急性呼吸窮迫症候群
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/19 06:55 UTC 版)
病因
敗血症、大量輸血、重症肺炎、胸部外傷、肺塞栓、人工呼吸、純酸素吸入、急性膵炎等で重症の患者に突然起こる。その初期段階における病態生理は様々であるが、最終的に発症に至る経緯及び治療法は同じである。
- 敗血症
- 原因としては最も多い。ことにアルコール多飲歴がある場合、死亡率は倍にもなる。グルタチオンの欠乏が酸素による傷害を助長し、また白血球の肺組織への接着も亢進していると考えられている。
- 外傷
- 両側の肺挫傷あるいは多臓器不全を来たすような外傷。APACHE IIスコアが16点以上の場合は9点未満に比べて本症発症のリスクが2.5倍、20点以上の場合は3倍になるという疫学調査結果がある。
- 大量輸血
- 輸血によるALI (TRALI: transfusion-related acute lung injury) の発症率は、輸血の総量よりもバッグ数に比例する(同じ単位数でも小口のバッグに分かれていると発症率が上がる)。献血者が経産婦であった場合や、輸血製剤の加温・照射後時間が経ってから輸注した場合などには発症率が上昇する。白血球除去処理をしていない場合にはさらに発症の危険が高い。また、ALIを発症後にさらに赤血球を輸注すると重症化しやすい[1]。
心不全による肺水腫に合併することもあるが、本症はより重症であり、明確に鑑別されなければならない。
こうした背景のある患者においては、腫瘍壊死因子やインターロイキン1・6・8が血流中に放出されている。肺は体内を循環する血液が必ず通る臓器であるため、その影響を受けやすい。好中球が誘引され、肺組織において活性酸素やプロテアーゼを放出して肺胞毛細血管上皮や肺胞上皮組織を傷害する。肺に定着した好中球はさらにG-CSFやGM-CSFを放出し、局所の炎症反応を増幅する。こうして血管透過性が増し、間質さらには肺胞内まで血性の滲出液で満たされてしまう。
換気血流不均衡と死腔の増大により、CO2の呼出には通常より多くの換気が必要となる。しかし初期には滲出液で満たされた肺胞が、そして後期には線維化した肺がコンプライアンスの低下(肺の硬化)をもたらし、高い圧での人工呼吸が必要となる。
肺胞の毛細血管は換気が悪いと収縮し、換気の良い部位の血流を増大させる作用がある。しかし本症においては、肺の多くの部位で換気が悪くなるため、それらの部位の毛細血管が収縮し、肺高血圧症をもたらす。
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