ゲーデル、エッシャー、バッハ パズル

ゲーデル、エッシャー、バッハ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/30 02:27 UTC 版)

パズル

この本には、パズルが多く登場する。その中には有名なMUパズル英語版もある。「Contracrostipunctus」[注 3]というタイトルの章にもパズルが含まれている。これは、「acrostic」(折句)と「contrapunctus」(対位法)を組み合わせたものである。この章のアキレスと亀の対話で、著者は、著者(ホフスタッター)とバッハの両方を指す対位法的折句が章にあることを示唆している。各段落の最初の単語をつなげるとHofstadter's Contracrostipunctus Acrostically Backwards Spells 'J. S. Bach'(ホフスタッターの対位法的折句を逆に綴るとJ. S. Bachになる)となり、その頭文字を逆に綴ると、この文章が自己参照的に主張している通り"J S Bach"となる。

影響

この本は、1980年ピューリッツァー賞一般ノンフィクション部門[4]、同年の全米図書賞科学部門[5]を受賞した。『サイエンティフィック・アメリカン』1979年7月号のマーティン・ガードナーによるコラムでは、「数十年ごとに、未知の著者が、このような深み、明快さ、広がり、機知、美しさ、独創性を備えた本を発表し、それは文学界の重要な出来事として認識される。」と評された[6]

2007年夏、マサチューセッツ工科大学は、この本を中心として構築された高校生向けのオンライン課程を作成した[7]

連邦捜査局(FBI)は、2010年2月19日に発表した2001年の炭疽菌事件に関する調査概要で、ブルース・イビンズが2001年9月と10月に送ったとされる炭疽菌が封入された手紙の塩基配列に基づいて秘密のコードを隠す方法が、『ゲーデル、エッシャー、バッハ』に触発された可能性を示唆した[8][9][10]。また、イビンズがこの本をゴミ箱に捨てて調査官から隠そうとしたことも示唆された。

日本では、1985年に白揚社から日本語訳が発行され、1980年代後半から90年代前半にかけて小ブームが起きた。

翻訳

ホフスタッターは、執筆中には翻訳のことはまったく考えていなかったと語っているが、出版社が本の翻訳を始めたとき、彼は他の言語、特にフランス語でこの本を読むことを非常に楽しみにしていたという。しかし、彼はこの本の翻訳時に考慮しなければいけない問題が数多くあることを知っていた[11]。この本は、(英語による)言葉遊びや「構造的な駄洒落」に依存しており、作品の形と内容が互いに鏡映するように書かれている箇所もある(例えば「蟹のカノン英語版」は、前から読んでも後から読んでもほぼ正確である)。

ホフスタッターは、翻訳の問題の例として「Mr. Tortoise, Meet Madame Tortue」(トータス氏、トルチュ夫人に会う)という段落を挙げ、翻訳者は「フランス語の名詞tortueが女性名詞であることと、Tortoiseという登場人物が男性であることの衝突に即座に突き当たった」と述べた[11]。ホフスタッターは、フランス語版のMadame Tortueとイタリア語版のSignorina Tartarugaに名前をつけるという翻訳者の提案に同意した[12]。意味を保持しつつ翻訳するという問題のために、ホフスタッターは「苦労して『ゲーデル、エッシャー、バッハ』のすべての文を調べ、対象となる言語の翻訳者のために写しに注釈を付けた」[11]

また、翻訳により、ホフスタッターは新しい意味や洒落を追加することができた。例えば、中国語版では、タイトルはan Eternal Golden Braidの翻訳ではなく、一見無関係な「集異璧」(異なる玉を集める)というものになっている。これは、発音すると「GEB」と同じ(ピン音: Jí Yì Bì)になる。

このような相互作用に関するいくつかの資料が、ホフスタッターのその後の書籍『Le Ton beau de Marot』に掲載されている。その多くは翻訳に関するものである。


注釈

  1. ^ 日本語訳では「マニフィ蟹ト、ほんまニ調」
  2. ^ 日本語訳では「SHRDLUよ、人の巧みの慰みよ」
  3. ^ 日本語訳では「洒落対法題」

出典

  1. ^ Douglas Hofstadter [in 英語] (1 November 1995). "By Analogy - A talk with the most remarkable researcher in artificial intelligence today, Douglas Hofstadter, the author of Gödel, Escher, Bach". Wired Magazine (Interview) (アメリカ英語). Interviewed by Kevin Kelly. WIRED. 2023年1月27日閲覧
  2. ^ Perspective of Mind: Douglas Hofstadter” (英語). 2023年1月27日閲覧。
  3. ^ Gödel, Escher, Bach: An Eternal Golden Braid: Hofstadter, Douglas R: 9780465026562” (英語). Amazon.com. 2023年1月27日閲覧。 “A metaphorical fugue on minds and machines in the spirit of Lewis Carroll”
  4. ^ The Prizes” (英語). Pulitzer. 2023年1月27日閲覧。
  5. ^ National Book Awards 1980” (英語). National Book Foundation. 2023年1月27日閲覧。
  6. ^ Somers, James (2013年11月). “The Man Who Would Teach Machines to Think”. The Atlantic. The Atlantic Media Company. 2023年1月27日閲覧。
  7. ^ "Gödel, Escher, Bach: A Mental Space Odyssey - High School Humanities and Social Sciences". MIT OpenCourseWare. MIT. 2013年8月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年8月25日閲覧
  8. ^ Amerithrax Investigative Summary” (PDF) (英語). United States Department of Justice (2010年2月19日). 2010年11月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年11月10日閲覧。
  9. ^ Page 404 of Godel, Escher, Bach: An Eternal Golden Braid” (PDF) (英語). United States Department of Justice. 2010年11月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年11月10日閲覧。
  10. ^ Willman, David (2011-06-07) (英語). The Mirage Man: Bruce Ivins, the Anthrax Attacks, and America's Rush to War. New York, USA: Bantam Books. p. 300. ISBN 978-0-5538-0775-2 
  11. ^ a b c R. Hofstadter 1999, p. xxxiv.
  12. ^ R. Hofstadter 1999, pp. xxxiv–xxxv.





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