印刷 プレスとプリント

印刷

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/12/30 05:43 UTC 版)

プレスとプリント

パソコンなどのプリンターからの「プリントアウト」と、印刷会社にあるような印刷機による「印刷」は、まったく別のものとも言われるが、ともに「印刷」と訳される。後者はプレスと呼んで区別されるが、これは印刷機が刷版を用紙に対して圧力をかけて(=プレス)画線部を印字するためである。

このプレス機構はそもそも近代的な印刷の初発的段階から存在し、グーテンベルクがブドウ絞り器から着想を得て開発したものと言われる。大量印刷(すなわちマスメディア)と「プレス」はその後不可分に結びつき、報道のことをプレスともいうようになった[24]

版式による分類

有版式

版の色々

凸版

版の凹凸を利用する印刷法の一つで、非画線部を凹、画線部を凸にして凸部にインクをつけ、紙に転写する方式[25]

活版印刷(活字や写真凸版・線画凸版、罫線などを組み合わせて版とする)はこの版式である。印刷時での圧力により紙に凹凸ができることがある[25]。また、印刷された文字にマージナルゾーン(インクの横漏れにより、実際の活字の線幅以上の余分な太さとなる部分)が見られるなどの特徴がある。版が鉛製で取り扱いにくいこと、オフセット印刷の発達などにより、活版印刷は廃れた。現在主に行われている凸版印刷は、樹脂凸版印刷およびフレキソ印刷である。樹脂凸版印刷とは、活版の代わりに感光性樹脂を刷版に用いるもので、週刊誌のモノクロページ、シール、ラベル印刷などで使用されている。ただし現在では、週刊誌のモノクロページはほとんど平版オフセットで印刷されるようになった。フレキソ印刷は、ゴムや感光性樹脂の版を用い、刷版にインキを供給する部分にアニロックスロールと呼ばれるローラーを用いる方法である。アニロックスロールは、表面に規則正しい配列で凹みを彫刻し、その凹部に詰まったインキを版に供給するもので、用途に合わせて凹部の線数を選択することができる。印圧がほとんどない「キスタッチ」が理想とされ、段ボールライナー、包装フィルムなどの印刷に使用されている。

ドイツで印刷術が流行した時期、凸版印刷術のアイディアは、レオナルド・ダ・ヴィンチが考案し、印刷機の設計図も描いたが、実用化されるのは、その300年後となる(佐藤幸三編、文・青木昭 『図説 レオナルド・ダ・ヴィンチ』 河出書房新社 (初版1996年)6刷2006年 p.22)。一説にレオナルドの手稿が鏡文字を用いたのも、この印刷用の版を意識してのこととされる(同『図説 レオナルド・ダ・ヴィンチ』 p.22)。

線画凸版

印刷物には文字だけでなく挿し絵などの図版も必要とされることが多い。図や表などの線画から光学的にネガフィルムを作成し、それを感光剤を塗布した亜鉛版(または銅版)に焼き付ける。感光したところだけ硬化して皮膜となるので、塩酸などで金属を腐食させることで感光部(画線部)だけが凸状に残る線画凸版が出来上がる。

写真版

写真を印刷するための凸版を写真版という。詳細は#写真印刷を参考。

鉛版

複製鉛版、ステロ版ともいう。活字や線画凸版を組版して作った原版は摩耗などにより一定枚数しか印刷出来ないのが通常であるため、原版に紙型を載せてプレス加圧を行って型を取り、その紙型を鋳型としてアンチモン合金を流し込んで複製版が作られる。この際、半円形に鋳造した物を2つ組み合わせれば「丸鉛版」となり輪転機にかけることが可能となる。これによって大量印刷が可能となった。

凹版

凹版の基本的仕組み
(下の版にある凹部分のインクが紙(上)に転写される)

版の凹凸を利用する印刷法の一つで、非画線部である凸部のインクを掻き取り凹部に付いたインクを紙に転写する方式。現在では電子彫刻された銅製のシリンダーを用いた刷版が使用されるため耐久性があり、大量の印刷に向いている。微細な線を表現できることから、偽造防止の目的で紙幣収入印紙などに採用されることが多い。

また、グラビア印刷も凹版印刷の仲間と言える。グラビア版は、ほかの印刷方法のような錯覚を利用した濃淡表現と、凹部分の深さの違いによるインクの量の増減による濃淡の変化の双方が可能であるため、写真などの再現性に優れている。かつて、雑誌においては本文は凸版で印刷され、写真ページはグラビアで印刷されていたことから、転じて写真ページのことをグラビアページと呼ぶようになった。現在は本文、写真ともオフセット印刷が利用されることが多い[26]

平版

オフセット印刷

平らな版の上に、化学的な処理により、親油性の画線部と親水性の非画線部を作成し、インキを画線部に乗せて、紙に転写する方式[27]。 一般的にはオフセット印刷と同義で理解されているが、オフセットとはインキが版からゴム版に一度転写されることを指すのであり、本来、平版印刷と言うのが正しい。オフセットする凸版(ドライオフセット印刷など)や凹版(パッド印刷=タコ印刷など)もまれに存在する。石版印刷(リトグラフ、リソグラフィ)も平版の一種。

現代日本の出版物は、多くが平版オフセット印刷で刷られている。直刷りの凸版や凹版と違い、刷版上の画像が反転していないので間違いなどを見つけやすい。また高速、大量の印刷に適している。日本において平版印刷が普及した理由として写真植字が挙げられる。写真植字による版下作成はその後工程として製版フィルム化(集版)が不可欠であり、この工程を経る限り平版印刷が最適であるからである。カラー印刷英語版は殆どすべてこの方式である。

孔版

版(油紙など)に微細な孔を多数開け、圧力によってそこを通過したインクを紙などに転写する方式。

手軽な設備で実現できる。身近な代表例は理想科学工業プリントゴッコリソグラフ(製品名)。複製絵画に使用されるシルクスクリーンや、謄写版(ガリ版)も孔版の一種。文字や画像の印刷に限らず、物体表面に各種の機能性材料の皮膜を形成する技術として広く用いられている。一例では、カラーブラウン管のシャドーマスクや液晶表示装置のカラーフィルターといった部品が、印刷技術を用いて製造されている。別名ステンシル印刷とも称されるが、最近ではスクリーン印刷と呼ばれることが多い。ステンシルテンプレートは孔版の一種といえる。

無版式

無版印刷とは、製版フィルムや刷版などを作成することなく、直接、用紙に印刷する方式。

電子写真方式(静電記録方式)

電子写真方式(静電記録方式)はオフィスなどで用いられるレーザープリンターに広く普及している方式[28]

熱転写方式

熱転写方式には溶融型熱転写と染料熱転写がある[28]。染料熱転写は染料の加熱による昇華を利用したため昇華型熱転写と呼ばれていたが、必ずしも昇華の原理を利用しないものも利用されるようになっている(ただし分類上は印刷の過程と関係なく昇華型熱転写が使われることもある)[28]

インクジェット方式

インクジェット方式は1980年代に電機系の会社を中心に開発された[28]

写真印刷

網点

モノクロ網点、45°スクリーン
同じ写真のカラー/CMYK網点
CMYK網点スクリーン角度の例

写真に連続階調があるのに対し、凸版印刷、平版印刷では白黒の場合、白と黒の2階調しか出力できない。そこで網点(ハーフトーンドット)の大小によって写真の濃淡を表現している。(網版法)

この手法が印刷に用いられるようになったのは、ドイツのマイゼンバッハらの発案を元に、1886年、アメリカのレビー兄弟が網スクリーンの実用化に成功したのが始まりである[29]

製版には黒と白しか出ない超硬性のリスフィルムが使用される。フィルムの前に一定の距離を空けてコンタクトスクリーン(網スクリーン)を置く。このスクリーンは格子状に光が透過する模様が入っており、写真の濃淡を黒い網点の大小に置き換えてリスフィルムに焼き付ける効果を持つ。こうして作られた網ネガが製版フィルムとなる。

なお、網の細かさは「網点の数/インチ」で表わされ、それをスクリーン線数という。新聞などインキのにじみやすい紙質のものは85線(1インチに85個の網点)、一般書籍は100線、写真中心の画集などは175線といった具合である。

凸版ではこうしてできた製版フィルムと亜鉛版(もしくは銅版)に感光剤を塗布したものを組み合わせて露光する。感光した部分だけが硬化して残り、他の部分が洗い落とされる。この亜鉛版を塩酸で腐食させることで感光した部分だけが凸状に残った写真版(網版)が出来上がる。活字と写真版から組版により印刷に用いる原版が出来上がる。

オフセット印刷に代表される平版でも基本的な原理は同じである。文字原稿から写植あるいは電算写植により版下が作成され、写真はコンタクトスクリーンによる露光によって網ネガが作られて、文字版下と組み合わされ網ポジが作られる。この網ポジがPS版に焼き付けられて製版される[29]

同人誌などをオフセット印刷に回す場合、濃淡部分は事前に網点化(網掛け/網入れ)しておくと料金が安く済むことが多い。個人用のプリンターで印刷したものの場合、既にこの処理は行われている。

カラー写真の場合、製版時にCMYK各色用フィルターを用いるなどして4色分解を行い、それぞれの色に対応した版を作る。この時用いる網スクリーンは格子の角度をそれぞれの色ごとに10~15度ずつずらしたものを使い、モアレの発生を抑制している。

2015年現在、商業印刷で主流のオフセット印刷では最新のCTPダイレクト刷版により製版フィルムが不要になっているケースがある。CTPによって写真は電子的に色分解や網点化が行われるため、スクリーンを使った光学的な置換はもはや行われない。

凹版

(a) 凹版はセルの深さで濃淡を表現できる。
(b) 凸版は網点の大きさで濃淡を表現する。

凸版や平版と異なり凹版では画線部を凹部で製版する。凹版印刷の代表であるグラビア印刷では、くぼみ(「セル」という)の深さにより印刷されるインキの量を調整できるため、網点を使うことなく色の濃淡を表現することができる。これをコンベンショナル法という。現在グラビア印刷で主流は網グラビア法で、これは網点を使った印刷手法である。


  1. ^ 『図説 本の歴史』p22 樺山紘一編、河出書房新社 2011年7月30日初版発行
  2. ^ 『図説 本の歴史』p30 樺山紘一編、河出書房新社 2011年7月30日初版発行
  3. ^ 『日本語活字印刷史』p16-17 鈴木広光著、名古屋大学出版会 2015年2月15日初版第1刷 ISBN 978-4815807955
  4. ^ 『図説 本の歴史』p45 樺山紘一編、河出書房新社 2011年7月30日初版発行
  5. ^ 『図説 本の歴史』p46 樺山紘一編、河出書房新社 2011年7月30日初版発行
  6. ^ Buringh, Eltjo; van Zanden, Jan Luiten: "Charting the 'Rise of the West': Manuscripts and Printed Books in Europe, A Long-Term Perspective from the Sixth through Eighteenth Centuries", The Journal of Economic History, Vol. 69, No. 2 (2009), pp. 409-445 (417, table 2)
  7. ^ 『歴史の中のコミュニケーション メディア革命の社会文化史』p108-111 デイヴィッド・クロウリー、ポール・ヘイヤー編、林進・大久保公雄訳、新曜社 1995年4月20日初版第1刷
  8. ^ 「印刷・スペース・閉ざされたテキスト」ウォルター・オング(『歴史の中のコミュニケーション メディア革命の社会文化史』所収)p144 デイヴィッド・クロウリー、ポール・ヘイヤー編、林進・大久保公雄訳、新曜社 1995年4月20日初版第1刷
  9. ^ 「印刷・スペース・閉ざされたテキスト」ウォルター・オング(『歴史の中のコミュニケーション メディア革命の社会文化史』所収)p135 デイヴィッド・クロウリー、ポール・ヘイヤー編、林進・大久保公雄訳、新曜社 1995年4月20日初版第1刷
  10. ^ 「印刷・スペース・閉ざされたテキスト」ウォルター・オング(『歴史の中のコミュニケーション メディア革命の社会文化史』所収)p149 デイヴィッド・クロウリー、ポール・ヘイヤー編、林進・大久保公雄訳、新曜社 1995年4月20日初版第1刷
  11. ^ 「世界を変えた100の本の歴史図鑑 古代エジプトのパピルスから電子書籍まで」p180 ロデリック・ケイヴ、サラ・アヤド著、樺山紘一日本語版監修 大山晶訳、原書房 2015年5月25日第1刷
  12. ^ Pollak, Michael (1972). “The performance of the wooden printing press”. The library quarterly 42 (2): 218-264.. https://www.jstor.org/stable/4306163 2017年5月10日閲覧。. 
  13. ^ Hans Bolza: Friedrich Koenig und die Erfindung der Druckmaschine. In: Technikgeschichte. 34巻1号, 1967, p79-89|p=80
  14. ^ Hans Bolza: Friedrich Koenig und die Erfindung der Druckmaschine. In: Technikgeschichte. 34巻1号, 1967, p79-89|p=83
  15. ^ Hans Bolza: Friedrich Koenig und die Erfindung der Druckmaschine. In: Technikgeschichte. 34巻1号, 1967, p79-89|p=87
  16. ^ a b Hans Bolza: Friedrich Koenig und die Erfindung der Druckmaschine. In: Technikgeschichte. 34巻1号, 1967, p79-89|p=88
  17. ^ 『ビジュアル版 本の歴史文化図鑑 5000年の書物の力』p132 マーティン・ライアンズ著、蔵持不三也監訳、三芳康義訳、柊風舎 2012年5月22日第1刷
  18. ^ 『図説 世界史を変えた50の機械』p49 エリック・シャリーン著、柴田譲治訳、原書房 2013年9月30日第1刷
  19. ^ 『世界の発明発見歴史百科』p326-327 テリー・プレヴァートン著、日暮雅通訳、原書房 2015年9月28日第1刷
  20. ^ a b c d e f 進化するデジタル印刷展が始まります”. デジタル・オンデマンド出版センター. 2020年6月22日閲覧。
  21. ^ 『日本語活字印刷史』p17 鈴木広光著、名古屋大学出版会 2015年2月15日初版第1刷 ISBN 978-4815807955
  22. ^ 『日本語活字印刷史』p109-110 鈴木広光著、名古屋大学出版会 2015年2月15日初版第1刷 ISBN 978-4815807955
  23. ^ 『日本語活字印刷史』p110 鈴木広光著、名古屋大学出版会 2015年2月15日初版第1刷 ISBN 978-4815807955
  24. ^ 『エンサイクロペディア 現代ジャーナリズム』p214 早稲田大学ジャーナリズム教育研究所編、早稲田大学出版部 2013年4月1日初版第1刷
  25. ^ a b 「トコトンやさしい紙と印刷の本」(今日からモノ知りシリーズ)p60 前田秀一 日刊工業新聞社 2018年12月19日初版1刷発行
  26. ^ 「トコトンやさしい紙と印刷の本」(今日からモノ知りシリーズ)p62 前田秀一 日刊工業新聞社 2018年12月19日初版1刷発行
  27. ^ 「トコトンやさしい紙と印刷の本」(今日からモノ知りシリーズ)p66 前田秀一 日刊工業新聞社 2018年12月19日初版1刷発行
  28. ^ a b c d 阿部隆夫「デジタルプリントシステムの現状と将来への期待」『日本写真学会誌』第66巻第5号、日本写真学会、2003年10月、 452-457頁、 doi:10.11454/photogrst1964.66.452ISSN 03695662NAID 10011928143
  29. ^ a b 日本印刷新聞社 『早わかり印刷の知識: “版式の原理”から“デジタル技術”の基礎まで』日本印刷新聞社、2006年。ISBN 978-4888841627 
  30. ^ Kipphan, Helmut (2001). Handbook of print media: technologies and production methods (Illustrated ed.). Springer. pp. 130-144. ISBN 3-540-67326-1. https://books.google.com/books?id=VrdqBRgSKasC 
  31. ^ a b c d e Kipphan, Helmut (2001). Handbook of print media: technologies and production methods (Illustrated ed.). Springer. pp. 976?979. ISBN 3-540-67326-1. https://books.google.com/books?id=VrdqBRgSKasC 
  32. ^ a b Kipphan, Helmut (2001). Handbook of print media: technologies and production methods (Illustrated ed.). Springer. pp. 48-52. ISBN 3-540-67326-1. https://books.google.com/books?id=VrdqBRgSKasC 


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