脳脊髄液 抗生物質投与後の髄液

脳脊髄液

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/19 05:45 UTC 版)

抗生物質投与後の髄液

細菌性髄膜炎では抗生物質治療によって髄液検査の値が変化する。具体的には髄液蛋白量が下がり、グラム染色塗沫標本では細菌の同定は困難になり、培養での菌分離の可能性が減少するが髄液の白血球数やグルコースの値には影響しない。細菌性髄膜炎に対して適切な治療を開始されると髄液培養は無菌的になり、グラム染色は治療開始24時間後には陰性になる。大部分の症例では髄液グルコースの治療開始後3日以内に正常化する。しかし臨床的な改善や髄液白血球数の蛋白量の改善にもかかわらず、グルコース量は10日以上の低値が続くこともある。

外傷性髄液

腰椎穿刺が外傷性の場合、髄液中の細胞数が増加しているのか手技によって生じたのか検討する必要がある。血液検査と髄液検査を総合して補正することもできる。また赤血球が混入すると赤血球1000/μlに対して1mg/dlずつ髄液蛋白が上昇する。つまり外傷性髄液は細胞数も蛋白量も高値となる。

細菌性髄膜炎における髄液検査

細菌性髄膜炎の髄液検査の特徴は以下のようにまとめることができる。それは初圧の上昇、多核白血球の増加、髄液グルコース量の低下、髄液蛋白の増加である。髄液白血球数は通常100/μl以上であり典型的には1000/μl以上と著明に増加する。抗菌薬開始後18~36時間後には髄液中の白血球がさらに増加することがある。典型的には細菌性髄膜炎では多核球優位でウイルス性髄膜炎では単核球優位であるが、初期には細菌性髄膜炎でもリンパ球優位であったり、エンテロウイルス髄膜炎では初期には多核球優位で経過の後半にリンパ球に移行するものもある。ウイルス性髄膜炎で髄液検査が最初は多核球優位のときには6~8時間後の腰椎穿刺で単核球優位になり診断可能という報告もあるが、エコーウイルス髄膜炎では数時間程度の後に腰椎穿刺しても多核球優位から単核球優位に移行しないという報告もある。いずれにせよウイルス性髄膜炎では経過後半では単核球優位となる。多核白血球優位の髄液細胞増多の所見を得たときは、経験的に抗菌薬投与を開始して、髄液培養が陰性になるまで続けるべきである。無菌性髄膜炎を疑っているが2回めの髄液検査で単核球優位への移行がみられないことがある この場合に抗菌薬を継続するかは臨床経過とグラム染色と培養の結果次第である。髄液細胞数が1000/μl以下の時の細菌性髄膜炎、あるいはリステリア菌による細菌性髄膜炎髄液のリンパ球増加が報告されている。リンパ球増多はリステリア菌性髄膜炎の症例の約25%で報告されている。

まれな例では髄液白血球の増加がみられない細菌性髄膜炎の報告もある。未熟児や4週前の乳児のほかアルコール中毒、高齢、免疫抑制剤使用下で報告がある。髄液糖の低下、髄液蛋白の増加、髄液培養陽性によって診断されている。髄膜炎に罹患していない菌血症の小児で施行された外傷性腰椎穿刺は髄液の生化学、白血球数が正常でありながら、菌血症血液の汚染の結果細菌培養が陽性となり細菌性髄膜炎と診断されることがあり注意が必要である。特に新生児、乳児の敗血症の原因に細菌性髄膜炎は多いため注意が必要である。新生児の敗血症の実に20~30%は細菌性髄膜炎が合併している。

脳脊髄液減少症と鞭打ち症(頸椎捻挫)との関連性

最近の研究で交通事故や転倒など鞭打ち状態になった時に引き起こされる、いわゆる鞭打ち症の原因の一つが、脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)、つまり硬膜から髄液が漏れ出すことであると指摘され始めた。有効な治療法の一つとして自己の血液を硬膜の損傷箇所から注入して、その凝固で穴を塞ぐブラッドパッチ法が挙げられるが、現時点では、交通事故などによる鞭打ち状態と脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)発症の関連が詳しく解明されていないので健康保険は適用されない。また、事故の加害者側の加入している保険からもブラッドパッチに関わる治療の補償費用支払いを拒否されてきた。

ただし、2005年以降、鞭打ち症と脳脊髄液減少症の因果関係を認める動きが出てきている。ほとんどの裁判において相当因果関係は否定されているものの、相当因果関係を認められた例として、2001年8月に神戸市で発生した乗用車と自転車の衝突事故にかかわる裁判がある。この事故では、自転車に乗っていた女性が頭部外傷・打撲を負った。その後の診察で女性は脳脊髄液減少症と診断された。神戸地方検察庁は当初、乗用車の運転手を不起訴処分としたが、女性から再捜査の要請を受け2006年5月には脳脊髄液減少症が交通事故によって引き起こされたと認定、運転手を略式起訴した。そして、2008年8月時点で、東京高裁にて初めて交通事故と脳脊髄液減少症の因果関係についての判決が降り、損保側もこれを認めた。

また、2003年に追突事故に遭った堺市在住の男性の場合、2007年に髄液漏れと診断され、同年5月からブラッドパッチ療法を受けたところ、12月には症状が改善した。男性は事故の相手方に対し、2006年大阪地裁に提訴。一審では「診断内容に疑問がある」とされ、因果関係が認められず、請求が退けられたが、2011年7月大阪高裁は、2011年6月に厚生労働省の研究班が「外傷による髄液漏れの発症は稀ではない」と言明したことに触れた上で、保険会社や加害者側が責任否定の根拠としていた国際頭痛学会の基準が「厳し過ぎる」と批判し、髄液漏れであると認めて、被害者側逆転勝訴の判決を言い渡した[12]

また、新たな診断基準ができたことを受ける形で、2012年7月横浜地裁が、事故加害者に対して損害賠償を支払うよう命じる判決を出している[13]

また、2002年和歌山市内の建設現場で作業中に、落下してきたケーブルが首に当たったことで首の痛みに悩まされるようになり、脳脊髄液減少症に伴う四肢麻痺と診断された男性が、国を相手取って労災事故による発症であることを認定するよう、和歌山地裁に求めた訴訟で、同地裁は2013年4月16日に労災によるものと認定し、障害年金を支給するよう国に対し命じた[14]


  1. ^ Greitz, D., Hannerz, J. "A proposed model of cerebrospinal fluid circulation: observations with radionuclide cisternography." AJNR. American Journal of Neuroradiology 17(3), 1996, pp. 431-438.
  2. ^ Koh, L., Zakharov, A., Johnston, M. "Integration of the subarachnoid space and lymphatics: is it time to embrace a new concept of cerebrospinal fluid absorption?" Cerebrospinal Fluid Research 2, 2005, p. 6.
  3. ^ Rangel-Castillo, Leonardo; Gopinath, Shankar; Robertson, Claudia S. (2008-5). “Management of Intracranial Hypertension”. Neurologic clinics 26 (2): 521–541. doi:10.1016/j.ncl.2008.02.003. ISSN 0733-8619. PMC 2452989. PMID 18514825. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2452989/. 
  4. ^ Neurol Sci. 2009 Feb;30(1):51-4. PMID 19145403
  5. ^ 臨床神経学 2016 56 569-572
  6. ^ Arch Neurol. 2005 Jun;62(6):865-70. PMID 15956157
  7. ^ J Neurol. 2004 Feb;251(2):184-8. PMID 14991353
  8. ^ Cytokine. 2014 Sep;69(1):62-7. PMID 25022963
  9. ^ Ann Neurol. 2000 Jan;47(1):137-8. PMID 10632117
  10. ^ Neuro Oncol. 2012 Mar;14(3):368-80. PMID 22156547
  11. ^ Clin Transl Med. 2020 Jul;10(3):e131. PMID 32634257
  12. ^ 訴訟:髄液漏れ「事故で発症」 最新研究を考慮、被害者側が逆転勝訴--大阪高裁 毎日新聞 2011年9月2日
  13. ^ 髄液減少症:新基準で認定 画像判定を採用 横浜地裁 毎日新聞 2012年8月26日
  14. ^ 脳脊髄液減少症:和歌山地裁で労災認定 障害年金の支給命令 毎日新聞 2013年4月17日





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