スケールフリー性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/05/26 11:37 UTC 版)
「複雑ネットワーク」の記事における「スケールフリー性」の解説
現実世界のネットワークが持つ第1の性質は「スケールフリー性」(次数分布のべき乗則)である。これは、一部の頂点が他のたくさんの頂点と辺で繋がっており、大きな次数を持っている一方で、その他の大部分はわずかな頂点としか繋がっておらず、次数は小さいという性質である。次数の大きな頂点は「ハブ」とも呼ばれる。 スケールフリー性は、社会学をはじめとするこれまでの研究により、現実世界のネットワークで幅広く観察されている。例えば、人々の持っている知人関係の数をみると、一部の人は非常にたくさんの知人を持っているが、大多数の人々の知人の数は限られている。WWWではごく少数の有名サイトが数百万単位のリンクを集めているが、大多数のサイトはわずかなリンク先からしかリンクされていない。生体内の相互作用でも、ごく一部のたんぱく質が多数のたんぱく質と反応する構造になっている。男女の性的関係でも、ごく一部の人は何百人という相手と関係するが、大多数の人々は限られた相手としか関係を持たない。 数学的には、スケールフリー性は頂点が次数 k を持つ確率 p(k) の確率分布が p(k) ∝ k-γ のべき乗則になると表現される。このような次数分布では、分布の偏りを特徴付ける平均的な尺度(スケール)といったものが存在しない。グラフがこのような性質を持つことを「スケールフリー」と呼ぶ。また、このような確率分布のとき分散 V は無限大となる。 スケールフリー性を持つグラフを数学モデルで表現することができるかは大きな問題である。例えば、n 個の頂点の間に全て辺を張った「完全グラフ」 Kn では全ての頂点の次数は n-1 であるからスケールフリー性を全く満たさない。「格子」状のグラフでも同様である。右の図のような2次元の三角格子を考えてみると、全ての頂点の次数は6であるから、やはりスケールフリー性を満たさない。また、辺を生成確率 p でランダムにはるランダムグラフは頂点数を n とすると頂点の次数が k となる確率は p(k) = n-1Ck pk(1-p)n-1-k の二項分布となり、n→∞、p→0、np→λ の極限では p(k) = e-λλk / k! のポアソン分布となる。ポアソン分布では全ての頂点の次数は平均値の周辺に分散 λ で分布しており、べき乗則の分布には程遠い。
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