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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/26 18:02 UTC 版)

写真印刷

(a) 凹版はセルの深さで濃淡を表現できる。
(b) 凸版は網点の大きさで濃淡を表現する。

凹版

凸版や平版と異なり凹版では画線部を凹部で製版する。凹版印刷の代表であるグラビア印刷では、くぼみ(「セル」という)の深さにより印刷されるインキの量を調整できるため、網点を使うことなく色の濃淡を表現することができる。これをコンベンショナル法という。現在グラビア印刷で主流は網グラビア法で、これは網点を使った印刷手法である。

網点

モノクロ網点、45°スクリーン
同じ写真のカラー/CMYK網点
CMYK網点スクリーン角度の例

写真に連続階調があるのに対し、凸版印刷、平版印刷では白黒の場合、白と黒の2階調しか出力できない。そこで網点(ハーフトーンドット)の大小によって写真の濃淡を表現している。(網版法)

この手法が印刷に用いられるようになったのは、ドイツのマイゼンバッハらの発案を元に、1886年、アメリカのレビー兄弟が網スクリーンの実用化に成功したのが始まりである[35]

製版には黒と白しか出ない超硬性のリスフィルムが使用される。フィルムの前に一定の距離を空けてコンタクトスクリーン(網スクリーン)を置く。このスクリーンは格子状に光が透過する模様が入っており、写真の濃淡を黒い網点の大小に置き換えてリスフィルムに焼き付ける効果を持つ。こうして作られた網ネガが製版フィルムとなる。

なお、網の細かさは「網点の数/インチ」で表わされ、それをスクリーン線数という。新聞などインキのにじみやすい紙質のものは85線(1インチに85個の網点)、一般書籍は100線、写真中心の画集などは175線といった具合である。

凸版ではこうしてできた製版フィルムと亜鉛版(もしくは銅版)に感光剤を塗布したものを組み合わせて露光する。感光した部分だけが硬化して残り、他の部分が洗い落とされる。この亜鉛版を塩酸で腐食させることで感光した部分だけが凸状に残った写真版(網版)が出来上がる。活字と写真版から組版により印刷に用いる原版が出来上がる。

オフセット印刷に代表される平版でも基本的な原理は同じである。文字原稿から写植あるいは電算写植により版下が作成され、写真はコンタクトスクリーンによる露光によって網ネガが作られて、文字版下と組み合わされ網ポジが作られる。この網ポジがPS版に焼き付けられて製版される[35]

同人誌などをオフセット印刷に回す場合、濃淡部分は事前に網点化(網掛け/網入れ)しておくと料金が安く済むことが多い。個人用のプリンターで印刷したものの場合、既にこの処理は行われている。

カラー写真の場合、製版時にCMYK各色用フィルターを用いるなどして4色分解を行い、それぞれの色に対応した版を作る。この時用いる網スクリーンは格子の角度をそれぞれの色ごとに10~15度ずつずらしたものを使い、モアレの発生を抑制している。

2015年現在、商業印刷で主流のオフセット印刷では最新のCTPダイレクト刷版により製版フィルムが不要になっているケースがある。CTPによって写真は電子的に色分解や網点化が行われるため、スクリーンを使った光学的な置換はもはや行われない。


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