粘着式鉄道
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/01/26 03:11 UTC 版)
粘着係数の変動
変動要因
粘着係数(粘着限界÷輪重)は一定ではなく、様々な条件によって変化する。以下にその要因を示す。
車輪がレールと接触する面を「踏面」(とうめん)という。踏面は見た目には綺麗に整っているように思われても、実際には細かく見ると微小な突起物がたくさんあるでこぼこした表面になっている。レールの側も同様であり、この突起物同士が接触している地点で接線力を伝達している[7]。鉄道では多くの車両で踏面ブレーキという、制輪子を踏面に押し当てて制動力を得るブレーキが用いられている。この制輪子のうち、鋳鉄制輪子や特殊鋳鉄制輪子の場合は、踏面の荒さを適度に保つため粘着係数を維持する効果がある。一方合成制輪子(レジン制輪子)は踏面を綺麗に磨き上げて表面粗さが失われてしまい、粘着係数が減少する傾向がある[5]。
また雨が降るなどしてレール表面が濡れると粘着が低下する。これは車輪とレールの隙間に水が入り込んで、水が輪重の一部を負担するようになり、車輪とレールの突起物同士の間に働く輪重が減少してしまうからである[7]。また、突起物が水に埋もれてしまい、突起物のうちレールと接触するものの数も減少する。さらに表面に付着した液体の粘度が高いほど粘着係数が小さくなる傾向があり、水は水温が低いほど粘度が高いため、低温では粘着係数が大きく低下する[19]。レール表面に付着している汚れ成分によっても粘着係数が変化し、特に雨が降り始めた初期には汚れ成分が水に溶け出して界面化学作用が起きて粘着係数が低下することがある[20]。長い編成の列車では、先頭車両がレール面上の水を弾くため後方の車両では水が粘着係数に与える影響が少なくなる。おおむね3両目以降では空転や滑走が起きづらくなり、新幹線の500系や700系ではこの効果を積極的に利用している[20]。
列車の速度も粘着係数に影響を与える。レールが十分乾燥した状態では速度との関係はあまりないが、レールが湿潤状態になると速度が上がるにつれて粘着係数が低下する。接触面に入り込んだ水が膜状になり、この水膜が速度の0.6乗におおむね比例して厚くなることから、高速ではより大きく輪重を負担するようになるためである[20]。
水の他に、湿度、レール上の落ち葉、ほこり、油類、踏切において自動車が持ち込む泥などが粘着に影響を与える[21]。
粘着係数が高くなる場合としては、熱処理レールを使用した場所で酸化鉄(III)がレール表面に形成されていると0.7に達することもある[22]。これは、1 tの輪重に対して700 kgの粘着力が得られるということである。ただしこれは例外的な高い値であり、かえってレールの波状磨耗やきしり音などの問題を引き起こすことがある[22]。通常のレールと車輪の状態では乾燥した箇所で0.25 - 0.30、濡れた状態では0.18 - 0.22、油が付着した状態では0.15 - 0.18、みぞれや雪が付着した状態では0.10 - 0.15である[23]。また、ゴムタイヤコンクリート軌道式の新交通システムでは、状態がよければ1.0を超え、通常でも0.50 - 0.60程度あり鉄輪鉄軌条式に比べて粘着が優れているが、降雨・降雪時に大きく粘着が低下する傾向があり、粘着係数の天候に対する安定性の観点では鉄輪鉄軌条式の方が優れている[24]。
計画粘着係数
JRグループでは、実験結果を基にして以下のような式で運転性能を算出する際の粘着係数を定めている[25]。このような粘着係数推定値を計画粘着係数とも呼ぶ[26]。ここでvの単位はkm/hである。
車両種類 | 駆動時 | 制動時 | |||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
直流・交直流電気機関車 | 計算式の根拠となった実測データには粘着係数が悪化する条件であるレール湿潤状態や先頭車での条件のものも含め、実測データの下限を結ぶように計算式が立てられている[26]。この計算式をグラフ化したものを示す。制動時の粘着係数が多くの範囲で駆動時より低く見積もられているのは、安全上の制約などで厳しく考えられているからである。また車両の種類によって異なるのは、駆動の制御の仕方によって実際の粘着係数をどの程度有効に活用できるかが考慮されているからである[25]。
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