和州吉野郡群山記 写本と書誌

和州吉野郡群山記

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/11 13:37 UTC 版)

写本と書誌

群山記には以下に述べるとおり、3点の写本が知られている[21]。このうち、伴存自筆と推定されるのは、伴存門弟の堀田龍之介の所蔵していた『和州吉野郡群山記』1本のみで、他の写本は自筆稿からの異本である[22]。しかし、それら異本は、著者自身が一度も用いなかった「名山図志」なる語を書名としたり、正しくは「志」とすべきところを「誌」と書き誤るといった書誌学的な過誤だけでなく、学術的な博物誌であるにもかかわらず名所案内として解題するなど問題の多いものである[23]

和州吉野郡群山記

伴存門弟の堀田の所蔵していたもので、堀田本と呼ばれる。筆跡などから伴存自筆本と見られ、伴存の遺族から譲り受けたものと考えられている[24]

美濃紙に表裏墨付9行行書で書かれ、引用は楷書細字で区別されている。各冊は紙縒で綴じられている。全巻の目録によれば7巻となっているが、7巻目の和州吉野郡物産志は上下2巻のため、実際には8巻である。物産志では産地としてただ地名を注記するのみであり、第1巻から6巻を参照するようにできている[25]

吉野郡名山図志

国立国会図書館蔵の5巻5冊本。東京の加賀豊三郎所蔵本から、白井光太郎が1916年大正5年)に写本を作らせたものであることから白井本とも呼ばれる。堀田本と構成が異なり、原本にない図を加えたところもあり、「名山図志」という書名も伴存自身が採った物ではない。しかし、内容上堀田本の写本であることは確実である。

和州吉野郡名山図志および吉野群山記

天理図書館蔵。個人旧蔵書で白井本と同じ本からの写本で、内容もほぼ一致する。しかし、名山図志の題にふさわしいものにしようとしたためか、紀州藩の南画家の野呂九一郎の筆による「台山踄歴略記」なる文章が付されているが、南画調の山岳絵は違和感が否めない。また、挿絵の模写も、模写者の技術を誇示しようとしたためか原画の歪曲との感を与えるものが混じっており、特に弥山から釈迦ヶ岳にかけての図ではそのことが明瞭である。


  1. ^ 上野[1989: 45]
  2. ^ a b 奈良県史編集委員会[1990: 188]
  3. ^ 上野[1989: 43]
  4. ^ a b 奈良県史編集委員会[1990: 135]、上野[1989: 50、67]など
  5. ^ a b 奈良県史編集委員会[1990: 189]
  6. ^ 杉本[2006: 273]
  7. ^ a b c d 上野[1989: 55]
  8. ^ a b c 御勢[1989: 3]
  9. ^ 上野[1985: 48-49]。伴存の書簡によれば「物産後志」なるものを著す計画もあったようだが、実現を見なかった[上野 1984: 57]。
  10. ^ a b c 上野[1989: 56]
  11. ^ 群山記巻五所収の伯母ヶ峯の記事に、文政年中の文言がある([御勢1998: 3]等)。
  12. ^ 御勢[1998: 259]
  13. ^ 御勢[1998: 260]
  14. ^ a b c 杉本[1984: 279]
  15. ^ 御勢[1989: 2-3]
  16. ^ 上野[1989: 49-50]
  17. ^ a b 上野[1989: 50-51]
  18. ^ a b 平井[1984: 613]
  19. ^ 御勢[1989: 6]
  20. ^ a b c 御勢[1989: 7]
  21. ^ 以下の記述は特記ない限り、上野[1989: 48-52]による。
  22. ^ 上野[1989: 53-54]
  23. ^ 上野[1989: 54]。各写本の系統と問題点については上野[1989: 53-54]を参照。
  24. ^ 上野[1989: 47-48]
  25. ^ 上野[1989: 49]
  26. ^ 平井[1984: 613]
  27. ^ 御勢[1998: xiv]


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