共犯の従属性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/11 15:13 UTC 版)
実行従属性、要素従属性、罪名従属性の3つに分けて考えられている。 例:Aは資金繰りの悪くなった会社経営者のBに対して、「取引先を脅して金を奪ってしまえ」と執拗に勧めた。しかしBは「馬鹿なことを言うな」といって全く取り合わなかった。 もしもBが実際に取引先を脅して金を奪った場合、Aは恐喝罪の教唆犯として処罰される。この例ではAが恐喝を唆しているが、Bは恐喝の実行に着手すらしていないため、Aには何らの犯罪も成立しない。このような見解を共犯従属性説(反対の見解が共犯独立性説)といい、現在の学説と実務の支配的な立場である。 この「正犯者が犯罪の実行に着手しなければ共犯は成立しない」という考え方は実行従属性の原則といわれる(ただし、これは一般法としての刑法で認められた原則であって、特別刑法において教唆行為それ自体を犯罪として処罰することはできる。例としては破壊活動防止法38条以下にある内乱の教唆などがあるが、このように教唆行為自体が罰せられるものを独立教唆犯という)。 要素従属性とは、共犯が成立するためには概念上の正犯がどこまで犯罪要素を備えていなければならないか、という議論である。つまり、ある行為が犯罪として処罰されるのは、その行為が構成要件に該当し、違法であり、行為者に責任が問えるという3つの条件をすべて満たしている場合だけである。よって共犯が処罰されるのは、正犯者の行為がこの3つの条件すべてを満たしているという意味での「犯罪」である時に限られるのではないか、というのがこの議論の出発点である。 この点については,以下のような形式があるとされる。 誇張従属形式(正犯に処罰条件、構成要件該当性、違法性および有責性が必要)(ただし、本来はこのような意味ではなく、要素従属性とは無関係とする指摘もある。) 極端従属形式(正犯に構成要件該当性、違法性および有責性が必要) 制限従属形式(正犯に構成要件該当性および違法性が必要) 最小限従属形式(正犯に構成要件該当性が必要) また、共犯と正犯又は各共犯に成立する罪名は同じである必要があるかという罪名従属性という問題がある。犯罪共同説からはこれを肯定する見解が多数であるが、一部の犯罪共同説や行為共同説からは否定される。もっとも、狭義の共犯については、正犯の構成要件該当性への従属性を肯定する通説からは、共犯の罪名が正犯の罪名を上回らないという意味で片面的な罪名従属性が肯定されることになる。これを前提に、65条2項によってこの例外が認められる(つまり共犯の罪名が正犯の罪名を上回ることになる)か否かは争いがあるが、通説は肯定する。 さらに、近年においては、混合惹起説の有力化に伴って従属性の二義性も指摘されている。すなわち、従属性には必要条件としての従属性と連帯性としての従属性があるというものである。例えば、要素従属性は前者の問題とされる。2つの意味の区別は、独立性・(必要条件としての)従属性と個別性・連帯性を分離し、惹起説を前提にしつつ個別的要素についての要素従属性を承認する混合惹起説の論者にとって特に重要だからである。
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