転写因子 生物学的役割

転写因子

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/27 03:33 UTC 版)

生物学的役割

転写因子はDNAの配列を認識・結合し、遺伝子の発現を制御するという基本的機能を持つ。遺伝子の転写を活性化あるいは逆に不活性化することで、細胞内の多くの反応で重要な役割を果たしている。とりわけ重要な機能のいくつかを以下に示す。

基本的転写調節

真核生物では、転写の開始には基本転写因子(GTF)の存在が必要である。基本転写因子の多くは実際にはDNAに結合せず、大型の転写開始前複合体(preinitial complex)の一部として存在し、RNAポリメラーゼと直接的に相互作用する。最も一般的な基本転写因子としてTFIIA、TFIIB、TFIID、TFIIE、TFIIF、TFIIHなどがある。

発生

多数の転写因子が多細胞生物発生に関与している。これらの転写因子は刺激に応じて、対象とする遺伝子の転写を開始あるいは停止させる。これにより、細胞形態や活動を適宜変化させ、細胞の運命決定や分化を進めるために必要な状態を作り出すことができる。例えば、Hoxファミリーに属する転写因子は、ショウジョウバエからヒトに至る多様な生物において、適切な身体構造を作るために重要な働きをする。他の例として、Y染色体上にあるSex-determining Region Y(SRY)にコードされる転写因子があり、哺乳類性決定で主要な役割を果たす。

細胞間シグナル伝達への応答

細胞間の情報伝達は、ある細胞が放出した分子が、別の細胞内にシグナル伝達の連鎖反応(カスケード)を引き起こすことによって行われる。遺伝子の活性化/不活性化を必要とするシグナル経路では、しばしばカスケードの下流に転写因子の存在がある。エストロゲンシグナルはかなり短いカスケードを持つ例で、エストロゲン受容体転写因子が関与する。エストロゲンは卵巣胎盤から分泌され、細胞膜を通過し細胞質内に存在するエストロゲン受容体に結合する。エストロゲン受容体は内に移動し、特定のDNA配列に結合、関連する遺伝子の転写を調節する。

環境への応答

転写因子の活動の場は生物学的刺激に対するシグナル伝達だけではなく、環境刺激に対しても転写因子の作用が関わっている。高温条件下で生存するために必須の遺伝子を活性化する熱ショック因子(en)(HSF)、低酸素環境に対応する低酸素誘導因子(HIF)、あるいは細胞内の適切な脂質レベルを維持するステロール調節エレメント結合蛋白(Sterol Regulatory Element Binding Protein; SREBP)などがその例である。

細胞周期調節

多くの転写因子が細胞周期の調節に関与する。細胞がどこまで大きくなり、どのタイミングで分裂を行うかの決定を補助する。細胞周期調節は特にがん遺伝子がん抑制遺伝子に誘導される転写因子の働きとして重要である。著明な例として細胞の成長とアポトーシスに作用するMyc蛋白がある。




  1. ^ 『転写因子による生命現象解明の最前線』 p.25
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