杉山正明とは? わかりやすく解説

杉山正明

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/05 03:32 UTC 版)

杉山 正明
人物情報
生誕 (1952-03-01) 1952年3月1日(71歳)
日本静岡県沼津市
出身校 京都大学文学部
学問
研究分野 中央ユーラシア
研究機関 京都大学
称号 京都大学名誉教授
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杉山 正明(すぎやま まさあき、1952年3月1日 - )は、静岡県生まれの日本歴史学者京都大学名誉教授。主要研究テーマはモンゴル時代史、中央ユーラシア史。日本におけるモンゴル史研究の第一人者である。

来歴・人物

1952年、静岡県沼津市に生まれる。静岡県立沼津東高等学校を経て1974年京都大学文学部卒業。1979年大学院文学研究科博士課程単位取得退学、京都大学人文科学研究所助手となる。1988年京都女子大学文学部専任講師、1989年助教授を経て、1992年から京都大学文学部助教授、1995年から教授、のちに京都大学大学院文学研究科教授[1]。2017年定年退任、名誉教授

研究・活動

モンゴル帝国史、特に東アジアを支配した初期のモンゴル帝国や(大元・大モンゴル国)の研究にあたり、それまで日本のモンゴル史研究が中国史料の『元史』等に偏重していたと批判し、『集史』等のペルシア語史料やパスパ文字碑文等のモンゴル語史料をも積極的に利用して多角的に読み直すことによりモンゴル帝国史に新たな視点を見出している。

杉山は、1992年にテレビ番組「NHKスペシャル 大モンゴル」[2]に協力し、同年、『大モンゴルの世界』を出版した。これを皮切りに2002年までにモンゴル帝国史の重要性を説く一般向けの概説書を数多く出版し、2004年には論文をまとめた研究書、『モンゴル帝国と大元ウルス』を出版した。その後、複数の講座ものの歴史書で執筆を担当し、モンゴル帝国の前史・後史をそれぞれ論じた(『疾駆する草原の征服者』、『モンゴル帝国と長いその後』)。

2001年に放送された、NHK大河ドラマ北条時宗』においては、時代考証を担当した。

主張

  • 従来の史観は、ヨーロッパ目線のヨーロッパ史(西欧史)か、漢文史料に基づいた中華史観でしかなく、「世界史」になっていないと批判する[3]
  • モンゴル時代の歴史を把握するためには、ペルシア語・漢文の東西の二大史料を筆頭に、モンゴル語、テュルク語、女真語、ラテン語、サンスクリット語、日本語など、二十数個の言語の史料が関連し、それを原写本、原刻本、碑刻などの「原典」で取り扱う必要があるとする[4]
  • モンゴル帝国の侵攻において住民の大虐殺がなされたとの通念について、そのような実態はなかったと主張する。モンゴル軍は実戦することは多くなかったし、破壊されたはずの都市はその後も健在であり、大虐殺はモンゴル軍の「恐怖の戦略」の結果であるとする[5]
  • モンケ・ハン死後の帝国内乱を経たフビライ・ハンの「大元・大モンゴル国」の建国を重視し、ユーラシアの海陸が一つとなる空前の状況が出現したとする[6]
  • 従来、肯定的に捉えられていた人物を、否定的に論ずることがしばしばある。金からモンゴル帝国に仕えた耶律楚材について、伝記を書いて罵倒している(前半生で擱筆)[7]。南宋滅亡に殉じたとされる文天祥は、「みずからの名声を異様なほどに意識して、あくまで斬死を熱望し、見事に後世の称賛を受けることに成功した」としている[8]

海外への影響

杉山正明の著書は中国台湾で相次いで翻訳出版されている。2011年に台湾・廣場出版から刊行された『大漠:遊牧民的世界史』がそのはじまりであり、以後、『忽必烈的挑戰:蒙古與世界史的大轉向』、『顛覆世界史的蒙古』などが翻訳出版されている[9]。中国では、台湾翻訳本『忽必烈的挑戰:蒙古與世界史的大轉向』『大漠:遊牧民的世界史』に加え、漢訳本『疾馳的草原征服者:遼、西夏、金、元』を翻訳出版している[9]。杉山正明が著書において提起している中国の歴史におけるの位置づけに関して、中国学界でも議論が起きており、姚大力(復旦大学)は、『疾馳的草原征服者:遼、西夏、金、元』の書評を書き(その後、推薦文として『疾馳的草原征服者:遼、西夏、金、元』に収録)、羅新(北京大学)は、『忽必烈的挑戰:蒙古與世界史的大轉向』の書評を書き、張帆北京大学)は、「大中國與小中國的理論」に関する杉山正明の理論に応えるなど議論を惹起しており、これらは、中国の代表的メディア東方早報中国語版』において紹介されている[9]

蔡偉傑(深圳大学)は、「日本のモンゴル史と世界史に関する書籍は、両岸出版界にかつてないブームを巻き起こしている」「中国では、杉山正明の著書はさらに大きな影響を呼んでいる」「インターネットでも熱い討論が繰り広げられており、両岸に同時に起きている『杉山旋風』は、本当に目を見張るものがある」と評している[9]

主な受賞・受章歴

著書

単著

共著

訳書・監修

  • 『モンゴル帝国の歴史』 デイヴィド・モーガン/David Morgan
     大島淳子共訳(角川書店[角川選書234]、1993年2月) ISBN 4047032344
  • 『チンギスカンとモンゴル帝国』 ジャン=ポール・ルー/Jean-Paul Rour
     監修(創元社「知の再発見」双書111>、2003年10月) ISBN 4422211714
  • 『流沙の記憶をさぐる―シルクロードと中国古代文明』 林梅村
     監修(日本放送出版協会、2005年3月) ISBN 4140810297

編著

脚注

注釈

出典

  1. ^ 京都大学大学院「教員紹介」、2016年5月4日閲覧。
  2. ^ NHKアーカイブス NHKスペシャル 大モンゴル”. 2023年6月4日閲覧。
  3. ^ 『モンゴルが世界史を覆す』日経ビジネス人文庫、2006、33-46頁。 
  4. ^ 『モンゴル帝国と大元ウルス』京都大学学術出版会、2004年、10,17頁。 
  5. ^ 『モンゴル帝国の興亡(上)―軍事拡大の時代』講談社現代新書、1996年、52頁。 
  6. ^ 『クビライの挑戦 モンゴルによる世界史の大転回』講談社学術文庫、2010年。 
  7. ^ 『耶律楚材とその時代』白帝社、1996年。 
  8. ^ 『疾駆する草原の征服者』講談社、2005年10月20日、323頁。 
  9. ^ a b c d 蔡偉傑『從馬可波羅到馬戛爾尼:蒙古時代以降的內亞與中國』八旗文化、2020年9月2日、42頁。ISBN 9789865524241 
  10. ^ サントリー学芸賞「思想・歴史部門」、2016年5月4日閲覧。
  11. ^ 司馬遼太郎記念財団司馬遼太郎賞・これまでの受賞作品・受賞者
  12. ^ 京都大学「杉山正明文学研究科教授が紫綬褒章を受章」、2006年4月29日。
  13. ^ 京都大学「杉山正明教授が恩賜賞・日本学士院賞を受賞」、2007年6月11日。

杉山正明

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/13 01:18 UTC 版)

義経=ジンギスカン説」の記事における「杉山正明」の解説

しかし、杉山正明はチンギス・カン肖像として一般に知られている台北故宮博物院チンギス・カン肖像を例にあげて、これが実際チンギス・カン容姿反映したのであるかどうか疑問視している。さらにまた、チンギス・カンの子孫たちが作らせた東西文献には「波乱満ちた彼の前半生について、様々な逸話苦心譚を人馬激しく交わる『血湧き肉踊る』活劇」として語り伝えてはいるが、「前半生容姿真偽闇の中にあり、確かだといえることは、1203年秋にケレイトオン・カン奇襲チンギス・カン倒しモンゴルの東半分制圧してからだ」と述べている。

※この「杉山正明」の解説は、「義経=ジンギスカン説」の解説の一部です。
「杉山正明」を含む「義経=ジンギスカン説」の記事については、「義経=ジンギスカン説」の概要を参照ください。

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