参議院
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/03/23 09:51 UTC 版)
特質
良識の府
内閣にとって多数派の支持が必須となる衆議院は、逆に言えば通常は内閣の存立基盤であり、日本国政府を監視し、その過誤を是正するといった機能は、参議院の方により強く期待されることとなる。
参議院議員の任期は6年と長く、衆議院とは異なり内閣総理大臣によって解散されることもない。多様な人材を集めて充実した審議がなされ、院も内閣も議院運営上の駆け引きを抑制しつつも、良い緊張感を保ちながら誠実な議論の積み重ねが行われる「良識の府」となることは、参議院の一つの理想であるといえる。
ただし、参議院が新設された当時の議論では「良識の府」などという議論は全くなく、誰がこのようなことを言い出したかは不明であり、由来は不明である[注釈 2]。また、設置の目的に存在したものでもない。
再考の府
衆議院先議案が衆議院で可決した後に参議院に送付されて国会で二度目の審議に入ることが多いことから「再考の府」とも呼ばれる。予算は衆議院先議規定があり、条約や法律も政権にとって重要法案は多くが政権側によって衆議院先議法案となりやすい。与野党対立法案では衆議院可決後に参議院で審議未了で廃案や継続審議となることもある。
学習院大学教授の福元健太郎が参院発足後の1947年から2000年に政府が衆議院先議に提出した7106本の全法案を分析すると、衆議院が可決した法案を参議院が実質修正したり廃案になった例は8%。審査回数で参議院が衆議院を上回ったのは22%という結果が出た[19]。一方で、政策研究大学院大学教授の竹中治堅は「参議院は戦後日本の政治過程において多くの場面で現状を維持する方向で影響を与えてきた」と分析している[20]。
衆議院で可決され参議院で否決された法案は過去に13例ある(みなし否決を除く)。ただし、衆議院で可決されたものの、参議院で議決できずに審議未了で法案が廃案になった例、参議院で修正案が可決された後で衆議院で参議院案が可決された例は多い。また、参議院で修正案が可決された後で衆議院が参議院案に賛成せず廃案になった例、参議院否決でも法案が成立した例もある。詳しくは衆議院の再議決を参照。
参院本会議議決日 | 法案 | 可 | 否 | 票差 | その後 |
---|---|---|---|---|---|
1950年(昭和25年)5月1日 | 地方税法改正案 | 73 | 102 | 29 | 5月2日の両院協議会で成案成立に至らず廃案 |
1951年(昭和26年)3月29日 | 食糧管理法改正案 | 64 | 126 | 62 | 3月31日から5月10日までの両院協議会で成案成立に至らず廃案 |
1951年(昭和26年)6月2日 | モーターボート競走法案 | 65 | 95 | 30 | 6月5日に衆院本会議で3分の2以上の賛成で再可決し成立 |
1954年(昭和29年)6月1日 | 協同組合金融事業関連法案 | 少数 | 多数 | 不明 | 参議院での継続審議を経ての否決であったため参議院先議扱いとなり廃案 |
1994年(平成6年)1月21日 | 政治改革関連法案 | 118 | 130 | 12 | 1月29日に両院協議会で修正案が成立し、衆参本会議で可決 |
2005年(平成17年)8月8日 | 郵政民営化関連法案 | 108 | 125 | 17 | 否決を受け同日衆院解散により廃案 総選挙で賛成派が圧勝し、再提出された法案が10月14日に国会で可決し成立 |
2008年(平成20年)1月11日 | 補給支援特別措置法案 | 106 | 133 | 27 | 同日、衆院本会議で3分の2以上の賛成で再可決し成立 |
2008年(平成20年)5月12日 | 道路整備費財源特例法改正案 | 108 | 126 | 18 | 翌日、衆院本会議で野党による両院協議会請求動議否決の上3分の2以上の賛成で再可決し成立 |
2008年(平成20年)12月12日 | 補給支援特別措置法改正案 | 108 | 132 | 24 | 同日、衆院本会議で3分の2以上の賛成で再可決し成立 |
2009年(平成21年)3月3日 | 第二次補正予算財源法案 | 107 | 133 | 26 | 翌日、衆院本会議で3分の2以上の賛成で再可決し成立 |
2009年(平成21年)6月19日 | 海賊行為対策法案 | 99 | 131 | 32 | 同日、衆院本会議で3分の2以上の賛成で再可決し成立 |
2009年(平成21年)6月19日 | 租税特別措置法改正案 | 99 | 131 | 32 | 同日、衆院本会議で3分の2以上の賛成で再可決し成立 |
2009年(平成21年)6月19日 | 年金改正法案 | 99 | 131 | 32 | 同日、衆院本会議で3分の2以上の賛成で再可決し成立 |
政局の府
内閣不信任決議は衆議院のみの権限であるが、参議院の権限は決して無視できないものであるため、内閣は常に両院を意識する必要がある。参議院議決が政局になることから「政局の府」とも呼ばれる。
佐藤栄作首相は「参議院を制する者は政界を制する」と語り、度々重宗雄三参議院議長の元に出向き、法案成立の協力を仰いだ。また、竹下登首相は「参議院を笑う者は参議院に泣く」と語り、参議院を軽視することを戒めた[21]。衆議院の優越規定があるが、法案の採決における衆議院優越規定について、出席議員の3分の2以上という高いハードルを課していること、参議院に解散が無く、任期の長いことが影響している。参議院に内閣総理大臣に対抗しうるドンが出てくる傾向は、のちに村上正邦や青木幹雄、輿石東らでも見られている。
1975年には、伯仲国会の中で、政治浄化が課題だった三木政権の政治資金規正法の採決では可否同数となり、河野謙三による議長決裁で可決されて成立する決着を迎えた。ねじれ国会になると、1998年の問責決議可決による閣僚辞任、2008年には第二次世界大戦後初の日本銀行総裁空席や、ガソリン税暫定税率期限切れによるガソリン大幅値下げ、与党を無視した野党による強行採決による証人喚問、2011年の平成二十二年度等における子ども手当の支給に関する法律の採決では可否同数になり、西岡武夫による議長裁決で可決されるなど、与党が急に解決できない政治課題が度々出てきた。
また、2005年の郵政国会では、参議院での郵政民営化法案の否決が、内閣総理大臣小泉純一郎による衆議院解散(郵政解散)という最大の政局へ繋がった。
注釈
出典
- ^ “議員情報 会派別所属議員名一覧”. 参議院 (2022年8月5日). 2022年8月6日閲覧。
- ^ “会派別所属議員数一覧”. 参議院 (2023年3月15日). 2023年3月16日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i 田中 嘉彦 日本国憲法制定過程における二院制諸案 レファレンス平成16年12月号、国立国会図書館
- ^ 松澤浩一著 『議会法』 ぎょうせい、1987年、119-122頁
- ^ 前田 1997.
- ^ “参院に独自性は必要か 創論・時論アンケート”. 日本経済新聞. (2013年6月30日) 2014年7月7日閲覧。
- ^ いまさら聞けない参議院選挙の仕組み②選挙区と比例区 | 選挙ドットコム
- ^ “[早わかり 参院選Q]組織内候補とは?…業界団体・労組の擁立候補”. 読売新聞 (2019年7月17日). 2022年6月12日閲覧。
- ^ 児島襄 『史録 日本国憲法』 文春文庫 pp.152-154 (文庫版1986年5月,単行本1973年5月)
- ^ 日本国憲法の制定過程における各種草案の要点 衆議院憲法調査会事務局 (2000年)
- ^ 憲法改正要綱 - 国立国会図書館
- ^ 前田 1997, p. 8.
- ^ Record of Events on 13 February 1946 when Proposed New Constitution for Japan was Submitted to the Prime Minister, Mr. Yoshida, in Behalf of the Supreme Commander(「1946年2月13日に新憲法案が最高司令官に代理し吉田首相(実際は当時は外相)に提出された際の記録」チャールズ・L・ケーディス大佐ほか作成)
"Dr. Matsumoto then said that most other countries have a two House system to give stability to the operation of the legislature. If, however, only one House existed, said Dr. Matsumoto, one party will get a majority and go to an extreme and then another party will come in and go the opposite extreme so that, having a second House would provide stability and continuity to the policies of the government. General Whitney then said that the Supreme Commander would give thoughtful consideration to any point such as that made by Dr. Matsumoto which would lend support to a bicameral legislature and that, so long as the basic principles set forth in the draft Constitution were not impaired, his views would be fully discussed."
「松本氏はそして『他の多くの国は、立法府の活動の安定化のために二院制を取る。』と言った。『もし一院しかなければ、ある政党が多数を取れば一方の極に振れ、その後に別の政党が多数を取れば逆の極に振れるので、第2院が存在することにより政府の政策に安定性と連続性が与えられる。』と彼は言った。ホイットニー将軍は『最高司令官は、松本氏が出した二院制を支持する主張を熟慮するであろうし、憲法案にある基本原則が阻害されない限り、松本氏の考えは十分に議論されるであろう。』と言った。」 - ^ 二月十三日會見記略(松本憲法改正担当国務大臣の手記)
「二院制の存在理由に付一応説明を為したる所先側に於ては初めて二院制の由来と作用を聴きたるかの如き観あり」 - ^ 憲法改正草案に関する想定問答(法制局)の「第4章第38条関係」(草案段階では第38条であったが、現行憲法では第42条に当たる)の3番目の問
- ^ 貴族院のなかの参議院 『歴史書通信』 2009 No.183 - 内藤一成
- ^ 吉田武弘「戦後民主主義と「良識の府」──参議院制度成立過程を中心に」(PDF)『立命館大学人文科学研究所紀要』第90号、立命館大学人文科学研究所、2008年3月、155-176頁、ISSN 0287-3303、NAID 110009526362“『立命館大学人文科学研究所紀要No.90』(2008年3月)目次ページ・国立国会図書館サーチより”
- ^ “「良識の府」は幻想か”. 読売新聞. (2007年6月13日) 2017年10月14日閲覧。 ※ 現在はインターネットアーカイブ内に残存
- ^ 竹中治堅『参議院とは何か』(中央公論新社) ISBN 978-4120041266
- ^ 後藤謙次「小沢一郎 50の謎を解く」(文春新書)
- ^ “参議院議員選挙制度の変遷(参議院関連資料集):資料集:参議院”. . 2020年9月8日閲覧。
- ^ “選挙権年齢「18歳以上」に 改正公選法が成立”. 47NEWS. (2015年6月17日) 2017年10月14日閲覧。 ※ 現在はインターネットアーカイブ内に残存
- ^ “会派名及び会派別所属議員数”. 参議院 (2023年3月24日). 2023年3月24日閲覧。
- ^ a b c d e “参議院役員等一覧”. 参議院. 2022年3月14日閲覧。
- ^ “参議院-今国会情報”. 2022年1月23日閲覧。
- ^ a b c 石倉賢一「国会会議録について」『大学図書館研究』第25巻、大学図書館研究編集委員会、1984年、39-44頁、doi:10.20722/jcul.769、ISSN 0386-0507、NAID 110004566590。
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