『残酷の報酬』
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/13 20:06 UTC 版)
原題は "The reward of cruelty"。公判に掛けられ殺人の罪で有罪となった後、ネロは絞首刑にされ、不名誉な公開解剖に処されることになった。出版から1年後、1752年殺人法(英語版)により、殺人者の遺体は、外科医の元へ運ばれ、「検分され、解剖される」(英: "dissected and anatomised")ことが明文化された。この条文は遺体に対する更なる処罰として期待され、埋葬の拒絶が、犯罪抑止力になることも期待されていた 。ホガースがエングレーヴィングを制作した当時、この権利は法律で明文化こそされていなかったが、外科医たちの遺体引き取りは行われていた。 腕に掘られた入れ墨によりトム・ネロであることが分かり、また首に巻き付いたままの縄が、絞首刑に処されたことを指し示す。長年の遺体解剖で非情になった解剖者たちは、ネロがその被害者に行っていたよりももっと酷い仕打ちを行っている。例えば彼の目は『残酷の第2段階』で馬にやったようにえぐり出されているし、彼の心臓は犬に食べられているが、これは『残酷の第1段階』の詩的な意趣返しともとれる。ネロの顔は苦痛に激しく歪んでいるが、その描写は現実的ではなく、ホガースは観る側の恐怖を煽る目的でこうしたと考えられている。第3プレートの『残酷の完成』でアン・ギルの指が指し示したように、ネロの指は自分の運命を指し示すように、鍋で茹でられた骸骨を指している。 解剖する外科医たちの様子を、角帽 (Square academic cap) を被った前列の学者たちが見学しているが、かつらと杖を持った外科医たちは、解剖をほとんど無視して自分たちの相談に興じている。中央で見物している最高責任者は、当時イングランド王立外科医師会の会長だったジョン・フレーク(英語版)と特定されている。フレークは、1749年に起きた、絞首刑犯ボサヴァーン・ペンレズ(英語版)の遺体入手騒動に関与していた。白熱した遺体解剖とその場で骨が茹でられる描写を除けば、この絵で描かれているのは、当時の解剖として一般的な手順である。 後方の左右にある骨格標本には、『残酷の第2段階』にも名前が登場したボクサーのジェームズ・フィールド(英語版)、有名な辻泥棒(英語版)だったジェームズ・マクレーン(英語版)の名前がある。どちらの人物も、この連作が出版される直前に絞首刑にされた(マクレーンは1750年、フィールドは1751年)。これらの骨格標本は、互いに片腕を前に出し、指し示し合っている。左側に書かれたフィールドの名前は、「若き紳士ハリー」(英: Young Gentleman Harry)との二つ名を持っていたヘンリー・シムズ(英語版)を意味する "GENTL HARRY" から、直前に差し替えられた可能性がある。シムズは1747年に処刑された強盗犯である。孤独な「善人」というモチーフは4枚目までしっかり続いているが、これはフィールドの骨格標本を指す学者として描かれ、残酷な道を歩み始めた人間の避け難い運命を象徴している。 この場面の構図は、アンドレアス・ヴェサリウスによる『ファブリカ(英語版)』口絵のパスティーシュであり、オランダ出身かつイングランド在住の芸術家でホガースが敬愛していた、エフベルト・ファン・ヘームスケルク(英語版)の作品 "Quack Physicians' Hall"(1730年頃)からの借用がある可能性も指摘されている。もっと初期の作品で影響を与えた可能性があるのは、1495年にヨハネス・デ・ケタム(英語版)が作った "Fasciculo di medicina" (en) の木版画が挙げられるが、より単純ではあるものの、両脇に窓がある場所に座長が座っているなど、多くの共通要素を持ち合わせている。 第4枚目に書かれている最後の警句は次の通りである。 Behold the Villain's dire disgrace!Not Death itself can end.He finds no peaceful Burial-Place,His breathless Corse, no friend. Torn from the Root, that wicked Tongue,Which daily swore and curst! Those Eyeballs from their Sockets wrung,That glow'd with lawless Lust! His Heart expos'd to prying Eyes,To Pity has no claim;But, dreadful! from his Bones shall rise,His Monument of Shame. 悪党の悲惨な不名誉を見よ!終わりを告げられるのは死そのものではない。彼は墓場に平和を見出すことなく、息の無い屍に友は無い。 根元から裂けた、よこしまな舌は、日ごと罵り、災いを願ったものだ!眼窩から取り出された目玉はねじられる、無法な渇望とともに照り輝いた目が! 彼の心臓は好奇の目に晒され、憐れみの言葉はひとつも無い、しかし、酷いものよ!彼の骨から立ち上がるのは、彼の不名誉を伝える記念碑なのだ。
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