ハイファントセラス
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/09/22 10:18 UTC 版)
ハイファントセラス | |||||||||||||||||||||
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ヒューストン自然科学博物館にて、ハイファントセラス・オリエンターレ
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地質時代 | |||||||||||||||||||||
後期白亜紀チューロニアン - カンパニアン | |||||||||||||||||||||
分類 | |||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||
Hyphantoceras Hyatt, 1900 |
ハイファントセラス(学名:Hyphantoceras)は、ノストセラス科に属する螺旋状の殻を持つ異常巻きアンモナイトの属。化石は北西太平洋地域やヨーロッパで産出する。
羽幌地域における蝦夷層群羽幌川層の調査では、ハイファントセラスやバキュリテスは浅海域よりも沖合の地層で多産している。このことから、ハイファントセラスは特に浅海棲ではなかったことが示唆される[1]。
系統関係
Matsumoto (1966) は暫定的に[2]、シュルエテレラとネオクリオセラスとの共通祖先について、ハイファントセラスからチューロニアン期に枝分かれしたものとした[3]。Matsumoto (1985) でもハイファントセラスからネオクリオセラスが派生したと考察され[4]、Matsumoto (1986) でも関連性が示唆されている[2]。
種
- H. ernsti
- H. reussianumやH. flexuosumあるいはネオクリオセラスやアニソセラスの種として記載された過去を持つ。螺旋状の幼年殻、比較的大きな角度で成長する螺環などを標徴形質とする。化石はザクセン州やヴェストファーレンなどドイツで産出する[5]。
- H. flexuosum
- Helicoceras属の種として記載された[5]。後期チューロニアンから前期コニアシアン期の種であり[6]、ドイツ北部において多産する[5]。日本の双葉層群足沢層大久川部層からも産出例があり、北西太平洋にも同種が生息していたことが示唆される[6]。
- H. heteromorphum
- コニアシアン期の種である。準円形の螺環断面を持つ。幼年殻は緩やかに湾曲しながら棒状に伸び、U字型のターンを描いてからアーチ状の湾曲を示し、その後規則的な螺旋に入る[7]。「長楕円形から伸びきったバネ状へ」の変化としても説明される[8]。主肋上に4列の突起を持つ[7]。北海道で産出する種であるが、殻修飾に基づくとH. orientaleと直接繋がる系統ではない[9]。

- H. oshimai
- Heteroceras属の種として記載された[7]。大型であり、螺環自体が太く[8]、またその間隔は狭い[7]。成長後期段階においては住房の開口部が上向きに逸れる[10]。H. transitoriumと殻修飾が類似しており、近縁な可能性がある[9]。
- H. orientale
- Heteroceras属の種として記載された。後期サントニアン期の種である。立体螺旋巻きで、殻修飾として多数の細肋と4列の突起を有する。螺旋の咆哮は直線的で規則正しく、螺環の成長率は低い[7]。
- 化石は北海道や樺太などの北西太平洋地域のみで産出しており、独自に進化した種と推測されている[11]。2019年にはH. transitoriumと層準が重複することなく連続的に産出することが確かめられ、形態的特徴と合わせて当該種との祖先-子孫関係が示唆されている[9]。

- H. reussianum
- チューロニアンの種である。化石はヨーロッパ(ドイツ[12][13][14])で産出する。幼年殻の螺旋は角度が小さく、また成年殻は大きくUターンした後にレトロバーサルフックと呼称される住房を持つ[7]。
- H. transitorium
- サントニアン期の種であるが、H. orientaleよりもやや古い時代のものである。螺環の巻き方には種内での差異が大きく、螺旋はH. orientaleよりも密であるが、より新しい層準の化石ほど螺旋が緩やかになる。このことから、より緩やかな螺旋を持つH. orientaleとの祖先-子孫関係が示唆される[15]。
- 化石は1977年に北海道の三笠市から報告された1個の標本しか知られていなかったが[15]、2012年から2016年にかけての調査で苫前町から産出した新標本が2019年に報告された[15]。また、岩手県洋野町からも本種の化石が産出し、岩手県立博物館に収蔵されていたことが2025年に発表された[16]。
- H. venustum
- Heteroceras属の種として記載された[9]。全体として円錐形をなす[8]。北海道で産出する種であるが、殻修飾に基づくとH. orientaleと直接繋がる系統ではない[9]。なお、樺太南部のナイバ地域に分布するBykov層からも産出している[17]。
- H. yabei
- マダガスカル産の種。H. ernstiに類似するが、肋がより粗く、幼年殻の角度がより大きい点で異なる[5]。
また、Fossilworksによれば以下の3種が居る[18]。
- H. irregulare
- H. laqueum
- H. plicatum
出典
- ^ 河部壮一郎、岡本隆「北海道北西部羽幌川支流右ノ沢地域における上部白亜系大型化石層序の再検討」『地質学雑誌』第118巻第12号、2012年、769-781頁、doi:10.5575/geosoc.2012.0061。
- ^ a b 松本達郎; 村本喜久雄; 高橋武美; 山下実; 川下由太郎 (1986). “白亜紀異常型アンモナイトの1種Neocrioceras spinigerum (JIMBO) について”. 日本古生物学會報告・紀事 新編 (日本古生物学会) 1986 (143): 4630474. doi:10.14825/prpsj1951.1986.143_463 .
- ^ 棚部一成; 小畠郁生; 二上政夫 (1981). “後期白亜紀異常巻アンモナイト類の初期殻形態”. 日本古生物学會報告・紀事 新編 (日本地質学会) 1981 (124): 228. doi:10.14825/prpsj1951.1981.124_215 .
- ^ Tatsuro MATSUMOTO (1985). “Restudy of Crioceras spinigerum Jimbo, a Cretaceous Ammonite Species”. Proceedings of the Japan Academy, Series B (日本学士院) 61 (2): 56-59. doi:10.2183/pjab.61.56 .
- ^ a b c d Frank Wiese (2000). “On some Late Turonian and Early Coniacian (Upper Cretaceous) heteromorph ammonites from Germany”. Acta Geologica Polonica 50 (4): 407-419.
- ^ a b “月刊アンモナイト通信 Vol.4, no.4”. いわき市アンモナイトセンター (2022年4月16日). 2022年10月22日閲覧。
- ^ a b c d e f 森伸一『北海道羽幌地域のアンモナイト 第2版』北海道新聞事業局出版センター、2018年5月28日、84-89頁。ISBN 978-4-86368-029-6。
- ^ a b c 守山容正『採集と見分け方がバッチリわかる アンモナイト図鑑』築地書館、2022年8月5日、155頁。 ISBN 978-4-8067-1640-2。
- ^ a b c d e Daisuke Aiba (2019). “A Possible Phylogenetic Relationship of Two Species of Hyphantoceras (Ammonoidea, Nostoceratidae) in the Cretaceous Yezo Group, Northern Japan”. Paleontological Research 23 (1): 65-79. doi:10.2517/2018PR010 .
- ^ “Hyphantoceras oshimai三笠市立博物館 MCM-A1915”. 日本古生物学会. 2022年10月22日閲覧。
- ^ “Hyphantoceras orientale三笠市立博物館 MCM-W1636”. 日本古生物学会. 2022年10月21日閲覧。
- ^ “地学資料詳細情報”. 徳島県立博物館. 2022年10月21日閲覧。
- ^ “ハイファントセラス・レンシアヌム”. 群馬県立自然史博物館. 2022年10月21日閲覧。
- ^ “県立宇宙科学館所蔵標本”. 佐賀県立宇宙科学館. 2022年10月21日閲覧。
- ^ a b c 相場大佑 (2019年). “当館職員による異常巻アンモナイトの研究論文が専門誌に掲載されます”. 三笠市立博物館. 2022年10月21日閲覧。
- ^ 『岩手県洋野町の沿岸域に分布する中生代白亜紀の地層から産出するアンモナイト類とイノセラムス二枚貝類化石を詳細に研究 3種を岩手県から初めて報告・地質年代を改訂』(プレスリリース)深田地質研究所、岩手県立博物館、2025年5月15日 。
- ^ 小玉一人、前田晴良、重田康成、加瀬友喜、竹内徹「ロシア・サハリン州南部ナイバ川(内淵川)流域に分布する白亜系上部の化石層序と古地磁気層序」『地質学雑誌』第108巻第6号、2002年、366-384頁、doi:10.5575/geosoc.108.366。
- ^ “†Hyphantoceras Hyatt 1900 (ammonite)”. 2022年10月21日閲覧。
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