イオといるユピテルを発見するユノ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/04 18:58 UTC 版)
オランダ語: Juno ontdekt Jupiter met Io 英語: Juno discovering Jupiter with Io |
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作者 | ピーテル・ラストマン |
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製作年 | 1618年 |
種類 | 板上に油彩 |
寸法 | 54.3 cm × 77.8 cm (21.4 in × 30.6 in) |
所蔵 | ナショナル・ギャラリー (ロンドン) |
『イオといるユピテルを発見するユノ』(イオといるユピテルをはっけんするユノ、蘭: Juno ontdekt Jupiter met Io, 英: Juno discovering Jupiter with Io)は、17世紀のオランダ絵画黄金時代の画家ピーテル・ラストマンが1652-1653年に板上に油彩で制作した絵画である。主題は、オウィディウスの『変身物語』から採られている[1][2]。作品は1957年にジュリアス・ワイツナー (Julius Weitzner) により寄贈されて以来、ロンドン・ナショナル・ギャラリーに所蔵されている[1][2]。
作品
ギリシア神話およびローマ神話の神々の愚行は、17世紀のオランダを含め全ヨーロッパで人気のある主題であった。ラストマンはイタリアに赴き、カラヴァッジョや彼の追随者たちの革新的な絵画を見、彼らのキアロスクーロ、すなわち劇的な明暗法、そして動きの表現を学び取った[1]。レンブラントはラストマンのもとで6か月修業をしたが、ラストマンの影響はレンブラントに終始一貫して認められる[1][2]。
ラストマンは注文によって作品を制作したわけではなかったので、自身で主題を選ぶことができた。オウィディウスの『変身物語』の逸話 (I, 612-616[2]) を題材とした本作でも、彼の大半の作品同様、イタリアの荘重さとオランダのひょうきんなユーモアを含んだリアリズムが場面を特徴づけている[2]。

神々の王ユピテルは常のごとく恋に落ちたが、今回の相手は美しい人間の女性イオであった[1][2][3]。画面上部左側にいるのはユピテルの妻ユノで、彼の情事を見つけ、怒った彼女は自身のアトリビュート (人物を特定する事物) であるクジャクを連れてやってきたところである。一方、画面前景右側のユピテルは慌ててイオを牛に変身させた直後で、2人の人物がワイン色の布でイオをユノの目から隠そうとしている。手前にいる少年キューピッド (恋の神) の足元には弓が見え、恋の矢が放たれたことを示唆している。もう1人の人物は「欺瞞」の寓意像で、それにふさわしい仮面とキツネの毛皮を背中に纏っている[1][2]。ちなみに、2人はオウィディウスの『変身物語』には登場しない[2]。後にユノはイオが変身した牛をユピテルからもらい受け、100の目を持つ巨人アルゴスに番をさせた。ところが、ユピテルはメルクリウスを派遣して、アルゴスを殺してしまう。ユノはその死を悼み、自身の聖鳥クジャクの羽根にアルゴスの目をつけた。これがクジャクの羽根の目の模様になったという[1][2][3]。
この絵画の焦点となっているのは堂々としたユノで、彼女は場面を支配している。一方、彼女から逃れようとするユピテルは裸体で、疚しさと後悔の表情を浮かべており、神ではなく人間のレベルに成り下がっている。恐妻家の夫とかかあ天下の妻というのは北ヨーロッパのユーモラスな版画で古くからおなじみのテーマであり、ラストマンは古代ローマの物語に自国のテーマを追加したのである[2]。
脚注
参考文献
- エリカ・ラングミュア『ナショナル・ギャラリー・コンパニオン・ガイド』高橋裕子訳、National Gallery Company Limited、2004年刊行 ISBN 1-85709-403-4
- 岡田温司監修『「聖書」と「神話」の象徴図鑑』、ナツメ社、2011年刊行 ISBN 978-4-8163-5133-4
外部リンク
- イオといるユピテルを発見するユノのページへのリンク