競走馬の血統
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/08 22:27 UTC 版)
血統表
血統表とは、競走馬や馬術競技馬の血統を表す上で使われる家系図の一種のこと。その馬の代々の祖先を父方・母方にかかわらず特定世代まで全て表にまとめている。
血統を見る際には、血統表は必要不可欠のものである。書き方には何通りかの流儀があるが以下では最も一般的なものについて説明する。なお、馬の系図には他にサイアーラインやファミリーライン(牝系図)などもあるが、これらは血統表と違い血統の一面(父方や母方のみ)を見るためのもので、全体を見るにはやはり血統表が必要となってくる。
血統表の見方
テイエムオペラオーを例にとって説明する。
- 1番左の列は上下2段に分けて上に父の名を、下に母の名を書く。
- テイエムオペラオーは、父がオペラハウス、母がワンスウェドである。
オペラハウス |
ワンスウェド |
- (補足)このさらに左に自分自身の名を記述することもある。
- つまり1段目は、1代先祖の父と母が並ぶことになる。
- 次に左から2番目の列は4段に分ける。上2段は父についての欄で、先程と同様に上に(父の)父の名を、下に(父の)母の名を書く。
- オペラハウスの父はSadler's Wells(日本に輸入されていない競走馬は英語表記)、母はColorspinである。
オペラハウス | Sadler's Wells |
Colorspin | |
ワンスウェド |
- 下2段は母についての欄で、上に(母の)父の名を、下に(母の)母の名を書く。
- ワンスウェドの父はBlushing Groom、母はNouraである。
オペラハウス | Sadler's Wells |
Colorspin | |
ワンスウェド | Blushing Groom |
Noura |
- つまり2段目は、2代先祖の(父方と母方双方の)祖父と祖母が並ぶことになる。
- 以下同様に、左から3段目は3代前の先祖が8頭並ぶ。左から4段目は4代前の先祖が16頭並ぶ。まとめると以下のようになる。
テイエムオペラオーの血統 | (血統表の出典)[§ 1] | |||
父系 | サドラーズウェルズ系 |
[§ 2] | ||
父 *オペラハウス Opera House 1988 |
父の父 (父の父)Sadler's Wells 1981
|
(父の父の父)Northern Dancer | (父の父の父の父)Nearctic | |
(父の父の父の母)Natalma | ||||
(父の父の母)Fairy Bridge | (父の父の母の父)Bold Reason | |||
(父の父の母の母)Special | ||||
父の母 (父の母)Colorspin 1983
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(父の母の父)High Top | (父の母の父の父)Derring-Do | ||
(父の母の父の母)Camenae | ||||
(父の母の母)Reprocolor | (父の母の母の父)Jimmy Reppin | |||
(父の母の母の母)Blue Queen | ||||
母 *ワンスウェド Once Wed 1984 |
(母の父)Blushing Groom 1974 | (母の父の父)Red God | (母の父の父の父)Nasrullah | |
(母の父の父の母)Spring Run | ||||
(母の父の母)Runaway Bride | (母の父の母の父)Wild Risk | |||
(母の父の母の母)Aimee | ||||
母の母 (母の母)Noura 1978
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(母の母の父)Key to the Kingdom | (母の母の父の父)Bold Ruler | ||
(母の母の父の母)Key Bridge | ||||
(母の母の母)River Guide | (母の母の母の父)Drone | |||
(母の母の母の母)Blue Canoe | ||||
母系(F-No.) | 4号族(FN:4-m) | [§ 3] | ||
5代内の近親交配 | Nasrullah4×5=9.38%、Nearco5×5=6.25% | [§ 4] | ||
出典 |
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- この血統表では4代目まで記述されているため4代血統表と呼ぶ。これには4代前までの先祖が全て記述されている事になる。
補足
- 1番上の行は父、父の父、父の父の父、父の父の父の父と並ぶ。これらの配列をサイアーラインという。
- 逆に1番下の行には母、母の母(祖母)、母の母の母(曽祖母)、母の母の母の母(高祖母)と並ぶ。これらの配列をファミリーラインという。
- 5段まであって五代前の先祖32頭までを表に掲載した血統表は五代血統表と呼ぶ。以下6代、7代、8代血統表と呼ばれるが、次第に莫大な数の先祖馬を記載する必要が出てくるため特殊な用途にしか用いられない。I理論は9代血統表(1000頭以上)を常に用いる。ドサージュ理論においては12代血統表(約8200頭記載)が使われた事がある。一般的には3代から5代血統表がよく用いられる。
- 血統表によっては生年や毛色を併記することもある。
- インブリードの発生している馬を太字、あるいは色等で区別して表記することもある。
馬名の表記について
- 馬名の表記については、全てカタカナあるいはラテン文字で表記する場合もあるが(国によっては漢字やハングルも使用される[3])、輸入馬に対してアスタリスクをつける場合もある。これを「Sadler's Wells (USA)」の様に表記する例も見られる。
- 同名異馬が存在する場合には「Nijinsky II」の様に表記する場合が多かった。これも国が変わると、元の国では「Right RoyalIII」だったものが別の国へ行くと「Right RoyalV」に変わるというようなことが起きることから、近年は「Nijinsky (CAN)」、「Nijinsky (1967)」と表記する場合もある。
- 現在では認められていないが、かつては1シーズンに異なる種牡馬を配合することが行われていた。Aという馬を配合し、妊娠が確認できなかった場合にBという種牡馬を配合したような場合である。この場合、血統表には「A or B」と表記される。現代の知見では、「妊娠が確認できなかった」という判断が誤りで、実際にはAの子を妊娠している可能性も否定しきれないとされている。こうした「A or B」式の表記が行われる場合には、便宜上は祖父には「正しい父親である可能性が高そうなものの祖父」を記載するが、リーディングサイアーの統計などには除外されている。
- なお、ウィキペディア日本語版では、血統表中の表記として、「日本で競走に走った馬」ならびに「日本に繁殖で輸入された馬」はカタカナ表記(あるいはラテン併記)、それ以外の日本に輸入されていない競走馬は母言語にかかわらずラテン文字表記としている。ただし日本で繁殖馬として登録された場合に漢字カナ等を用いて登録されているものはそれに従う。
注釈
- ^ 同様に父の父の父・母の母の母などサイアーライン・ファミリーラインの血統の馬を曽祖父・曽祖母などという。
- ^ 類似の噂話には、アングロアラブ種における血統偽装(「テンプラ」と呼ばれる)があるが、20世紀におけるサラブレッドの大種牡馬について、このような言説を自著で発表しているのは、世界でも中島だけである。中島はクォーターホースの血を引くサラブレッドという概念に「アメリカンダミー」という言葉を当てているが、これも海外では使用例がなく、実際には中島独自の造語である可能性が高い。
- ^ スティルインラブなどが「日高ニックス」の典型例とされる。ただし、父がサンデーサイレンス系で、かつ母父がロベルト系の勝ち上がり率は、2009年7月時点で31.9%(中央勝ち上がり144頭/中央出走452頭)で、父サンデーサイレンス系全体の39.1%(同3335/8540)よりも著しく低い。また重賞勝ち馬率は、前者が2.0%(9/452)で、後者の2.9%(244/8540)の2/3に過ぎず、1頭当たりの平均獲得賞金は前者が1291万円で、後者の1991万円より700万円低く、2/3以下である。このように「日高ニックス」は勝ち上がる確率・重賞勝馬になる確率・稼ぐ賞金額のすべてが低くなる配合であり、中島の言うような結果は現実には出ていない。
出典
- ^ Thiruvenkadan, A. K., N. Kandasamy, and S. Panneerselvam. "Inheritance of racing performance of Thoroughbred horses." Livestock Science 121.2-3 (2009): 308-326.
- ^ 及川正明. "優秀な競走馬を生産するための種雌馬の要因について." 馬の科学 40.1 (2003): 54-56.
- ^ [1]
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