有声化と鼻音化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/10/19 13:50 UTC 版)
秋田方言では、語中の /k/ (共通語のカ行)、/t/ (共通語のタ、テ、ト)、/c/ (共通語のチ、ツ)は有声化(濁音化)して、それぞれ [ɡ] 、[d] 、[z] と発音される。例えば「坂」は [saɡa] (サガ)、「旗」は [hada] (ハダ)、「道」は [mïzï] (ミジ)と発音される。これは秋田方言の発音の特徴の中でも特に目立つものであり、地元の人々の間でも明確に意識されている。/s/ や /p/ は有声化しない。 この有声化は、促音(ッ)や撥音(ン)の直後の子音には起こらない。例えば「買った」は [kat̚ta] (カッタ)、「三角」は [saŋkaɡɯ̈] (サンカグ)のように発音される。長音の直後の場合は有声化するのが普通だが、稀に有声化しない場合もある。また直前の母音が無声化する場合は、[kɕï̥ta] (北)、[sï̥ta] (舌)のように子音は有声化しない。しかし、「口」(/kuci/)、「机」(/cikue/)のように、子音を挟んで狭母音が連続する場合に、母音の無声化が起こらずに子音の有声化が起こり、[kɯ̈zï] (クジ)、[ʦïɡɯ̈e] (チグエ)のように発音される場合がある。 語中では /ɡ/ 、/d/ 、/z/ 、/b/ が鼻音化する。/ɡ/ は鼻濁音の [ŋ] となり、/d/ 、/z/ 、/b/ は直前に鼻音(前鼻音)が入った [ ̃d] 、[ ̃ʣ] 、[ ̃b] のように発音される。ただし /b/ の場合の鼻音化は必ずしも規則的ではなく、鼻音化する場合も鼻音化の度合いは他の場合より弱い。また、鼻音化も撥音の直後では起こらず、促音の直後には /ɡ/ 、/d/ 、/z/ 、/b/ が来ない。 語中では /k/ 、/t/ 、/c/ が 有声化する一方、/ɡ/ 、/d/ 、/z/ が鼻音化するため、語中での /k/ と /ɡ/ は鼻濁音か非鼻濁音かで区別され、/t/ と /d/ 、/c/ と /z/ は前鼻音の有無で区別されることになる。例えば「開ける」が [aɡeɾɯ̈] (アゲル)で「上げる」は [aŋeɾɯ̈] (アケ゜ル)、「旗」は [hada] (ハダ)で「肌」は [ha ̃da] (ハンダ)、「蜜」は [mïzï] (ミジ)で「水」は [mï ̃ʣï] (ミンジ)のような対立が生じるため、語中でも元々の濁音と有声化により生じた濁音が混同されることはない。前鼻音は特に早い発話ではしばしば直前の母音と融合して鼻母音になり、「肌」が [hãda] 、「水」が [mï̃ʣï] 、「覚える」が [o ̃beɾɯ̈]のように発音される。語頭では語彙的に変化した少数の語を除いて濁音化は起こらない。 語中で濁音が鼻音化する現象も中世の中央語に見られた音の残存である。語中のガ行は、より古い[ ̃ɡ] の発音が山形県の一部や新潟県北部に見られ、秋田県内にもそのような発音をする地域が一部に確認されている。 現在では鼻音化現象は東北地方全体で急速に衰退しており、特に /b/ は高年層においても鼻音化しない発音が普通になりつつある。これは、/p/ が語中で有声化しないため、/b/ が鼻音化しなくても混同が生じるおそれがないためと考えられる。鼻音化の衰退は /b/ 、/z/ 、/d/ 、/ɡ/ の順に著しい。これは中世の中央語で鼻音化が衰退していった順序と一致しており、子音の調音点が前のものから鼻音化がなくなる傾向が認められる。秋田の高年層では /b/ の鼻音化がかなり衰退し、/z/ も鼻音化しない発音が増えつつあるが、/d/ と /ɡ/ は鼻音化するのが普通である。中年層では/b/ はほとんど鼻音化せず、/z/ や /d/ も鼻音化しない発音が増えつつあるが、/ɡ/ の鼻音化は保持されている。若年層では /b/ 、/z/ 、/d/ の鼻音化はほぼ消滅しているが、/ɡ/ が [ŋ] として発音される傾向はかなり強い。これは、標準語で語中のガ行を鼻濁音の [ŋ] で発音することが規範的だと見なされていることも一因である。日本全体で見ると、本来は語中のガ行が鼻濁音になる地域でも鼻濁音の衰退が著しく、例えば東京の若年層では鼻濁音を用いないのがむしろ普通になりつつあるが、それに対して秋田の若年層のガ行鼻濁音保持率はかなり高い。 中年層から若年層にかけては語中のダ行の鼻音化現象が衰退しているのに対して、語中のタ行の有声化現象は比較的よく保持されているため、このような年代では語中のタ行とダ行が同じ発音になり聞いたときに区別できないという問題が生じつつある。
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有声化と鼻音化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/19 08:40 UTC 版)
秋田方言では、共通語のカ行にあたる /k/ 、タ・テ・トにあたる /t/ 、チ・ツにあたる /c/ は語中で有声化(濁音化)して、それぞれ [ɡ] 、[d] 、[z] と発音される。サ行にあたる /s/ やパ行にあたる /p/ は有声化しない。 この有声化は、促音(ッ)や撥音(ン)の直後の子音には起こらない。長音の直後の場合は有声化するのが普通だが、稀に有声化しない場合もある。また直前の母音が無声化する場合は、[kɕï̥ta] (北)、[sï̥ta] (舌)のように子音は有声化しない。しかし、「口」(/kuci/)、「机」(/cikue/)のように、子音を挟んで狭母音が連続する場合に、母音の無声化が起こらずに子音の有声化が起こり、[kɯ̈zï] (クジ)、[ʦïɡɯ̈e] (チグエ)のように発音される場合がある。 語中では共通語のガ行にあたる /ɡ/ 、ダ行にあたる /d/ 、ザ行にあたる /z/ 、バ行にあたる /b/ が鼻音化して、それぞれ [ŋ] 、[ ̃d] 、[ ̃ʣ] 、[ ̃b] と発音される。鼻音化も撥音の直後では起こらない。 語中では /k/ 、/t/ 、/c/ が 有声化する一方、/ɡ/ 、/d/ 、/z/ が鼻音化するため、語中での /k/ と /ɡ/ は鼻濁音か非鼻濁音かで区別され、/t/ と /d/ 、/c/ と /z/ は前鼻音の有無で区別されるため、語中でも元々の濁音と有声化により生じた濁音が混同されることはない。前鼻音は特に早い発話ではしばしば直前の母音と融合して鼻母音のように発音される。 鼻音化は古い音の残存であるが、現在は急速に衰退しつつあり、中年層ではあまり見られず、若年層では消滅している。ただし語中の /ɡ/ が [ŋ] と発音される傾向は若年層においても非常に強い。有声化は鼻音化と比較するとよく保たれているが、それでも若年層では衰退しつつある。
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