ハレムの文化的背景
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/21 04:36 UTC 版)
男子禁制を旨とするハレムの文化的背景には、イスラーム(イスラーム教)のうち保守的で厳格主義的な考え方を採る者によって強調されてきた「性的倫理の逸脱を未然に保護するためには男女は節理ある隔離を行わなければならない」との性倫理が存在すると言われる。 イスラームの聖典であるクルアーン(コーラン)には、マディーナの預言者ムハンマドの自宅に頻繁に出入りする信徒たちと預言者の家族の居室の間を厳密に区切り、両者の無闇な行き来や会話を戒めた規定がみられる。またクルアーンの別の箇所では、ムスリム(イスラーム教徒)の女性たるものは貞節を固く守るべきとの戒めが説かれている。後世のムスリムたちは、この預言者の家族に関する規定と女性の貞潔義務の規定を厳密に遵守適用するための配慮として、家屋の中にハリーム(حريم)の領域、すなわち訪問者の立ち入りが禁じられた空間を置くようになった。この意味では、ハレムは女性が外出時に着用することとされているヴェールなどと同じ発想に基づいている。 ところが、ハレムの習慣はイスラーム特有の文化というわけではなく、古代の地中海世界において、富裕な階層が倫理的・文化的・経済的な理由において女性の居室を隔離した風習がそもそもの起源であるとも考えられており、必ずしも宗教的な理由にのみ基づく習慣であるとは言い切れない点でも、ヴェールの風習と類似する。 また、ハレムはイスラーム社会における男女隔離の推奨に基づいているとはいえ、下層の人々や農村社会、遊牧民など、男女が屋内外で共働きすることが前提となっている社会階層では経済的合理性を欠くため、このような社会階層に属する家庭やこのような階層が多数を占める地域においては、ハレムの制度は事実上成り立たない。 ハレムの習慣はヴェールと同じように、近代的価値観の普及とともにイスラームにおける一夫多妻制の規定と結び付けられ、性的搾取ないし女性差別の象徴、或いはイスラーム世界の後進性の実例として批判されてきた。イスラーム社会の内部でも20世紀後半以降、女性の社会進出にともなって厳格な適用は好まれなくなり、多くの国々で衰退に向かっている。
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