ビリヤードボール・コンピュータとは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 辞書・百科事典 > ウィキペディア小見出し辞書 > ビリヤードボール・コンピュータの意味・解説 

ビリヤードボール・コンピュータ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/15 03:16 UTC 版)

可逆ANDゲートの実装例

ビリヤードボール・コンピュータ: Billiard-ball computer)は、ボールの力学的な運動を基にした可逆計算モデルである。エドワード・フレドキントマソ・トフォリによって1982年に提案された[1]。エレクトロニクスによるコンピュータが電流電圧により情報を伝達し、またいわゆる能動素子[2]を利用して論理演算を行うのに対し、ビリヤードボール・コンピュータでは摩擦のない理想的なビリヤードボールの慣性による等速直線運動と完全弾性衝突による反発が情報を運び論理演算を行う。可逆計算を考察する上で有用なモデルのひとつである。

概要

ビリヤードボール・コンピュータは、摩擦のない理想的なビリヤードボールの慣性による等速直線運動と完全弾性衝突による反発が情報を運び論理演算を行う。

論理回路は次のように構成する。ボールの通る道筋が回路にあたり、回線上の信号はボールがその場に存在するかどうかで表される。論理ゲートはボールの道筋の衝突する交点になる。特に、箱やパイプを適切に配置することでトフォリゲートを作ることができ、これを使って他のどのような可逆論理ゲートも構成することができる。つまり、適切に設計すればどのような計算でもビリヤードボール・コンピュータ上で行うことができる[3]

ビリヤードボール・コンピュータはチューリング完全である。したがって一見単純そうではあるけれども、(停止性問題の証明の方法などと同種の手法を利用することで)複雑なコンピュータでは、ある地点をボールが通過することが起こり得るか起こり得ないかは決定不能かもしれない。

応用

セルオートマトン上でビリヤードボールコンピュータをシミュレートすることができる。シミュレーションを行うことのできるのはブロックセルオートマトン英語版二次セルオートマトン英語版と分類されるもので、まとめて可逆セルオートマトン英語版と呼ばれる。このシミュレータ下ではボールは一定のスピードで常に軸に並行に進む。ボールや論理ゲートはそれぞれに対応したパターンの生きたセルとして配置され、それらが死んだ空のセルの間を移動することで計算を進める[4]

以下は似た原理を利用するものに関してであるが、必ずしも可逆ではない。

カニコンピュータ

ミナミコメツキガニ

神戸大学西イングランド大学英語版の研究で、ビリヤードボールの代わりにカニを使って論理ゲートを実現したというものがある[5][6][7]。実験に使われたカニは西表島に生息するミナミコメツキガニの仲間(Myctiris guinotae)で、英語で兵隊ガニと呼ばれ、群れて同じ方向に移動する習性がある。群れがぶつかり合流したとき方向が一定に定まることを利用して、論理演算を行うことができる。仕切りで作った交差点に群れを同時に追い立てることで計算を実行する。演算の結果はカニが交差点の先のどの終端にたどり着いたかでわかる。

サンドボックスゲーム

Minecraftのようなサンドボックスゲームや、スーパーマリオメーカーのようなゲームマップコンストラクションソフト等の世界内に論理演算などを実装する際に、ゲーム内でのオブジェクトの衝突など、ビリヤードボール・コンピュータに似た原理が利用される。[8]

関連項目

脚注

  1. ^ Fredkin, Edward; Toffoli, Tommaso (1982), “Conservative logic”, International Journal of Theoretical Physics 21 (3-4): 219–253, Bibcode1982IJTP...21..219F, doi:10.1007/BF01857727, MR657156 
  2. ^ トランジスタなどのこと。厳密にはダイオード論理方式(en:Diode logic)などを使えば論理演算自体は受動素子でもできるが、増幅作用のあるトランジスタの併用が必要なため、能動素子を全く使わないコンピュータはあまり現実的ではない。
  3. ^ Durand-Lose, Jérôme (2002), “Computing inside the billiard ball model”, in Adamatzky, Andrew, Collision-Based Computing, Springer-Verlag, pp. 135–160 .
  4. ^ Margolus, N. (1984), “Physics-like models of computation”, Physica D: Nonlinear Phenomena 10: 81–95, Bibcode1984PhyD...10...81M, doi:10.1016/0167-2789(84)90252-5 . Reprinted in Wolfram, Stephen (1986), Theory and Applications of Cellular Automata, Advanced series on complex systems, 1, World Scientific, pp. 232–246 .
  5. ^ Gunji, Yukio-Pegio; Nishiyama, Yuta; Adamatzky, Andrew (2011), “Robust Soldier Crab Ball Gate”, Complex Systems 20 (2): 93–104, arXiv:1204.1749, Bibcode2012arXiv1204.1749G, http://www.complex-systems.com/abstracts/v20_i02_a02.html 
  6. ^ Solon, Olivia (April 14, 2012), “Computer Built Using Swarms Of Soldier Crabs”, Wired, http://www.wired.com/wiredenterprise/2012/04/soldier-crabs/ .
  7. ^ Aron, Jacob (2012年4月12日). “Computers powered by swarms of crabs”. New Scientist. http://www.newscientist.com/blogs/onepercent/2012/04/researchers-build-crab-powered.html 2012年4月15日閲覧。 
  8. ^ https://www.youtube.com/watch?v=bpgiUUFY73g

ビリヤードボール・コンピュータ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/01/24 14:43 UTC 版)

非在来型計算機」の記事における「ビリヤードボール・コンピュータ」の解説

詳細は「ビリヤードボール・コンピュータ」を参照 エドワード・フレドキントマソ・トフォリによって1982年提案されボール力学的な運動を基にした可逆計算モデル

※この「ビリヤードボール・コンピュータ」の解説は、「非在来型計算機」の解説の一部です。
「ビリヤードボール・コンピュータ」を含む「非在来型計算機」の記事については、「非在来型計算機」の概要を参照ください。

ウィキペディア小見出し辞書の「ビリヤードボール・コンピュータ」の項目はプログラムで機械的に意味や本文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。 お問い合わせ


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「ビリヤードボール・コンピュータ」の関連用語

ビリヤードボール・コンピュータのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



ビリヤードボール・コンピュータのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのビリヤードボール・コンピュータ (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
ウィキペディアウィキペディア
Text is available under GNU Free Documentation License (GFDL).
Weblio辞書に掲載されている「ウィキペディア小見出し辞書」の記事は、Wikipediaの非在来型計算機 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS