代理権濫用への類推適用
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/21 23:09 UTC 版)
民法93条ただし書の本来的効力・適用場面は上述のとおりであるが、判例により代理権濫用の事例について同規定が類推適用され、重要な役割を果たしていた。 代理権濫用は、形式的には本来与えられている代理権の範囲に含まれる行為だが、着服など本人を害する背信的意図が動機となっている場合である。例えば、本人Xから土地の売却を任された代理人Aが、これを奇貨として代金を横領する意図で相手方Yに土地を売却するような場合である。代理権の範囲内での行為である以上、売買契約の法律効果は本人Xに帰属する。この時、意思表示の相手方Yが代理人Aの横領の意図を知り、又は知り得たような場合の規律が問題となる。 代理人は法律効果を本人に帰属させる意思があるものの、経済的効果は自己または第三者へ帰属させるのが真意であり、ここに表示と真意との食い違いがある。この経済的効果についての表示と真意の食い違いを基礎として、本来は法律効果のそれについての規定である93条ただし書が類推適用されてきた。すなわち、原則として代理人がした売却等の意思表示は有効として取り扱われるが、相手方Yが横領の真意について知り、または知ることができた場合には代理人の意思表示は無効とされていた。民法93条ただし書を類推適用した判例に昭和42年4月20日最高裁判決や平成4年12月10日最高裁判決があった。 2017年(平成29年)の民法改正(令和2年(2020年)4月1日施行)により、代理権の濫用については民法107条に規定されることになった。 民法107条代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。 民法改正前の判例では民法93条ただし書を類推適用していたため無効とされていたが、民法改正後は民法107条が直接適用されるため無権代理として取り扱われる(本人は追認することもできる)ことになった。
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