全血球計算 白血球

全血球計算

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/29 05:04 UTC 版)

白血球

白血球とは、主に生体防御・免疫に関与する、核のある血液細胞である。赤血球と異なり、無染色では無色なので、「白」血球とよばれる。 通常、好中球リンパ球単球好酸球好塩基球の5種類に分画(分類)される(目視分類では、好中球は、さらに、桿状核球分葉核球に分類されることも多い)。 リンパ球の容積は50-100 fL程度で赤血球(80-100 fL程度)に近いが、その他の白血球は赤血球より大きく、単球・好酸球・好塩基球で100-200 fL程度、好中球で200-400 fL程度である[6]

白血球数

白血球は末梢血中には4000から8000 /μL程度存在するが、生理的変動も個人差[※ 9]も大きい。 高度の異常値でない限り、ワンポイントの白血球数だけでは臨床的意義を判断することは難しく、前回値との比較や臨床的状況との対比を要する。 さらに、白血球分画でどの分画の白血球が増えているかを確認する必要がある[20]。 また、自動血球計数機では骨髄芽球など腫瘍性細胞の確実な検出は難しいため[※ 10]、原因不明の白血球数の異常の精査には末梢血塗抹検査が必要になる[20][4]

生理的変動

あきらかな性差はないが、妊娠中は増加する。 小児の白血球は成人より多く(特に新生児)、成長につれて低下し6歳前後で成人とほぼ同様になる。加齢による変化はほとんどない。 ストレスや運動で高値となり、また、食後はやや増加する。喫煙者は高値傾向がある[2][8]:33-37。 血漿量の変動によるものについては「#生理的変動」を参照されたい。

白血球増多症

白血球数は個人差が大きいが、通常、1万 /μL以上を白血球増加とすることが多い。 成人では白血球のもっとも多い分画は好中球であり[※ 11]、白血球増加は、通常、好中球増加による。 リンパ球増加によることもありうる(たとえば小児の百日咳)が、その他の単球・好酸球・好塩基球によることはまれである[19]

反応性

細菌・ウイルス感染症、組織障害(熱傷、外傷、術後、痛風発作、など)、臓器の虚血性壊死(心筋梗塞など)、 悪性腫瘍、各種の重篤な疾患・状態、ストレス(痙攣、疼痛、激しい運動)などで白血球増加がみられる[19]

薬剤

顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)による白血球の動員と造血の亢進、糖質コルチコイドによる白血球の流血中への移動、などがあげられる。

血液腫瘍

急性白血病急性骨髄性白血病急性リンパ性白血病)では、幼弱な芽球などの増加がみられる。 慢性リンパ性白血病では成熟リンパ球の増加がみられる。慢性骨髄性白血病・原発性骨髄線維症真性多血症では幼若なものを含む顆粒球(好中球、好酸球、好塩基球)の著しい増加がみられる。

白血球減少症

通常、4000 /μL以下を白血球減少とすることが多い[19][※ 12]。 白血球減少は、通常、白血球の大部分を占める好中球の減少(好中球減少症)、次いでリンパ球の減少による。単球・好酸球・好塩基球の減少により有意な白血球減少を来すことはない。

産生低下
  • 骨髄の造血機能の異常:再生不良性貧血骨髄異形成症候群、ビタミンB12や葉酸欠乏、など。
  • 薬剤・放射線:抗悪性腫瘍剤や悪性腫瘍の放射線療法による造血機能の障害で、通常、一過性の白血球減少がみられる。
  • 悪性腫瘍:白血病、癌の骨髄転移、などで骨髄の造血機能が障害された場合に白血球減少がみられる。
破壊の亢進
  • 脾機能亢進:門脈圧亢進症脾腫などで軽度の白血球減少がみられる。

白血球分画

自動血球計数機は白血球を5分画(好中球リンパ球単球好酸球好塩基球)して計数する機能を持っているものが多く、 血算と同時に測定・報告される。機種によっては、さらに、末梢血幹細胞、造血前駆細胞などの分画を測定可能なものもある[4][9]

白血球分画」、「末梢血塗抹検査#白血球分類」も参照されたい。


  1. ^ 動脈血は静脈血に比べ薄く毛細管血はその中間である(心臓から拍出された動脈血は、静脈血およびリンパ液として心臓に戻る。リンパ液の分だけ静脈血は濃縮されていることになる)ので、血球数やヘモグロビンは、静脈血以外では若干低値になる。
  2. ^ 血中のヘモグロビンは、酸素化ヘモグロビン、還元型(脱酸素化)ヘモグロビン、鉄イオンが酸化されたメトヘモグロビン、一酸化炭素と結合したカルボキシヘモグロビン、など、さまざまな形態で存在し、それぞれ、吸収スペクトル(波長ごとの吸光度)が異なる。シアン化カリウムとフェロシアン化カリウムを含む試薬で処理してそれらを全てシアンメトヘモグロビンに変換して波長540 nmの吸光度を測定することにより、正確なヘモグロビン定量結果が得られる。なお、シアンを含む試薬の環境負荷を避けて界面活性剤を使用する機種もあるが、ヘモグロビンの形態を統一する原理は同じである。
  3. ^ WHOの貧血の定義は世界共通のものであるが、高地や喫煙者では調整、すなわち、より閾値を高くする必要がある。
  4. ^ MCVの「C」は、通常、corpuscular(血球)の略であるが、cell(細胞)の略とされる場合もある。MCH、MCHCについても同様である。
  5. ^ a b 慢性疾患(炎症)に伴う貧血とは、慢性感染症、膠原病、悪性腫瘍などさまざまな全身疾患に伴う二次性貧血であり、その主な機序は慢性の炎症に伴う鉄利用障害である。正球性であることが多いが、鉄欠乏性貧血と同様に小球性貧血の形を取ることもありうる。
  6. ^ 網赤血球と網状赤血球は同義であるが、内科学会・血液学会が正式の用語としているのは網赤血球である。
  7. ^ ニューメチレンブルー、ブリリアントクレシルブルー、などの塩基性色素は生きた細胞に吸収されてRNAが染色される。これを超生体染色(または生体染色)とよんでいる。
  8. ^ 網赤血球比率の単位は、かつてはパーミル(千分率)が用いられたが、近年はパーセント(百分率)で表現することが多い。
  9. ^ 健常人では、循環血好中球(末梢血液中に存在して循環し血算でカウントされる)と血管辺縁好中球(血管内皮細胞付近にとどまっていて、採血では存在を知ることができない)がほぼ同数であるが、分布異常により、みかけの白血球増多または減少を呈する人がいる。特に臨床的意義はない。
  10. ^ 自動血球計数機には、芽球や未熟な顆粒球、左方移動、異常リンパ球、などが疑われる場合は警告フラグを立てる機能をもつものも多い。検査室では、施設ごとの基準により、警告フラグが出たものの中から末梢血塗抹検査を追加するものを選択する。
  11. ^ 乳幼児では、出生直後を除き、3、4歳ごろまでリンパ球が好中球よりも優位である。
  12. ^ 白血球数の日本人共用基準範囲は3300から8600 /μLであり、健常人でも4000 /μL以下の例が多数存在することに留意すべきである。
  13. ^ 巨大血小板症候群や、ときに骨髄異形成症候群でもみられる巨大血小板は自動血球計数機で血小板と認識されず、実際よりも低値で報告されることがある。
  1. ^ a b 吉冨一恵, 上硲俊法「血液検査室の流れ:血球算定から骨髄像検査まで」『近畿大医誌』第34巻、2009年、275-284頁。 
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