陽のあたる家〜生活保護に支えられて〜 社会的評価

陽のあたる家〜生活保護に支えられて〜

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/05 00:12 UTC 版)

社会的評価

生活保護問題対策全国会議の事務局長であり、本作の監修も務めた弁護士の小久保哲郎[* 3]は「表現する手段のある人が正確な事実を伝えることは意義がある。生活に困った時に使う制度という正しい認識が広まれば[* 4]」「生活保護を正面からテーマにした作品はおそらく初めて。生活保護などけしからん、と思う方こそ、ぜひ読んでほしい[* 5]」と呼び掛けた[5][10]

漫画の取材に協力した市民活動家稲葉剛も「役所の窓口で申請を受け付けてもらえない『水際作戦』に遭ったり、受給してから後ろ指を指されたり[* 6]」「当事者がどういう気持ちでいるかよく描かれている[* 6]」「生活保護制度の基礎知識や生活保護バッシングの問題点などをわかりやすく描いています[* 7]」と評価した[1][19]

作家の浅尾大輔は、最終回のクライマックスにおいて、主人公の長女が生活保護の無理解な人々から野次を浴びて、失語に陥りつつも生活保護の意義を熱弁する場面を白眉としており、生活保護の非難への反論こそを、作者であるさいきまこの描きたかったことと捉えている[3]

貧困や社会保障に関心を持つフリーの著述家みわよしこ[* 8]は、女性向け漫画の絵柄があまり好きではないにも関わらず、作品の説得力と迫力に度肝を抜かれて、物語の展開のテンポの良さと現実感に引き込まれたといい[21]、本作を「日本で生活保護を正面から主題とした初の作品」と呼んでいる[22]

読者からは、連載中から「ひとごととは思えない」「身につまされた」などと大きな反響が寄せられ、単行本化に至った[11]。「フォアミセス」編集部によると、嫁姑や家族関係を巡る作品が多い同誌にあって、異例ともいえる100通以上の感想が寄せられたという(2013年12月時点)[10]。内容は「自分もいつこうなるか分からない。身につまされた[* 4]」「ウチはいま問題ないけど、いつ困窮して生活保護が必要になるか知れないと分かった[* 9]」「不正受給が大半というイメージが変わった[* 4]」といった内容が目立ったといい[5][23]、他にも「申請までの大変さ、申請後の大変さ、心の痛み、子どもの思いが伝わった[* 6]」「制度を誤解していた[* 10]」「小さいころ生活保護に支えられていた。身に染みた。とても痛かった[* 6]」などの感想も寄せられた[1][24]

2014年(平成26年)には信濃毎日新聞の書評委員らが選んだ「14年の1冊」に[25]2015年(平成27年)7月には朝日新聞で「論壇委員が選ぶ今月の3点」の1冊に選ばれた[26]

その一方では、本作を読まずに批判する読者も多く、「私が知っている生活保護受給者は、こんなに心がまっすぐじゃない[* 10]」といった反応もあった[24]。インターネット上では「どうしても救われなくちゃいけない人はいるけど、そうじゃない、どうしようもない人もいるだろう[* 9]」といった否定的なコメントも多かった[23]


注釈

  1. ^ 利用可能な資産、能力、そのほかのあらゆるものを活用してもなお最低生活の維持が不可能な場合に、生活保護が利用できるというもの[13]
  2. ^ さらに単行本発行と同時期の2013年12月に、生活保護法改正案が成立した[5]
  3. ^ 小久保 哲郎(こくぼ てつろう、1965年〈昭和40年〉[17] - )。日本の弁護士。日弁連・貧困問題対策本部事務局次長、大阪弁護士会・貧困・生活再建問題対策本部事務局長、生活保護問題対策全国会議事務局長[17]。兵庫県出身[18]、京都大学法学部卒業[17]
  4. ^ a b c 久永 2013, p. 23より引用。
  5. ^ 遠藤 2013, p. 10より引用。
  6. ^ a b c d 信毎 2013, p. 6より引用。
  7. ^ 稲葉 2014より引用。
  8. ^ みわ よしこ(1963年〈昭和38年〉 - )。日本の著述家。貧困や社会保障に関心を持つ。福岡県福岡市出身[20]
  9. ^ a b みわ 2014, p. 3より引用。
  10. ^ a b 大塚 2017, p. 2より引用。

出典

  1. ^ a b c 「暮らしアイ 生活保護漫画に大反響 異色の題材「命綱」の大切さ描く 読者もに受け止め」『信濃毎日新聞』信濃毎日新聞社、2013年9月14日、夕刊、6面。
  2. ^ 仁田桃「生活保護を漫画で描く『陽のあたる家〜生活保護に支えられて〜』誤解なくしたい思い」『しんぶん赤旗日本共産党中央委員会、2013年12月27日、14面。
  3. ^ a b 浅尾 2015, pp. 276–278
  4. ^ 社会運動 2016, p. 60
  5. ^ a b c d e f 久永隆一「生活保護、他人事ですか 漫画「陽のあたる家」」『朝日新聞朝日新聞社、2013年9月4日、大阪朝刊、23面。
  6. ^ 山口千尋「生活保護テーマに新作 柏木ハルコさん 震災機に社会見つめる」『読売新聞読売新聞社、2014年10月27日、東京夕刊、8面。
  7. ^ 久永隆一他「生活保護、ひとごとじゃない 実態描いた漫画、単行本に」『朝日新聞』、2014年1月23日、東京朝刊、33面。2020年4月20日閲覧。オリジナルの2014年6月27日時点におけるアーカイブ。
  8. ^ a b c 社会運動 2016, pp. 57–58
  9. ^ 白名正和「マンガで読む「貧困」」『中日新聞中日新聞社、2015年9月6日、朝刊、28面。
  10. ^ a b c 遠藤拓「生活保護 漫画本に 女性誌に連載、反響大きく「偏見と誤解なくしたい」」『毎日新聞毎日新聞社、2013年12月12日、東京夕刊、10面。
  11. ^ a b c 村島有紀「「貧困の連鎖、断ち切るため」さいきまこさんの漫画に反響」『産経新聞産業経済新聞社、2016年2月22日、東京朝刊、13面。2020年4月20日閲覧。
  12. ^ a b c 社会運動 2016, pp. 58–59
  13. ^ 社会運動 2016, pp. 69–70
  14. ^ 生活保護を描く漫画家「弱い人が弱い人を叩くのが今の現実」」『マイナビニュースマイナビ、2013年12月27日。2020年4月20日閲覧。オリジナルの2020年4月19日時点におけるアーカイブ。
  15. ^ 白井康彦「生活保護の誤解解く 実情訴える出版物相次ぐ」『中日新聞』、2014年1月9日、朝刊、10面。
  16. ^ さいき 2013, p. 167.
  17. ^ a b c 生活保護問題をめぐる最前線の攻防 ジェットコースターの10年間”. 法学館憲法研究所 (2017年9月18日). 2020年4月20日閲覧。
  18. ^ 小久保哲郎”. ハフポスト. ザ・ハフィントン・ポスト・ジャパン (2020年). 2020年4月20日閲覧。
  19. ^ 稲葉剛 (2014年9月5日). “貧困ジャーナリズム大賞2014発表! 生活保護問題に挑む書き手たち”. 稲葉剛公式サイト. 2020年4月20日閲覧。
  20. ^ みわよしこ”. 論座. 朝日新聞社. 2020年4月20日閲覧。
  21. ^ みわよしこ (2013年8月9日). “読めば貧困・生活保護が他人事ではなくなる!? マンガで生活保護を描く、さいきまこ氏の思い”. ダイヤモンド・オンライン. ダイヤモンド社. p. 1. 2020年4月20日閲覧。
  22. ^ みわよしこ (2014年11月14日). “「神様はなぜ背中しか向けてくれないの?」漫画家さいきまこ氏が描く“壮絶な子どもの貧困””. ダイヤモンド・オンライン. p. 1. 2020年4月20日閲覧。
  23. ^ a b みわよしこ (2014年11月14日). “「神様はなぜ背中しか向けてくれないの?」漫画家さいきまこ氏が描く“壮絶な子どもの貧困””. ダイヤモンド・オンライン. p. 3. 2020年4月20日閲覧。
  24. ^ a b 大塚玲子「「生活保護バッシング」がやまない本質的理由「陽のあたる家」さいきまこさんに聞く」『東洋経済新報』東洋経済新報社、2017年11月2日、2面。2020年4月20日閲覧。
  25. ^ 温水ゆかり「本紙書評委員10人が選んだ「14年の1冊」」『信濃毎日新聞』、2014年1月5日、朝刊、8面。
  26. ^ 赤石千衣子「論壇委員が選ぶ今月の3点」『朝日新聞』、2015年7月30日、東京朝刊、15面。
  27. ^ 陽のあたる家〜生活保護に支えられて〜”. 秋田書店. 2020年4月20日閲覧。





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