない断面積を有しているため、中性子工学を計算する際にはこれを考慮する必要がある[9]。
応用
トリウム溶融フッ化物塩炉では、核燃料物質の溶媒及び減速材並びに冷却材として利用される。
他の溶融塩原子炉でもFLiBeを冷却材として利用するが、溶媒としての利用はせず従来の固体核燃料を使用する。
液体FLiBe塩はMITによるトカマク型ARC核融合炉でのトリチウム製造と冷却用の液体ブランケットとしても提案された[10]。
関連項目
- FLiNaK
- 溶融塩原子炉
- トリウム溶融フッ化物塩炉
脚注
出典
- ^ “CORE PHYSICS CHARACTERISTICS AND ISSUES FOR THE ADVANCED HIGH-TEMPERATURE REACTOR (AHTR)”. 2010年1月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年1月13日閲覧。
- ^ “Engineering Database of Liquid Salt Thermophysical and Thermochemical Properties”. 2024年9月14日閲覧。
- ^ Young, Jack Phillip; Mamantov, Gleb; Whiting, F. L. (1967-02). “Simultaneous voltammetric generation of uranium(III) and spectrophotometric observation of the uranium(III)-uranium(IV) system in molten lithium fluoride-beryllum fluoride-zirconium fluoride” (英語). The Journal of Physical Chemistry 71 (3): 782–783. doi:10.1021/j100862a055. ISSN 0022-3654 .
- ^ Young, J. P.; White, J. C. (1960-06-01). “Absorption Spectra of Molten Fluoride Salts. Solutions of Several Metal Ions in Molten Lithium Fluoride-Sodium Fluoride-Potassium Fluoride” (英語). Analytical Chemistry 32 (7): 799–802. doi:10.1021/ac60163a020. ISSN 0003-2700 .
- ^ Toth, L. M.; Bates, J. B.; Boyd, G. E. (1973-01). “Raman spectra of Be2F73- and higher polymers of beryllium fluorides in the crystalline and molten state” (英語). The Journal of Physical Chemistry 77 (2): 216–221. doi:10.1021/j100621a014. ISSN 0022-3654 .
- ^ “Engineering Database of Liquid Salt Thermophysical and Thermochemical Properties”. 2014年8月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年9月12日閲覧。
- ^ “The Pea and the Beach-Ball – Energy From Thorium”. 2024年9月12日閲覧。
- ^ “In Czech: ORNL part of nuclear R&D pact”. 2012年4月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年9月12日閲覧。
- ^ https://www.oecd-nea.org/janisweb/book/alphas/F19/MT4/renderer/226%5B%5D
- ^ Sorbom, B.N.; Ball, J.; Palmer, T.R.; Mangiarotti, F.J.; Sierchio, J.M.; Bonoli, P.; Kasten, C.; Sutherland, D.A. et al. (2015-11). “ARC: A compact, high-field, fusion nuclear science facility and demonstration power plant with demountable magnets” (英語). Fusion Engineering and Design 100: 378–405. doi:10.1016/j.fusengdes.2015.07.008 .
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