組物
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/10 05:38 UTC 版)
歴史
青銅器、石窟寺院・壁画などにみられる例によると、既に中国戦国時代には組物の原型と考えられる柱上に横材を受ける緩衝構造が確認できる。また、『爾雅』(漢代初めの書物)には斗にあたる構造体である「閞」に関する記述がある。そして、四川省雅安県にある漢代の高頤墓闕(石造の門柱)では斗と肘木を確認することができる[14]。
日本には飛鳥時代に仏教公伝とともに組物を含む寺院建築の様式が朝鮮半島技術者により伝わり、6世紀末に飛鳥寺(法興寺)が建立されたのが最も早いと考えられる[15]。当時の組物がどのような物か定かではないが、飛鳥寺からの移築と考えられている元興寺極楽坊の禅室には年輪測定の結果582年ごろに伐採されたと考えられる木材で作られた巻斗が現存保管されており、飛鳥寺創建当初の遺構である可能性があるとされる[注釈 4][16]。7世紀半ばに建てられた山田寺には出土した組物部材により二手先か三手先が使われていた可能性が指摘されている[17]。
奈良時代になると組物を含む構造が進化し和様と呼ばれる建築様式の原型が完成する。組物の変化としては、薬師寺東塔以前では柱の上部で通肘木を重ねて固めた上で肘木と尾垂木を伸ばしていたが、唐招提寺金堂以降は組物の手先にも通肘木を入れて水平構面を安定させた上に尾垂木を乗せるようになった。こうした変化が生じたのには唐から新たな技術が伝わった可能性が考えられる[18]。
平安時代後期に至ると出組が普及し、以前の「桁は秤肘木で受ける」という古代建築のルールが崩れていく。さらに鎌倉時代に至ると出三斗が出現し、桁と梁を同じ高さで受けるようになる。出三斗の出現が枝割という日本独自の設計手法を生んだと考えられる[19]。
また、平安時代末期から鎌倉時代には中国(宋)から新たに挿肘木を用いる大仏様と詰組を用いる禅宗様という2つの建築様式が伝わった。
一方で、平安時代以降は屋根裏に桔木(はねぎ)という軒先を支える部材を新たに入れるようになり、組物の構造的な役割は薄まっていく[20]。 古代の組物は内部構造の外部への表出でもあったが、内部構造と一致しない組物が現れるようになる。 最も早い例は平安時代初期の室生寺金堂で、外周に同じ組物を使うという原則を守るため、言わば見栄えを重視したためと考えられる[21]。 その極致ともいえるのが般若寺楼門である。この楼門には大仏様木鼻が映える美しい出組が用いられているが、この組物は壁面にいわば貼り付けられたようなもので(桁は柱が直接支え、軒先は桔木が支える)装飾的な意味しかない[22]。このような変化は日本独自といえる[20]。
注釈
出典
- ^ 武井豊治 1994, p. 180.
- ^ 村田健一 2005, p. 363-368.
- ^ 太田博太郎 2019, p. 40.
- ^ 太田博太郎 2019, p. 65, 66, 100, 125, 126.
- ^ 太田博太郎 2019, p. 102.
- ^ 岡田英男 2005, p. 7.
- ^ 村田健一 2005, p. 374-375.
- ^ a b 村田健一 2006, p. 192-205.
- ^ 妻木靖延 2016, p. 68.
- ^ 妻木靖延 2016, p. 78-84.
- ^ 奈良県文化財保存事務所 1967, p. 17-18.
- ^ 片桐正夫 1995, p. 179.
- ^ a b 文化財建造物保存技術協会 1995, p. 22-26.
- ^ 藤井恵介 1994, p. 10.
- ^ 藤井恵介 1994, p. 4.
- ^ 村田健一 2006, p. 137-138.
- ^ 清水重敦、西田紀子 2007, p. 41-46.
- ^ 村田健一 2006, p. 48-59.
- ^ 村田健一 2006, p. 87-89.
- ^ a b 村田健一 2006, p. 82-84.
- ^ 藤井恵介 1994, p. 25-26.
- ^ 藤井恵介 1994, p. 43-46.
- ^ 西和夫 1990, p. 103.
- ^ 武井豊治 1994, p. 246.
- ^ 武井豊治 1994, p. 14,42,232.
- ^ 武井豊治 1994, p. 224.
- ^ 武井豊治 1994, p. 208.
- ^ 武井豊治 1994, p. 288.
- ^ Dougong: The enduring appeal of an ancient Chinese building technique(CNN 2017年9月1日)
- ^ 文化庁. “文化財愛護シンボルマーク”. 文化庁サイト. 2022年9月7日閲覧。
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