急性呼吸窮迫症候群
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/19 06:55 UTC 版)
疫学
集中治療室に収容中の患者の15%、人工呼吸を受けている患者の20%に起こる。
症状・徴候
酸素飽和度と動脈血酸素分圧が急激に低下する。北米・ヨーロッパコンセンサス会議 (NAECC) は、P/F比 =(動脈血酸素分圧 / mmHg)÷(吸入気の酸素分率)が200以下のものをARDS、300以下のものをALIと定めた。この定義でALIの患者の4人に1人が、7日以内にARDSへと発展する[2]。他に数値で表すべき診断基準は未だ定まっていない[3]。
臨床的には、頻呼吸と1回換気量の低下が起きる。胸部X線上は著明な浸潤影を認める。
合併症
- 気道損傷
- 肺組織の脆弱化と高圧の人工呼吸とで気胸、肺気腫、縦隔気腫、空気塞栓或いは微細な肺組織の損傷が生じる。高い酸素濃度による組織の障害も関係している。
- 呼吸器感染症
- 本症では長期にわたる気管挿管と人工呼吸を必要とするため、人工呼吸器関連肺炎を起こしやすい。
治療
気管挿管を行い、人工呼吸管理が必要である。大量の気道分泌物によって肺胞虚脱や細気管支の閉塞が起きるため、高い呼気終末陽圧で管理する。集中治療室管理が必要である。
心不全を合併していなければ、肺動脈カテーテルの適応ではないと考えられている。
現在、以下の治療法が研究されている。
- 交感神経β2受容体作動薬:細気管支の拡張、気道分泌物の低下を狙ったもの
- エラスターゼ阻害薬(シベレスタット)
- 一酸化窒素吸入:肺血流を増大させ循環動態を改善しようとするもので、中止時に反動で肺高血圧の悪化と酸素化の低下が見られることがある
- 人工サーファクタント投与:新生児呼吸窮迫症候群における治療と同じく、気道内の滲出液の排除を狙ったもの
- 腹臥位等
予後
治療開始の早さが予後を決定する。死亡率は4割程度であるが、背景にある疾患と本症による呼吸不全とが互いに増悪し合ってのものが多い。酸素が持つ細胞傷害作用が肺の線維化を助長するため、数日経っても人工呼吸器の酸素濃度を50%まで下げられなかった患者は予後が悪い。
本症の回復を見た症例では、線維化はある程度は可逆的であり、呼吸器系の後遺症は軽度なものが残る。重度の低酸素症を経験した場合は高次脳機能障害が残ることもある。
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