線形動物 がん検診と線虫

線形動物

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/15 06:51 UTC 版)

がん検診と線虫

2015年3月11日には、体長約1mmの線虫が、がん患者とそうでない人の尿の匂いを、精度よく識別できたと九州大学などの研究チームによって、アメリカ合衆国科学誌PLOS ONE(プロスワン)』に発表された。

研究チームは、におい分子と結合するたんぱく質が犬とほぼ同数あり、飼育の簡単な線虫に着目。実験してみると、がん患者の尿の匂いを好んで近寄り、逆にがんではない人の尿は嫌って遠ざかることが分かった。健康診断で採取した242人の尿を使って調べると、がんと診断された24人のうち、線虫は23人の尿を選ぶことができた[7][8]

この研究に携わった研究者がベンチャー企業を立ち上げ、線虫を使った膵臓がん疑い検査を2022年より開始することを発表している[9]

実用化された線虫がん検診の手法は企業秘密を含んでおり、生物の走性を利用して判別をおこなうことから、その客観性や精度に対しては一部の専門家や報道から疑念も示されている。疑念のひとつとして、検査や多くの研究がブラインド条件(二重盲検法など)でなく、主観のバイアスが混入する可能性が指摘されるが[10]、これに対し、線虫がん検診を実用化したHIROTSUバイオサイエンス社は、解析員が検査IDのみを知らされていることのほか、線虫が人間の意志を知りえないこと、判定が自動化されていることなどを挙げ、実質的にブラインド同様の検査であると反論している[11]

モデル生物としての線虫

線虫の一種である カエノラブディティス・エレガンス Caenorhabditis elegans(=C. elegans) は多細胞生物モデル生物として盛んに研究が行われ、受精卵から成虫に至る全細胞の発生、分化の過程が細胞系譜として明らかになっている[2]C. elegans 研究の創始者達3名は "Genetic regulation of organ development and programmed cell death" (器官発生とプログラム細胞死の遺伝的制御)で 2002年ノーベル生理学・医学賞を受賞している。

分類

分子系統解析によって分類は大きく再編されており、以下の体系も暫定的なものである。

特に表記のない分類群は自由生活性である。

系統

Meldal BH et al.(2007)によるリボソームDNAを用いた分子系統解析では、以下のような系統樹が得られている[12]

線形動物門

ニセハリセンチュウ綱 Dorylaimea

エノプルス綱 Enoplea

クロマドラ綱
Chromadorea

Microlaimoidea

クロマドラ目 Chromadorida

デスモドラ目 Desmodorida

モンヒステラ目 Monhysterida

イソレムス目 Isolaimida

アレオライムス目 Araeolaimida

Plectida

桿線虫亜目 Rhabditina

旋尾線虫亜目 Spirurina

茎線虫亜目 Tylenchina

従来の分類

頭部の感覚器の形態から、2つの綱に分けられていた。

双器綱 Adenophorea
双器と呼ばれる感覚器があるが、双腺はない[2]。ほとんどは寄生生活を送る。自由生活する種のほとんどは陸上で生活[13]
  • クロマドラ亜綱 Chromadoria
    • アレオライムス目 Araeolaimida
    • クロマドラ目 Chromadorida
    • デスモドラ目 Desmodora
    • デスモスコレクス目 Desmoscolecida
    • モンヒステラ目 Monhysterida
  • エノプルス亜綱 Enoplia
    • ドリライムス目 Dorylaimida
    • エノプルス目 Enoplida
    • シヘンチュウ目(糸片虫目) Mermithida
    • イソレムス目 Isolaimida
    • モノンクス目 Mononchida
    • ムスピケア目 Muspiceida
    • ベンチュウ目(鞭虫目) Trichocephalida
双腺綱 Secernentea
双器と双腺の両方がある[2]。ほとんどの種が水中で自由生活[13]
  • 桿線虫亜綱 Rhabditia
    • カイチュウ目(回虫目) Ascaridida
    • カンセンチュウ目(桿線虫目) Rhabditida
    • エンチュウ目(円虫目) Strongylida
  • 旋尾線虫亜綱 Spiruria
    • カマラヌス目 Camallanida
    • センビセンチュウ目(旋尾線虫目) Spirurida
  • ディプロガスタ亜綱 Diplogasteria
    • ヨウセンチュウ目(葉線虫目) Aphelenchida
    • ディプロガスタ目 Diplogasterida
    • クキセンチュウ目 Tylenchida

  1. ^ a b c d 藤田敏彦『動物の系統分類と進化』裳華房〈新・生命科学シリーズ〉、2010年、151-152頁。ISBN 9784785358426 
  2. ^ a b c d e 白山義久 著「線形動物門」、白山義久(編著) 編『無脊椎動物の多様性と系統(節足動物を除く)』裳華房〈バイオディバーシティ・シリーズ5〉、2000年、142-144頁。ISBN 4785358289 
  3. ^ a b c 読売新聞 2023年7月31日 30面
  4. ^ NHK NEWS WEB
  5. ^ 千葉修「殺線虫剤」『新版 林業百科事典』第2版第5刷 p184 日本林業技術協会 1984年(昭和59年)発行
  6. ^ 使用禁止農薬リスト” (PDF). 農林水産省. 2020年6月3日閲覧。
  7. ^ 毎日新聞2015年3月12日
  8. ^ Hirotsu T, Sonoda H, Uozumi T, Shinden Y, Mimori K, Maehara Y, et al. (2015-03-11). “A Highly Accurate Inclusive Cancer Screening Test Using Caenorhabditis elegans Scent Detection”. PLOS ONE 10 (3). doi:10.1371/journal.pone.0118699. ISSN 1932-6203. https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0118699. 
  9. ^ 線虫で膵臓がん疑い調査 ベンチャー企業、来年から”. 産経ニュース (2021年11月16日). 2021年11月16日閲覧。
  10. ^ 精度が疑問視された線虫がん検査、ブラインド条件での検証を望む:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル (2023年10月20日). 2023年11月25日閲覧。
  11. ^ 一部メディアでの報道について”. 2023年11月25日閲覧。
  12. ^ Meldal BH et al. (2007). “An improved molecular phylogeny of the Nematoda with special emphasis on marine taxa”. Mol Phylogenet Evol. 42 (3): 622-636. doi:10.1016/j.ympev.2006.08.025. 
  13. ^ a b 藤田敏彦『動物の系統分類と進化』裳華房〈新・生命科学シリーズ〉、2010年4月28日。ISBN 978-4785358426  pp.136-137.


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