抗真菌薬 ヒトの真菌症と抗真菌薬

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抗真菌薬

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/24 17:15 UTC 版)

ヒトの真菌症と抗真菌薬

ヒトの真菌症の分類

表在性真菌症
皮膚、粘膜、爪に発生した真菌感染症のことである。白癬癜風マラセチア毛包炎カンジダ症の一部が含まれる。
深部皮膚真菌症
真皮や皮下組織に発生した真菌感染症である。スポロトリコーシスやクロモミコーシス症などが含まれる。
深在性真菌症
日和見感染症として肺、腸管など全身の各臓器に生じる感染症である。ただし、コクシジオイデス症などは感染力が強く、健常者でも発症し得る。カンジダ血症、侵襲性アスペルギルス症、クリプトコッカス脳髄膜炎が有名である。

真菌症の診断

感染症診断上のゴールドスタンダードは原因真菌の分離同定である。しかし真菌症の特徴として、培養や生検が困難な状況が多いことが挙げられる。そのため、血清学的な補助診断を用いる場合も多い。最も有名な物はβ-D-グルカンである。β-D-グルカンは主要な病原真菌に共通する細胞壁構成多糖成分の1つである。カンジダ属やアスペルギルス属の細胞壁で豊富に含有されている。β-D-グルカンはセルロース素材の透析膜を用いた血液透析、血液製剤(アルブミン製剤、グロブリン製剤など)の使用、環境中のβ-D-グルカンによる汚染、β-D-グルカン製剤の使用、Alcalogenes faecalisによる敗血症患者、測定中の振動(ワコー法)、非特異的反応(溶血検体、高ガンマグロブリン血症)などで偽陽性になる場合がある。β-D-グルカンはカンジダ、アスペルギルス、ニューモシスチスでは上昇するがクリプトコッカス、ムコールでは上昇しない。よく用いられる真菌マーカーを以下にまとめる。また病原微生物の遺伝子検査も行われている。

  抗原 対応真菌
細胞壁成分 β-D-グルカン カンジダ、アスペルギルス、ニューモシスチス
抗原 マンナン カンジダ
抗原 グルクロノキシロマンナン クリプトコッカス
抗原 ガラクトマンナン アスペルギルス
抗体 抗アスペルギルス沈降抗体 アスペルギルス
カンジダ症
β-D-グルカンやマンナン抗原を、補助診断で用いる場合がある。ただしマンナン抗原検査は、カンジダ属菌種によっては陽性反応を示さない場合も見られる。GeniQ-カンジダなど遺伝子検査キットも存在する。
クリプトコッカス症
グルクロノキシロマンナン抗原を、補助診断で用いる場合がある。ただし、播種性トリコスポロン症でも陽性化するので、注意が必要である。
アスペルギルス症
ガラクトマンナン抗原と抗アスペルギルス沈降抗体が、補助診断で用いられる場合がある。肺アスペルギローマや慢性壊死性肺アスペルギルス症などの慢性アスペルギルス感染症では、ガラクトマンナン抗原は検出され難く、抗アスペルギルス沈降抗体を検出することで臨床診断の参考にできるとされている。ガラクトマンナン抗原特にプラテリアアスペルギルスでは、タゾバクタム/ピペラシリン投与、クラブラン酸/アモキシシリン投与、ビフィドバクテリウム属の当館内定着、C.neoformans galactoxylomannan、大豆タンパク質を含む経管栄養などで測定結果が影響を受ける。

抗真菌薬のスペクトラム

真菌は酵母様真菌、糸状真菌、二相性真菌に分類される。糸状真菌にはアスペルギルス属菌、ムコール属(接合菌属)が含まれ、酵母様真菌にはカンジダ属やクリプトコッカス属が含まれる。二相性真菌にはコクシジオイデス、ヒストプラズマ、パラコクシジオイデス、マルネッフェイ型ペニシリウム症、ブラストミセスなどが知られている。

一般的に糸状真菌の方が、酵母様真菌より治療が難しい。抗真菌薬のうちフルコナゾールとフルシトシンは糸状菌には効果が無く、酵母様真菌に効果が有るとされている。カンジダではフルコナゾールとフルシトシンの耐性化が進んでいる。

一般名 商品名 略号 カンジダ クリプトコッカス アスペルギルス 接合菌
アムホテリシンB ファンギゾン AMPH-B
リポソームアムホテリシンB アムビゾーム L-AMB
ミコナゾール フロリードF MCZ
フルコナゾール ジフルカン FLCZ × ×
ホスフルコナゾール プロジフ F-FLCZ × ×
イトラコナゾール イトリゾール ITCZ
ボリコナゾール ブイフェンド VRCZ ×
フルシトシン アンコチル 5-FC ×
ミカファンギン ファンガード MCFG × ×

薬力学と薬物動態学

PK-PDパラメータ

抗真菌薬 抗真菌作用 post-antifugal effect PK-PDパラメータ 効果増強には
アゾール系 時間依存的 長い AUC/MIC 1回投与量増量
ポリエン系 濃度依存的 長い Cmax/MIC 1回投与量増量
フロロピリミジン系 時間依存的 短い TAM 投与間隔短縮
キャンディン系 濃度依存的 長い Cmax/MIC 1回投与量増量

フルコナゾール(FLCZ)、ボリコナゾール(VRCZ)、イトラコナゾール(ITCZ)では初回投与量を通常容量の倍量用いたloading doseが行われる。

併用療法

抗真菌薬の効果を上げるため、多剤併用療法が行われる場合もある。原則として、キャンディン系は細胞壁、アゾール系とポリエン系は細胞膜、フロロピリミジン系は核酸に作用するため、作用部位の異なる薬物を使用するのが合理的である。ただしエビデンスは乏しい。

クリプトコッカス髄膜炎
1979年にアムホテリシンBとフルシトシンの併用療法が、アムホテリシンBの単剤の比較して有効と報告され、現在も非HIV例では第1選択である。ポリエン系薬の導入療法後のアゾール系薬(特にフルコナゾール)による地固め療法が有効との報告もあるが、ポリエン系とアゾール系同時併用のエビデンスは不足している。アムホテリシンBにインターフェロンγを併用することで、脳脊髄液中の真菌陰性化を早める傾向があるものの、真菌学的に有意差は得られていない。
侵襲性カンジダ血症
カンジダ血症ではアムホテリシンBとフルコナゾールの併用療法とフルコナゾール単剤の無作為比較試験が有り、菌陰性化においては併用療法の有効性が認められたものの、臨床使用の結果、僅かな効果しか発揮されなかった。キャンディン系やボリコナゾールなどの登場で、通常のカンジダ血症は単剤で治療可能である。しかし髄膜炎、血液腫瘍、好中球減少症例、心内膜炎などを合併する重症例では、併用療法の効果も期待される。
侵襲性アスペルギルス症
侵襲性アスペルギルス症は、極めて予後不良な疾患である。アメリカ合衆国ではボリコナゾールとカスポファンギンの併用療法が、有効だとの報告が有る。

バイオフィルム

自然界で真菌はバイオフィルムを形成しており、検査室で用いる液体培地内の浮遊菌は例外的な増殖形態である。カンジダは静脈カテーテル内にバイオフィルムを形成し易いことが、カンジダによる菌血症が多い一因である。


  1. ^ a b c 上野 芳夫・大村 智 監修、田中 晴雄・土屋 友房 編集 『微生物薬品化学(改訂第4版)』 p.233 南江堂 2003年4月15日発行 ISBN 4-524-40179-2
  2. ^ a b c 上野 芳夫・大村 智 監修、田中 晴雄・土屋 友房 編集 『微生物薬品化学(改訂第4版)』 p.238 南江堂 2003年4月15日発行 ISBN 4-524-40179-2
  3. ^ 上野 芳夫・大村 智 監修、田中 晴雄・土屋 友房 編集 『微生物薬品化学(改訂第4版)』 p.236 南江堂 2003年4月15日発行 ISBN 4-524-40179-2
  4. ^ 佐藤 哲男・仮家 公夫・北田 光一(編集)『医薬品トキシコロジー(改訂第3版)』 pp.16-19 南江堂 2006年4月15日発行 ISBN 4-524-40212-8
  5. ^ 岩川 愛一郎(監修) 水嶋 昭彦(著)『検査数値と病気がわかる 内臓のしくみとはたらき』 p.174 日本文芸社 2013年8月15日発行 ISBN 978-4-537-21126-9






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