全地球カタログ 全地球カタログの概要

全地球カタログ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/18 07:39 UTC 版)

概要

1968年に、スチュアート・ブランドによって創刊された。創刊号の冒頭にはバックミンスター・フラーの写真とともに次のような言葉が掲載されている[2]

このカタログはバックミンスター・フラーの思想に導かれて作られました。フラーの言葉はまるで、即興の音楽のような驚きに満ちています。フラーは今、最も独創的で実用的な知性の持ち主なのです。[2]

本カタログは、"最小のもので最大を成す" というバックミンスター・フラーが提唱した思想(ダイマクション )から生まれたものであった[2]

創刊号の表紙に使われた地球の写真(en:ATS-3衛星で1967年に撮影されたもの)

(フラーは「宇宙船地球号」という考え方を提唱し広めた人物であり)当カタログの創刊号(1968年 FALL)の表紙を飾ったのは、1966年にブランドが起こした運動が功を奏してNASAから発表された、宇宙に浮かぶ地球の写真である[1]。 掲載される商品は、" 環境と調和した新たな生き方 " に役立ち、それでいてクールな道具だった[2]。つまりヒッピー・コミューンを支えるための情報や商品がカタログのように掲載されていた。

1968年から年2回のペースで発行され、ページ数が多い号では数百ページもの厚さにも及んだ分厚いカタログである[2]。ヒッピーたちにバイブルのように扱われ、発行部数250万部ものベストセラーとなった[2]

宝島』『』『POPEYE』など日本の主要なサブカルチャー雑誌にも大きな影響を与えたとされる。

だが、やがてヒッピー文化は次第に下火となり、1971年に当カタログの定期刊行は終わりを迎えた[2]。1974年10月に刊行された『Whole Earth Epilog』号の裏表紙[3]にバックミンスター・フラーの次の言葉が飾られた[2]

Stay hungry. Stay foolish.

この言葉が、その後も大きな影響を生むことになる[2]。→#Stay hungry. Stay foolish.

後日談

なお廃刊を記念して廃刊記念イベントが開催されヒッピーたちが集まったが、その場でヒッピーたちに驚きのアイディアが告げられた。カタログの売上金2万ドルを、ユニークな使い方を発表した者に譲るというアイディアだった[2]。さっそくヒッピーたちが競い合うようにしてアイディアを提案する中、フレッド・ムーア英語版が「お金(100ドル札)なんて燃やしてしまおう」とユニークな提案をし、ムーアに2万ドルが与えられた[2]。しかしムーアはその金を燃やさず、その金を使って4年後の1975年にホームブリュー・コンピュータ・クラブというコンピュータの愛好家がコンピュータの情報やアイディアを無償で交換するためのクラブを立ち上げた[2]。このクラブには、大学を中退したひとりの若者にすぎなかったスティーブ・ジョブズも参加しここでコンピュータに関する知識を深め、同じく会員だったエンジニアのスティーブ・ウォズニアックとともにApple起業した[2]。なお、このApple社の最初の顧客もやはりホームブリュー・コンピュータ・クラブの会員だった[2]。つまり当カタログのバタフライエフェクトは起き続けた。

スティーブ・ジョブズは全地球カタログについて、2005年6月に行われたスタンフォード大学の卒業式にゲストとして招かれ式辞を述べた際に、次のように言及した。

「若かった頃、すばらしい本に出会った。「ホールアースカタログ」。私たちの世代のバイブルだった。当時は1960年代後半で、まだDTP(パソコン編集)などできない時代だったので、このカタログは全てタイプライターとハサミとポラロイドカメラでつくられていて、いわば「紙でできたグーグル」だった。グーグルが誕生する35年前に作られたものだった。理想を掲げ、素晴らしいツールと気づきにあふれていた。[2]

Stay hungry. Stay foolish.

最終号の巻末に掲載されたStay hungry. Stay foolish.というバックミンスター・フラーの言葉は、今も世界中の若者の人生を変え続けている[2]

ヒッピー風の文化を身につけ、10代でホールアース・カタログに出会い持ち歩き愛読し、ホームブルー・コンピュータ・クラブに所属したスティーブ・ジョブスの人生にもこの言葉は大きな影響を与えた。 スティーブ・ジョブズは、2005年6月12日に行われたスタンフォード大学の卒業式の式辞の最後で卒業生に贈る言葉として"Stay hungry. Stay foolish."を紹介し[1]、この言葉を3度繰り返した。

(なおこのStay hungry. Stay foolishは、きわめて基礎的な英単語を使っているが、含意が非常に深く、適切な日本語訳は定まっていない。この言葉の深い意味をよく理解せず、表面的に直訳して「ハングリーであれ、愚かであれ」と訳されてしまうことも多いが、この訳で妥当なのかについてはかなり怪しい[4]。「ずっと無謀で[5]」という訳もある。また意訳して「満たされるな、分別くさくなるな」とか訳すほうが妥当かもしれず、さらに、ジョブズの式辞の内容の文脈も踏まえて、(式辞の中ではジョブズは、自分のやりたいことを貫け、人生の時間は限られている、誰かの言いなりになって人生を浪費してはいけない、他人の教えにとらわれるな、といったことを繰り返し述べたことを踏まえて)思い切って「自分の心に従って進め」と訳すほうが良いのかもしれない、とプロの翻訳家からは指摘されている[4]。)

大谷翔平も この"Stay hungry. Stay foolish." の影響を受け、それについて次のように語った。

「ジョブズの言葉は元気をくれます。そのとき自分が思い悩んでいることがすごく小さなことだと思えたりする。楽になれる、というか、自分が変わるためのいいきっかけになってくれる。人と違うことをやってきて、そこに至った時、どうなるのか。"できるか できないか"よりも、"誰もやらないことをやってみたい"。」[2]

  1. ^ a b c d e f 池田純一『ウェブ×ソーシャル×アメリカ』
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q NHK 『映像の世紀 バタフライエフェクト』「世界を変えた "愚か者 " フラーとジョブズ」 2023年6月17日 BSにて再放送。NHKオンデマンドなら、いつでも視聴可能。
  3. ^ Whole Earth Index | Whole Earth Epilog, October 1974”. 2024年4月13日閲覧。
  4. ^ a b [1]
  5. ^ 山形浩生による意訳
  6. ^ Whole Earth Catalog (Fall 1968) - complete”. 2023年7月22日閲覧。
  7. ^ Whole Earth Catalog 1971-01”. Point Foundation (1971年1月). 2023年7月22日閲覧。
  8. ^ Whole Earth Catalog 1971-01”. Point Foundation (1971年1月). 2023年7月22日閲覧。
  9. ^ Whole Earth Catalog 1971-01”. Point Foundation (1971年1月). 2023年7月22日閲覧。
  10. ^ "How to do a Whole Earth Catalog" (1975)” (1975年6月). 2023年7月22日閲覧。
  11. ^ 1969年9月号


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