イタイイタイ病 認定を巡る問題

イタイイタイ病

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/19 13:18 UTC 版)

認定を巡る問題

イタイイタイ病の患者の認定は、環境省より委託されて富山県が行っている。認定条件は環境庁(現:環境省)の「公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法によるイタイイタイ病の認定について」(1972年(昭和47年)6月に制定)に定められている。内容とすれば「(1)イタイイタイ病農耕汚染地域に在住し、カドミウムに対する曝露歴があること。(2)先天性のものではなく、成年期以降に発現したこと。(3)尿細管障害が認められること。(4)骨粗鬆症を伴う骨軟化症の所見が見られること。」である。これらの条件を全て満たせばイタイイタイ病と認定される。(4)の条件を欠く場合、将来イタイイタイ病に発展する可能性を否定できないので要観察者と認定される。2008年(平成20年)10月現在で認定患者は192人となっていたが[12][16]2014年(平成26年)9月末時点では認定患者は198人で要観察者が延べ408人となっており[17]、患者数は増加し続けている。

さらに、2014年(平成26年)9月の検査では従来行われてきた5歳刻みで対象年齢を決めていた流域住民への健康調査を全年齢を対象に切り替えたところ、1969年(昭和44年)の調査開始以来で最多の精密検査対象者が出ており、健康調査への受診率が低迷していることも合わせると、患者数の正確な数字は把握できていない[17]

患者に認定されると公害医療手帳が支給され、国から医療費・障害補償費・療養手当などが給付される。また、三井金属鉱業からも賠償費・医療費・入通院費・医療介護手当・温泉療養費が支給される[16]

しかし、認定にハードルは厳しく、いまだに行政の救済を受けることができずに苦しんでいる人たちが残っている。現代での問題点は原因分析ではなく、患者認定・要観察判定の具体的な基準に移っている。行政側である県認定審査会は厳しい基準を課して却下する事例が多い。具体的には、イタイイタイ病の認定の4要件の1つとなる骨軟化症の判定をおこなっている。骨軟化症においては、類骨の増加という特徴が見られる。そのため、いわゆる吉木法に基づいて骨を染色し、類骨の濃染部分を観察する事により調査できる。そして、類骨の濃染部分が十分であると骨軟化症に認めることになっている。しかし、腸骨のみを基準としたりするなど厳しい判定をしがちである。また、不服審査の問題点として県認定審査会の厳しい判断による却下に基づいて、被害者の多くは公健法に基づいて環境省に設置された不服審査委員会に審査請求を行っている。しかし、行政不服審査は一般的に行政に有利とされているため、それでも認定の条件は厳しい。

上記のように認定を求めて却下された人々以外に、患者であることを知られたくなくて申し出なかったり、自覚症状が出にくい腎臓障害が見落されたりしている被害者の存在が指摘されている[18]


  1. ^ “イ病被害の風化防ぐ「語り継ぐ会」設立…富山”. yomiDr. (読売新聞社). (2014年8月18日). http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=103560 2014年8月18日閲覧。 
  2. ^ a b c d e 『富山大百科事典』(1994年 北日本新聞社/富山大百科事典編集事務局編) 「特集 イタイイタイ病」,p.104
  3. ^ a b c 『富山大百科事典』(1994年 北日本新聞社/富山大百科事典編集事務局編) 「特集 イタイイタイ病」,p.106
  4. ^ a b 『富山大百科事典』(1994年 北日本新聞社/富山大百科事典編集事務局編) 「特集 イタイイタイ病」,p.100-101
  5. ^ 『四大公害病 水俣病、新潟水俣病、イタイイタイ病、四日市公害』(2013年 中公新書/政野淳子) 「特集 イタイイタイ病」,p.153-154
  6. ^ Cadmium Toxicity What Diseases Are Associated with Chronic Exposure to Cadmium?
  7. ^ a b c d e f g h i j k l 『富山大百科事典』(1994年 北日本新聞社/富山大百科事典編集事務局編) 「特集 イタイイタイ病」,p.98-99
  8. ^ 昭和48年版環境白書(環境庁,1973)
  9. ^ 河北新報「富山、カドミウム汚染農地が復元 イタイイタイ病」[リンク切れ]
  10. ^ 『北日本新聞』2023年12月19日付1面『イ病は終わらない 「全面解決」へ10年 3 緩む復元田 耕作放棄の懸念強く』より。
  11. ^ a b 広田和也(2014年10月12日). “イ病被団協 神岡鉱業を調査 全面解決後初 豪雨災害、対策へ”. 北陸中日新聞 (中日新聞社)
  12. ^ a b c 「なお続く患者の苦しみ」北日本新聞 2008年4月19日朝刊,p.13
  13. ^ a b c d e 『富山大百科事典』(1994年 北日本新聞社/富山大百科事典編集事務局編) 「特集 イタイイタイ病」,p.106-109
  14. ^ 中日ニュース No.912_2「わしらが勝った」(昭和46年7月)”. 中日映画社 (2020年9月9日). 2020年12月13日閲覧。
  15. ^ https://www.asahi.com/topics/word/%E4%B8%89%E4%BA%95%E9%87%91%E5%B1%9E.html
  16. ^ a b 『富山大百科事典』(1994年 北日本新聞社/富山大百科事典編集事務局編) 「特集 イタイイタイ病」,p.111-112
  17. ^ a b 川田篤志(2014年10月2日). “イ病精密検診 最多362人 新たな患者認定の可能性”. 北陸中日新聞 (中日新聞社)
  18. ^ 「イタイイタイ病、未認定者の救済進まず 一時金申請が想定下回る」日本経済新聞ニュースサイト掲載(2016年12月19日)の共同通信記事、2018年6月13日閲覧。
  19. ^ 『富山大百科事典』(1994年 北日本新聞社/富山大百科事典編集事務局編) 「特集 イタイイタイ病」,p.110
  20. ^ 富山県立イタイイタイ病資料館
  21. ^ 【記者の目】イタイイタイ病認定50年 住民苦闘の歴史、未来に=田倉直彦(大阪学芸部)『毎日新聞』朝刊2018年5月30日(2018年6月13日閲覧)。
  22. ^ 「イタイイタイ病資料室」の開設について - 富山大学(2018年3月6日)2018年4月12日閲覧。






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