T細胞受容体に対する抗体
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/30 10:14 UTC 版)
「免疫抑制剤」の記事における「T細胞受容体に対する抗体」の解説
OKT3 (R) は現在認可されている唯一の抗CD3抗体である。マウスIgG2aタイプの抗CD3モノクローナル抗体で、全ての分化T細胞にあるT細胞受容体複合体に結合してT細胞の活性化と増殖を抑える。最も効果のある免疫抑制物質のひとつであり、臨床ではステロイドやポリクローナル抗体に耐性の急性拒絶症状を抑えるのに用いられる。ポリクローナル抗体よりも特異的に作用するため、移植において予防的に用いることもある。 OKT3の作用機構はまだ十分には理解されていない。この分子はT細胞受容体複合体のTCR/CD3に結合することがわかっている。最初のうちはこの結合によりT細胞が非特異的に活性化され、30分から60分後に深刻な症状を呈する。その特徴は発熱、筋肉痛、頭痛、関節痛である。心臓血管系や中枢神経系に生命を脅かすほどの反応を起こし長期療養が必要になる例もあった。OKT3はTCR-抗原間の結合を阻み、T細胞表面のTCR/CD3を構造変化させたり完全に除去したりする。これによりおそらく網内系細胞による取り込みが活性化し、T細胞数が減少する。CD3分子へのクロスバインディングは細胞内シグナルをも活性化し、副刺激分子による他のシグナルを受けなければ、T細胞のアネルギーやアポトーシスを誘導する。またCD3抗体は細胞のバランスをTh1からTh2へ移行させる。 したがってOKT3を用いるかどうかを決めるには、大きな効果だけでなく毒性副作用についても考慮する必要がある。そこには過剰な免疫抑制のリスクと、患者が薬剤を中和して効かなくする抗体を産生するリスクがある。CD3抗体はポリクローナル抗体より特異的に作用するとはいえ、細胞性免疫を著しく低下させ、患者が日和見感染や悪性腫瘍にかかりやすくしてしまう。
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