リー群 構造

リー群

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/16 13:43 UTC 版)

構造

リー群は標準的に、離散リー群、単純リー群、可換リー群に以下のように分解される: ここでリー群 G に対して

G0G の単位元を含む連結成分、
GsolG の最大の連結可解正規部分群、
GnilG の最大の連結正規冪零部分群、

とすると、次の正規列がえられる:

1 ⊂ GnilGsolG0G

そしてこのとき、

G/G0 は離散的、
G0/Gsol は連結単純リー群の積の中心拡大、
Gsol/Gnil 可換リー群(これはユークリッド空間とトーラスの積として書ける)、
Gnil/1 は冪零、したがって特にその昇中心列の組成因子は可換群。

これにより、リー群に対する問題の一部(たとえばリー群のユニタリ表現を求める問題など)は連結単純リー群の同種の問題に帰着して考えることができる。

付随するリー環

リー群に対して、その単位元における接空間(を台となるベクトル空間としてそれに積を定義したもの)としてリー環を対応付けることができる。このリー環は、もとのリー群の局所的な構造を完全に反映しており、リー群に付随するリー環と呼ばれる。このリー環の元は、略式的には(ユークリッド空間内にある曲面の古典的な接平面に対するイメージをそのまま反映して)リー群の単位元に無限に近いところにある元であると見ることができるし、リー環の括弧積はそのような無限小の交換子が定めるものと考えることができる。厳密な定義に先立って例を挙げる:

可換リー群 Rn のリー環はちょうど Rn に括弧積を、任意の A, B に対して

[A, B] = 0.

とおくことによって与えたものである。一般に、付随するリー環の括弧積が恒等的に 0 となることは対応するリー群が可換群であることに同値である。

一般線型群 GLn(R) のリー環は全行列環 Mn(R) に

[A, B] = ABBA

なる括弧積を入れたものである。

GGLn(R) の閉部分群なら、G のリー環は略式的に Mn(R) に属する行列 mであって 1 + εmG に属すようなもの全体からなるものと見ることができる。ここで ε は正の無限小で、ε2 = 0 となるもの(もちろん実数ではない)である。例えば直交群 On(R) (AAT = 1 となる行列 A の全体)に付随するリー環は

(1 + εm)(1 + εm)T = 1

あるいは ε2 = 0 と考えると同じことだが

m + mT = 0

となる行列 m の全体からなる。

上で与えた即物的な定義は安直で使い易いものであるが、いくつか問題がある。たとえば、この定義を考える前にリー群を行列群として表現できている必要があるが、任意のリー群を考えるときにはそんなことはできないし、また表現の仕方によらず対応するリー環が定まるかどうかということはまったく明らかなことではない。これらの問題はリー群に付随するリー環の一般的な定義を与えることで回避される。定義以下のような考察に従って与えられる:

  1. 可微分多様体 M 上のベクトル場は、M 上の滑らかな関数のなす環の微分 X と考えることができる。 また、二つの微分 X, Y に対して、そのリー括弧積 [X, Y] = XYYX は再び微分となるので、この括弧積のもとでベクトル場の全体をリー環にすることができる。
  2. G が可微分多様体 M に滑らかに作用するリー群とすると、G の作用を関数環へ移行し、さらに微分に移行することで G はベクトル場に対して作用させることができる。この G の作用によって不変なベクトル場全体のなすベクトル空間は、リー括弧積に関して閉じているのでリー環となる。
  3. この構成法をリー群 G に、その台の多様体構造に着目して適用する。つまり、GG = M に左からの積で作用していると見なすと、G 上の左不変ベクトル場の全体はベクトル場のリー括弧積のもとでリー環となる。
  4. リー群の単位元における接ベクトルはどれも(それを群の左移動作用で各点に移し変えることにより)左不変ベクトル場に拡張することができる。これにより、単位元 e における接空間 Te と左不変ベクトル場全体の作るベクトル空間とを同一視して、接空間をリー環にすることができる。これをリー群 G のリー環(G に付随するリー環、G に対応するリー環)と呼んで、リー群を表すのに使っている文字の対応する小文字(慣習的にドイツ文字を用いることが多い)を充てて表す。例えばリー群を G で表しているのなら、そのリー環は g で表す。 また Lie(G) などとして付随するリー環を表すこともある。

リー群に付随するリー環は有限次元で、とくに元のリー群と同じ次元を持つ。リー群 G に付随するリー環 g は局所同型の違いを除いて一意に定まる。ここで、二つのリー群が「局所同型」であるとは、単位元の適当な近傍を選ぶと、その上で同型対応がとれることをいう。リー群に対する問題は、対応するリー環に対する問題を先に解決し、その結果を用いることによって(通常は簡単に)解決されるということがよくある。例えば、単純リー群の分類問題は対応するリー環の分類をまず済ませることによって解決される。

左不変ベクトル場を用いる代わりに右不変ベクトル場を用いても、単位元における接空間 Te にリー環の構造を入れることができるが、この場合も左不変ベクトル場を用いたと同じリー環が定まる。これは、リー群 G 上で逆元をとる写像を考えると、それを移行して右不変ベクトル場と左不変ベクトル場が対応付けられ、特に接空間 Te 上では −1 を乗じる操作として作用することから従う。

接空間 Te 上のリー環構造は次のように記述することもできる: 直積リー群 G × G 上の交換子作用素

(x, y) → xyx−1y−1

は (e, e) を e に写すので、その微分は Te 上の双線型作用素を引き起こす。この双線型作用素は実際には零写像なのだが、接空間との厳密な同一視の元で、二階微分はリー括弧積の公理を満たす作用素を引き起こし、それは左不変ベクトル場を用いて定義される場合のちょうど二倍に等しい。

準同型と同型

G, H をリー群(実なら双方とも実、複素なら双方とも複素)とする。写像 f: GHリー群の準同型であるとは、f は抽象群としての群準同型であって、かつ f解析的であるときにいう。ただし、f が「解析的」であるという条件を「連続」であるという条件に弱めても定義としては同値になることが示せる。文脈上リー群の準同型であると明らかなときは単に準同型とよぶ。リー群準同型の合成はまたリー群準同型である。全ての実リー群のなす、あるいは全ての複素リー群のなす類に、それぞれの意味でのリー群準同型を射と見なしてリー群のができる。二つのリー群が同型であるとは、その間に全単射なリー群準同型で、その逆写像もまたリー群準同型になるようなものが存在することをいう。同型なリー群同士を区別する必要は実用上はなく、それらは単に元の表し方が異なるだけだと考えられる。

リー群の準同型 f: GH は付随するリー環たちの間の準同型

を引き起こす。したがって、リー群をそれに付随するリー環へ移す対応 "Lie" は関手である。

アドの定理の一つの形は、有限次元リー環は行列リー環に同型であると述べられる。有限次元の行列リー環に対しては、それを付随するリー環にもつような線型代数群(行列リー群)が存在するので、したがってどんな抽象リー環もある行列のリー群のリー環として記述することができる。

リー群の大域的構造をそのリー環によって完全に記述することは一般にはできない。たとえば ZG の中心に属する任意の離散群としてやると、 GG/Z は同じリー環をもつ。しかしながら連結リー群に関しては、それが単純、半単純、可解、冪零あるいは可換となることが、付随するリー環の対応する性質が成り立つことに同値であるということができる。

リー群が単連結であることを仮定すると、その大域的構造はそのリー環によって完全に決定される。任意の有限次元リー環 g に対して、単連結リー群 G でそのリー環が g であるものが同型を除いて唯一つ定まる。さらに、リー環の準同型は対応する単連結リー群の間の準同型へ一意的に持ち上げられる。


  1. ^ 多くの場合無限回微分可能を含意する。
  2. ^ 群演算が可微分写像となっていることを「群演算が可微分多様体の構造と両立する(可換である、あるいはうまくいっている)」といい表す。
  3. ^ 正確には、ある代数閉体上の一般線型群の部分群であって、成分代数方程式によって与えられる。






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