梓川電力 電力国家管理に伴う処理

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梓川電力

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/01/24 05:37 UTC 版)

電力国家管理に伴う処理

1930年代後半に入ると、政府による電気事業の管理・統制を目指すいわゆる「電力国家管理」政策が政府内で具体化されるようになり、日中戦争勃発後の1938年(昭和13年)4月、国策会社日本発送電を通じた政府による発送電事業の管理を規定する「電力管理法」と関連法3法の公布に至った[33]

1939年(昭和14年)4月1日、電力国家管理の担い手たる日本発送電株式会社が発足する[33]。設立に際し全国の事業者から出力1万キロワット超の火力発電所と主要送電設備が現物出資の形で日本発送電へと集められており[34]、梓川電力自体は出資対象外であるが、関連する範囲では竜島発電所と戸塚変電所を結ぶ東京電灯の甲信線が日本発送電に渡った[35]。電気庁の資料によると、日本発送電設立後の1939年末の段階では、梓川電力が持つ霞沢発電所(この段階での出力は3万9000キロワット[注釈 5])と沢渡発電所はどちらも日本発送電へ全出力を供給する発電所として扱われている[37]

1940年代に入ると、既存電気事業者の解体と日本発送電の体制強化・配電事業の国家統制にまで踏み込んだ第二次電力国家管理政策が急速に具体化されていく[33]1941年(昭和16年)4月に発送電管理強化のための電力管理法施行令改正が実行され、同年8月には配電事業統合を規定する「配電統制令」の施行に至った[33]。このうち第二次電力国家管理における日本発送電への設備出資は1941年10月1日付(第一次出資)と翌1942年(昭和17年)4月1日付(第二次出資)の2度に分割し実施された[33]。今回の出資対象には一部の水力発電所(出力5000キロワット超の水力発電所とそれらに関連する水力発電所)も含まれており[34]、梓川電力も1941年10月分の第一次出資における出資対象事業者に選ばれた[38]。出資対象設備は以下の通りである[26]

  • 発電設備 : 霞沢発電所・沢渡発電所
  • 送電設備 : 沢渡連絡線(沢渡発電所 - 霞沢変電所間)

第一次出資では、これらの梓川電力の設備のほか東京電灯竜島発電所や京浜電力奈川渡発電所、霞沢変電所 - 竜島発電所間の京浜電力送電線なども出資対象に含まれている[26]

梓川電力に関する出資設備の評価額は1065万4002円50銭と算定された[38]。これは第一次出資の対象27事業者中17位の金額である[38]。この出資の対価として梓川電力には日本発送電の株式21万3080株(額面50円払込済み、払込総額1065万4000円)と端数分の現金2円50銭が交付された[38]。日本発送電への設備出資実施日と同じ1941年10月1日、梓川電力は臨時株主総会を開き、そこでの決議により解散した[3]。代表清算人は小坂順造が務める[3]。さらにその3か月後の1942年1月14日、臨時株主総会にて親会社長野電気との合併を決議した[39]。契約上の合併期日は1942年3月20日で、合併比率は1対1である[40]。ただし合併相手の長野電気も日本発送電への設備出資や配電事業統合(中部配電への統合)の手続き中であり[40]、出資や梓川電力の合併を終えたのち1942年5月1日付で解散した[34]

太平洋戦争後の1951年(昭和26年)、電気事業再編成によって日本発送電は解体された。再編成に際し、旧梓川電力の霞沢・沢渡両発電所や周辺の竜島発電所・奈川渡発電所などは中部電力管内の長野県にありながら関東地方を管轄する東京電力へと引き継がれている[41][42]


注釈

  1. ^ 王子製紙専務取締役。梓川電力では設立とともに相談役に推される[7]
  2. ^ 当時長野電灯取締役。梓川電力では設立時に監査役就任[7]
  3. ^ 特定の需要家のみに電力供給をなす事業は当時の電気事業法では「電気事業」の範囲外のため[17]。こうした事業についても電気事業法の大部分の条項を適用させる「電気事業法準用」の認定制度があったが[17]、梓川電力には適用されていない。
  4. ^ 改正後は別の電気事業に対して電気を供給する事業も「電気事業」の一種として位置づけられるようになった[19]。この措置で自家用電気工作物施設者から電気事業者(特定供給事業者)へと昇格した事業者は計89ある[20]
  5. ^ 霞沢発電所では1938年10月に3万1100キロワットから3万9000キロワットへの出力増強工事が完成した[36]

出典

  1. ^ a b 『電気年鑑』昭和7年電気事業一覧74-75頁。NDLJP:1139495/127
  2. ^ a b c d 商業登記」『官報』第3727号、1925年1月27日付
  3. ^ a b c d 公示催告 梓川電力株式会社」『官報』第4424号、1941年10月4日付
  4. ^ a b 「梓川電力株式会社第33回決算報告書」(J-DAC「企業史料統合データベース」収録)
  5. ^ a b 高橋明「東京電力の発電所と連系設備」26-29頁
  6. ^ a b c 『関東の電気事業と東京電力』262-264頁
  7. ^ a b c d e f 村山研一「梓川の水資源開発と発電用水利権」
  8. ^ a b c 「梓川電力株式会社第1期決算報告書」(J-DAC「企業史料統合データベース」収録)
  9. ^ a b 『経済雑誌ダイヤモンド』第17巻第12号
  10. ^ a b c 『小坂順造』118-122頁
  11. ^ a b 『中部地方電気事業史』下巻357-358頁
  12. ^ a b c d e f g 『日本の発電所』中部日本篇343-349頁。NDLJP:1257061/15
  13. ^ a b c d e 「梓川電力株式会社第9期決算報告書」(J-DAC「企業史料統合データベース」収録)
  14. ^ a b 『関東の電気事業と東京電力』394-396頁
  15. ^ a b c 『日本の発電所』東部日本篇323-328頁。NDLJP:1257046/345
  16. ^ 『日本の発電所』東部日本篇56-59頁。NDLJP:1257046/78
  17. ^ a b 『電気事業法制史』81-87頁
  18. ^ 『電気事業要覧』第24回94頁。NDLJP:1077197/74
  19. ^ 『電気事業法制史』138・145・153頁
  20. ^ 『電気事業要覧』第25回2頁。NDLJP:1077236/27
  21. ^ 『電気事業要覧』第25回39頁。NDLJP:1077236/45
  22. ^ a b c d 『土木学会誌』第23巻第3号
  23. ^ a b 「梓川電力株式会社第25回決算報告書」(J-DAC「企業史料統合データベース」収録)
  24. ^ 『電気事業要覧』第31回900-901頁。NDLJP:1077029/465
  25. ^ 『電気年鑑』昭和12年本邦電気界44頁。NDLJP:1114997/42
  26. ^ a b c d 日本発送電株式会社法第五条の規定に依る出資に関する公告」『官報』第4313号、1941年5月27日付
  27. ^ 『電気年報』昭和12年版207-208頁。NDLJP:1114851/126
  28. ^ a b 「梓川電力株式会社第10回決算報告書」(J-DAC「企業史料統合データベース」収録)
  29. ^ 『小坂順造』100-106頁
  30. ^ a b c 『小坂順造』123-128頁
  31. ^ 『銀行会社年鑑』昭和9年版96-99・139頁。NDLJP:1075539/89
  32. ^ a b c 「梓川電力株式会社第14回決算報告書」(J-DAC「企業史料統合データベース」収録)
  33. ^ a b c d e 『中部地方電気事業史』上巻304-316頁
  34. ^ a b c 電力再構成の前進」『中外商業新報』1942年4月8日 - 18日連載(神戸大学附属図書館「新聞記事文庫」収録)
  35. ^ 日本発送電株式会社法第五条の規定に依る出資に関する公告」『官報』第3482号、1938年8月11日付
  36. ^ 逓信省電気局『電気事業月報』昭和14年1月。NDLJP:1571405/168
  37. ^ 『電気事業要覧』第31回744頁。NDLJP:1077029/387
  38. ^ a b c d e 『日本発送電社史』業務編10-13頁
  39. ^ a b 合併並に減資及株券提供公告」『官報』第4504号、1942年1月16日付
  40. ^ a b 『調査彙報』第171号98-99頁
  41. ^ 『中部地方電気事業史』下巻341-344頁
  42. ^ 『関東の電気事業と東京電力』資料編94-95
  43. ^ 商業登記 梓川電力株式会社変更」『官報』第4018号、1926年1月19日付
  44. ^ 商業登記 梓川電力株式会社本店移転」『官報』第1394号、1931年8月21日付


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