「遺産」とは生きている文化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/17 14:22 UTC 版)
「竹本織太夫 (6代目)」の記事における「「遺産」とは生きている文化」の解説
「世界遺産」には有形と無形があります。一般的には大自然や建造物を想像し、今の時代の人達とは関係のない遺産が遣っていると考えられがちですが、寺院や神社など、かなり多くの遺産は今も生きている文化です。日本の世界遺産で言えば、私は以前、厳島神社の能舞台で文楽を上演させていただいたことがありましたが、水面に浮かぶ境内の美しさに感動しました。これら有形の文化財が、現代まで受け継がれてきましたのも、美しい姿を保ち続けるために、多くの人々の手によって保護されたり修繕が施されたりしてきたからにほかなりません。 2003年、「人形浄瑠璃文楽」が世界無形遺産の傑作として宣言されました。私は、その文楽の浄瑠璃を次世代に伝えるという仕事に就いています。あらゆる文化財が、その価値を維持していくために多くの人々の努力が必要であるように、私の仕事にも同様のことが言えます。 舞台は無形の文化であり、その瞬間にその場所でしか存在しない三次元的で刹那的なものです。例えて言うならば、先人達のどんなに素晴らしい演奏も“氷像”のようなものなのです。いくら素晴らしい形をしていても湿度や温度の変化もあり、そのままの状態で後世に遣すことは難しいことでしょう。また、言い換えれば、その時の生きた空間の創造物、つまり文化はその時の演者、お客様そして先人達の生きていた時代が生み出している刹那的な文化なのです。 メディアが発達し、演奏を記録・保存することが可能になりましたが、いくら素晴らしい演奏でも、それらは二次元的なものでしかあり得ないため、リアルタイムでしか味わえない生きた空間を創ることは難しく、そこにはその時代に生きた人々が使っていた言葉や生活様式が表現されていると言えます。つまり、時代時代によって受けとめられ方が変貌していくのも、文化のあり方なのです。そしてそれは、有形であれ無形であれ、いつの時代でも、人によって伝えられてきたことなのです。だから私は、人によってしか伝えることのできない、生きた文化が絶えることなく、長い時間をかけて先人達が創り上げてきた“氷像”を溶かすことなく次世代に受け継いでもらえるよう、日々精進していきたいと思っております。
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