ナフタレン 歴史

ナフタレン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/05 22:00 UTC 版)

歴史

1820年代初頭、コールタールの蒸留によって得られる刺激臭のある白色固体について2つの別々の報告がなされた。1821年、ジョン・キッドはこれら2報の発表を引用し、この物質の性質の多くとその生産方法について記述した。キッドは、この物質がナフサの一種から得られていたため、「naphtaline」という名称を提案した[4]。ナフタレンの化学式マイケル・ファラデーによって1826年に決定された。2つのベンゼン環が縮環した構造は1866年にエミール・エルレンマイヤーによって提唱され[5]、その3年後にカール・グレーベによって確認された。

構造および反応性

ナフタレン分子は1組のベンゼン環が縮環したものとして見ることができる。このため、ナフタレンはベンゼノイド多環芳香族炭化水素 (PAH) に分類される。ナフタレンには2組の等価な水素原子がある。α位は1、4、5、8位であり、β位は2、3、6、7位である。

ベンゼンとは異なり、ナフタレン中の炭素-炭素結合は全て同じ結合長ではない、C1-C2、C3-C4、C5-C6、C7-C8間の結合は約1.36 Å(136 pm)であるのに対して、その他の炭素-炭素結合の長さは約1.42 Å (142 pm) である。この差異は3つの共鳴構造を含むナフタレン中の結合の原子価結合モデルと一致する。C1-C2、C3-C4、C5-C6、C7-C8間の結合は3つの共鳴構造のうち2つで二重結合であるが、その他の結合は1つのみで二重結合となる。

ベンゼンのように、ナフタレンは芳香族求電子置換反応を受ける。多くの芳香族求電子置換反応において、ナフタレンはベンゼンよりも穏和な条件で反応する。例えば、ベンゼンおよびナフタレンはどちらも塩化鉄(III) あるいは塩化アルミニウム触媒の存在下で塩素と反応するが、ナフタレンおよび塩素は触媒がなくとも反応して1-クロロナフタレンを形成する。同様に、ベンゼンおよびナフタレンはともにフリーデル=クラフツ反応によってアルキル化されるが、ナフタレンは硫酸あるいはリン酸を触媒としたアルケンあるいはアルコールとの反応によってアルキル化することもできる。

ベンゼン上で起こる通常の反応はナフタレンでも起こる。芳香族求電子置換反応の位置選択性は反応によって異なるが、α位の置換は速度論的に、β位の置換は熱力学的に有利とされる。ニトロ化など、加熱を必要としない求電子反応はもっぱら α位で起こる。スルホン化など、加熱下に起こる可逆的な求電子置換反応については β-置換体を優位に与える場合がある。これは、立体障害の低い β-置換体のほうが熱力学的に安定であることによる。

ナフタレンを適切な条件で酸化するとナフトキノンを生成する。水素化によりテトラリンデカリンを与える。

命名法

置換位置接頭辞

ナフタレンはモノ置換体が2種類、ジ置換体は10種類あり、そのうち2種、9種については置換位置を示す接頭辞がつけられている。接頭辞はナフタレンまたはそのヘテロ置換複素環化合物で使用されることがあるが、IUPAC命名法では接頭辞ではなく位置番号を使う方法が推奨されている。

ナフタレンの接頭辞

モノ置換体(一置換体)

接頭辞 読み 位置番号
α- アルファ 1 or 4 or 5 or 8位
β- ベータ 2 or 3 or 6 or 7位

ジ置換体(二置換体)

接頭辞 読み 位置番号
o- オルト 1,2位
m- メタ 1,3位
p- パラ 1,4位
ana- アナ 1,5位
ε- エピ 1,6位
kata- カタ 1,7位
peri- ペリ 1,8位
pros- プロス 2,3位
amphi- アンフィ 2,6位
註)2,7位ジ置換体には接頭辞が無い。

  1. ^ 木村修次・黒澤弘光『大修館現代漢和辞典』大修館出版、1996年12月10日発行(770ページ)
  2. ^ “Odor as an aid to chemical safety: Odor thresholds compared with threshold limit values and volatiles for 214 industrial chemicals in air and water dilution”. J Appl Toxicology 3 (6): 272–290. (1983). doi:10.1002/jat.2550030603. PMID 6376602. 
  3. ^ 経済産業省生産動態統計・生産・出荷・在庫統計 Archived 2011年5月22日, at the Wayback Machine.平成20年年計による
  4. ^ John Kidd (1821). “Observations on Naphthalene, a peculiar substance resembling a concrete essential oil, which is produced during the decomposition of coal tar, by exposure to a red heat”. Philosophical Transactions 111: 209–221. doi:10.1098/rstl.1821.0017. 
  5. ^ Emil Erlenmeyer (1866). “Studien über die s. g. aromatischen Säuren”. Annalen der Chemie und Pharmacie 137 (3): 327–359. doi:10.1002/jlac.18661370309. 
  6. ^ NTP: Long-Term Abstracts & Reports Archived 2004年10月24日, at the Wayback Machine. - Technical Reports 410, 500 を参照
  7. ^ 平成27年11月の特定化学物質障害予防規則・作業環境測定基準等の改正 (ナフタレンおよびリフラクトリーセラミックファイバーに係る規制の追加”. 厚生労働省. 2016年8月29日閲覧。
  8. ^ Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans, Some Traditional Herbal Medicines, Some Mycotoxins, Naphthalene and Styrene, Vol. 82 (2002) (p. 367). Accessed on March 9, 2005.(2005年10月12日時点のアーカイブ


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