その五
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/05 06:15 UTC 版)
はるばると山路を辿り、夕方に私はある淋しい山寺に着いた。湯に入り、御堂へ行こうと思っていると、里の方から人が駆けつけ、殿(あの方)の「迎えに行く」という知らせを持って来た。その夜、あの方は私を迎えに来て、門のところに車を止めたが、私はどこまでも自分を守り通して拒絶したので、あの方もとうとうそのまま帰っていった。道綱がしきりに気にしたため、私はあの方への手紙を持たせて京へ立たせてやった。「大へん頭が痛みますので、いますぐ帰ることも難しいかと思われますが――」と、そんな事を書いて、その端に、「途々も、昔御一緒に参ったことのあるのを思い出しながら参りましたが、ほんとうにあなた様の事ばかりお思い申し上げているのです。やがてわたくしもここを下ります」と書き添えておいた。
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