ポータブルストーブ 無加圧式液体燃料ストーブ

ポータブルストーブ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/12/21 05:59 UTC 版)

無加圧式液体燃料ストーブ

トランギア製シングルバーナーアルコールストーブ

アルコールストーブ

アルミ空き缶を用いた自製アルコールストーブ

アルコールストーブは液体燃料ストーブの中でも最も簡素で軽量な構造を持つ。バーナーは燃料タンク部と一体構造であり、バーナーの熱が直接タンク部分に伝わってタンク内のアルコールの気化が促進され、燃焼状態が維持される。なお、一般的にはアルコールストーブというと上記のような液体燃料式を指す事が殆どであるが、固形燃料化されたアルコールメタノール)を用いる固形燃料ストーブも広義の意味では含まれうる。

アルコールストーブの最大の特徴は極めて小さく軽量であるという点に尽きる。そして極めて簡素な構造の為、どんな環境でも確実に作動する事も長所である。その為、海外のバックパッカーの装備スタイルであるen:Ultralight backpackingにおいては、装備を極限まで軽量化する為に液体燃料式アルコールストーブが好んで使用される。また、固形燃料式アルコールストーブはコンパクトな上に固形燃料の大きさによって燃焼時間がある程度制御できる為、緊急時の非常用燃料としても多用されている。[9]

アルコールストーブの既製品で最も著名な物は、軍需品としての採用実績もあるスウェーデンのトランギア製のシングルバーナーストーブであろう。同社の製品は個人用シングルバーナーのみならず様々な用途に適した大きさのアルコールストーブが揃えられている。固形燃料化されたアルコール燃料としては、en:Sterno社製のジェル状アルコールが著名である。このジェル状アルコールは後述の加圧式液体燃料ストーブのプレヒート作業に使用される事も多い。

なお、アルコールストーブはアルミ等の円筒形のプルトップ缶を用いて自作する事も可能である。その為、海外ではアルコールストーブの事をen:beverage can stoveやPepsi can stovesと呼ぶ場合がある。

スピリッツストーブ

ツーバーナーのスピリッツストーブ。熱出力自体はガスストーブよりも弱い

スピリッツストーブとは、燃料にスピリッツ(エタノール)を用いる大型ストーブである。燃料タンクはバーナーの横または後方に配置され、自然流下の形でバーナーに燃料を供給する。そしてバーナーヘッド自体の熱でスピリッツは気化が促進され、燃焼状態が維持される。スピリッツストーブはアルコールストーブと比較して大火力であり、プレヒートなどの作業も他の液体燃料式ストーブと比べて簡易な事から、伝統的にプレジャーボート等の船舶に備え付けられる可搬型ストーブとして多用されてきた。しかし近年ではより大火力で燃料の管理も楽なプロパンガス式ストーブに置き換えが進んでいる。[10]

スピリッツストーブの構造はプリムス・ストーブの構造にやや類似している。最初に燃料のスピリッツを少量出してバーナーの下部のプレヒート皿に蓄え、プレヒート皿のスピリッツに着火する。プレヒート皿からの熱でバーナーヘッドが熱せられ、ヘッド内のスピリッツの気化が促進されるとジェット状の炎が噴出するようになる。

スピリッツストーブは外見や燃焼音のみを見ると加圧式液体燃料ストーブのような印象を受けるが、実際には燃料タンクには加圧を行なっていない。スピリッツはガソリンと比較すれば安全な燃料であるが、キャビンの容積が小さい小型ボートではこのようなものであっても火災のリスクとしては無視できない要素であるため、その使用には細心の注意が払われる事が常である。


注釈

  1. ^ ガスの性質上、気温が極端に低い地域や気圧の下がる高地では使用が難しいという弱点も存在するがガスの成分を調整し、ある程度の低気温に対応したものなども登場。極限の環境に挑む、こだわりがあると言った場合でもない限りガスストーブを選択するユーザーが大半である。
  2. ^ これは初期のノートパソコンの分類にも見られた傾向である。世界初のポータブルPCと言われたIBM 5100は重量が25kgもある代物であったが、当時の巨大なメインフレームとは比較にならないほど小型で人力で運搬可能であったためにポータブルコンピュータと銘打たれた。
  3. ^ その後登場したポータブルストーブではジェネレーターと呼ばれる場合もある。
  4. ^ このようなものである。映像で紹介されているモデルは最も小さなSHC-88であるが、これでも一般的に大型とされるクラスのガソリンストーブよりも遙かに巨大である。
  5. ^ 家庭用カセットコンロ向けの安価なガスカートリッジを利用した場合、あまり大きな差は発生しないどころか酒税の観点からカセットコンロのほうが安く付く場合があり、またホワイトガソリンについてもリットル当たりの単価次第では逆転が起こりうる。固体燃料も同様であり、日本市場に限定した場合、選択肢次第ではガスカートリッジが最もコストが低くなることが発生し得る。
  6. ^ プロパンガスやカセットコンロ用ガスを用いてガスを詰め替える為の器具や、それらと口金を変換するアダプターは存在するが、殆どのストーブメーカー、ガスカートリッジメーカーはこのような器具の使用は推奨していない。
  7. ^ 前述されるが、カセットコンロが非常に広く普及している日本市場では逆に安くなる場合もある。
  8. ^ 日本国内の場合、一般的には入手できないのでこの点は問題にならない。
  9. ^ 自動車以外への給油となるため、専用の携行缶が必要で、かつガソリンスタンドがフルサービスの場合は問題とならないがセルフサービスの場合は可否が店舗により異なる(終日可能、一部時間帯のみ可能、終日不可に分かれる)、防犯上の観点から給油時に住所・氏名等をガソリンスタンド側に記録させる必要がある、等。

出典

  1. ^ W. Keen, ed. "Surgery, Its Principles and Practice", p.122 (W.B. Saunders 1921)
  2. ^ S. Shiring, et al., "Introduction to Catering: Ingredients for Success", p. 33 (Cengage Learning 2001)
  3. ^ A. Soyer, "The Modern Housewife Or Ménagère: Comprising Nearly One Thousand Receipts for the Economic and Judicious Preparation of Every Meal of the Day, and Those for the Nursery and Sick Room: with Minute Directions for Family Management in All Its Branches", pp. 451-52 (Simpkin, Marshall & Co. 1851)
  4. ^ E. Morris, "The Rainy Day in Camp", in Outing Magazine p. 231 (July 1919)
  5. ^ J. Smith, "Kitchen Afloat: Galley Management and Meal Preparation", pp.47-49 (Sheridan House 2002)
  6. ^ M. Mouland, "The Complete Idiot's Guide to Camping and Hiking", p. 324 (Alpha Books 1999)
  7. ^ C. Fletcher, "The Complete Walker III: The Joys and Techniques of Hiking and Backpacking", p. 229 (Knopf 1984)
  8. ^ B. McKeown, "Start Camping the Easy Way – By Car", in Popular Mechanics Magazine, at p. 102 (March 1976)
  9. ^ J. McCann, "Build the Perfect Survival Kit: Custom Kits for Adventure, Sport, Travel", p.54 (Krause Publications 2005)
  10. ^ G. Buehler, "The Troller Yacht Book", p. 99 (W. W. Norton & Co. 1999)
  11. ^ G. Rottman & I. Palmer, "German Field Fortifications 1939-45", (Osprey Publishing 2004) p. 37
  12. ^ D. Ladigin & M. Clelland, "Lighten Up!: A Complete Handbook for Light and Ultralight Backpacking", pp. 61-62 (Globe Pequot 2005)
  13. ^ ネイチャーストーブを選ぶ3つの魅力とは?他メーカーと比較しよう
  14. ^ C. Jacobson & L. Levin, "Basic Illustrated Camping", (Globe Pequot 2008) p. 33
  15. ^ E. Garvey, The New Appalachian Trail", p. 67 (Menasha Ridge Press 1997)
  16. ^ Primus Catalog, p.8 (1903)
  17. ^ Primus Catalog No. 8126, p. 17 (undated; circa 1935)
  18. ^ Backpacker Magazine, p. 138 (May 1998)
  19. ^ H. Manning, "Backpacking: One Step At A Time", p.274 (Vintage Books 1980)
  20. ^ K. Berger & R. Hildebrand, "Advanced Backpacking: A Trailside Guide", p. 183 (W. W. Norton & Co. 1998)
  21. ^ J. Weinberg, "The Everything Guide to Starting and Running a Catering Business: Insider's Advice on Turning Your Talent Into a Career", p. 144 (Everything Books 2007)
  22. ^ D. Getchell, "Gas Pains", in Backpacker Magazine, p. 101 (April 1994)
  23. ^ Backpacker Magazine, p. 56 (March 1994)
  24. ^ C. Townsend, "The Advanced Backpacker: A Handbook of Year-Round, Long-Distance Hiking", p. 164 (McGraw-Hill 2000)
  25. ^ Q13:カセットボンベはどのくらいの低い気温で使えますか。
  26. ^ EPIgassGASCARTRIDGES190エクスペディションカートリッジ
  27. ^ M. Rutter, "Camping Made Easy", pp. 61-62 (Globe Pequot 2001)
  28. ^ M. Goldberg & B. Martin, "Hiking and Backpacking", p. 77 (Human Kinetics 2007)
  29. ^ L. Haney, "Camping in Comfort: A Guide to Roughing It with Ease and Style", p. 90 (McGraw-Hill 2007)






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