倫理委員会
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歴史
人間を対象とする実験(人体実験)において最も基本的な倫理原則のひとつは、実験者はいかなる場合においても被験者が望まない実験を行ってはならないということである。この考えは、1947年のニュルンベルク綱領において初めて成文化された[10]。 この綱領は、価値のない実験で被験者を殺害し拷問した医師らを裁いたニュルンベルク継続裁判のひとつ医者裁判の結果定められたもので、被告医師のうちには絞首刑に課せられた者もいた。綱領の第5項は、実験者自身も被験者となるような場合を除いては危険な人体実験は行ってはならない、としている。このニュルンベルク綱領は後に世界中の医療倫理規範に影響を与え、タスキギー梅毒実験のような綱領に反する悪名髙い実験も明るみに出ることとなった[11]。1966年には、「倫理と臨床研究(ビーチャー論文)」を書いたハーバード大学医学部麻酔学教授のヘンリー・ビーチャー博士が、インフォームド・コンセントのための規則と条件を定義することと共に、研究プロトコルに関する追加の監視体制としてこの倫理委員会体制を設立することに取り組んだ[12] [13]。
この他、たとえその被験者が罹患する可能性が低い疾病の治療に関して遠い将来に可能性があるだけというような利益だとしても、ボランティア被験者が当該実験や研究から何らかの利益を得なければならない、とする倫理原則もある。 治療が不可能な病気に苦しむ患者に対してときに実験薬の試験が行われることもあるが、研究者自身がその病気にかかっていない場合はその研究者が被験者となったとしても利益を得る可能性はないため、被験者となり得ない。一例として、研究者ロナルド・C・デロシアーズ(Ronald C. Desrosiers)は、自分が開発していたエイズワクチンを自身でテストしなかった理由を問われ、自分はエイズのリスクがなかったのでテストをしても利益がなかったであろうからと答えている[14]。
倫理委員会の監督において重要なのは、被験者からインフォームド・コンセントを得ることを確実にすることである。インフォームド・コンセントは、実験に参加するボランティアが、行われる手順を完全に理解し、関係するすべてのリスクを認識し、実験が行われる前に実験への参加に同意するという原則である。インフォームド・コンセントの原則は、1901年にキューバで行われたアメリカ陸軍の黄熱病調査で最初に定められたが、当時は一般的で公式な指針などはなかった[15]。黄熱病問題のときの原則がニュルンベルク綱領起草の際に参照され[16]、1964年世界医師会によるヘルシンキ宣言でさらに発展し、この倫理委員会制度の基礎となっていった[1]。
ヘルシンキ宣言の最初の改訂では、人体実験における研究プロトコル(計画書)を承認するために倫理委員会を招集することが初めて国際指針に記載された(Helsinki II、1975)[17]。発展途上国でのプラセボ試験に関する第4回目の改訂(1996年)を巡っては議論も起きている。これは米国がインドで行った抗HIV薬ジドブジンの試験は同宣言に違反していると批判するものであり、これを受けてアメリカ食品医薬品局はヘルシンキ宣言の新改訂版の採択をせず、代わりに1989年の改訂版を参照することとなった[18]。
倫理委員会は、世界保健機関が設立した機関である国際医科学団体協議会(CIOMS)が作成した「人を対象とする生物医学研究の国際的倫理指針」でも設置が求められている。1993年に初めて公開されたCIOMSガイドライン(CIOMS倫理指針)は、法的効力を持たないものの各国の倫理委員会制度起草に影響を及ぼしてきた。また発展途上国での感染症問題を念頭においた指針であることも特徴のひとつである[19][20]。
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- ^ Carlson, Boyd & Webb, pp. 698-699 Levine, p. 170
- ^ “人を対象とする生物医学研究の国際倫理指針(2002)”. 生命科学連携推進協議会. 2019年5月31日閲覧。
- ^ Largent, p. 207
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