付加体 付加体から得られる情報

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付加体

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/23 04:19 UTC 版)

付加体から得られる情報

フズリナを含んだ石灰岩(大垣城石垣
現生の放散虫の骨格

現在の海洋地殻の年齢は最も古いものでも2億年程度で、それ以前に形成されたものはプレート運動によってマントルに沈み込んでしまっている[13]。付加体は2億年より古い海山やサンゴ礁や大洋底の状況を記録した貴重な情報源である。サンゴ礁からできた石灰岩からは古代の生物の化石がたくさん見つかっている。

サンゴ礁等を除く一般的な付加体の元となった岩石は、海底や海山を構成していた玄武岩や大洋の深海底に堆積したチャートなどの岩石が多い。これらは 上記のように地層累重による新旧関係判断が不可能でしかも複雑に褶曲した乱雑な構造となっている場合が多い上、堆積した年代を判定する手がかりとなる大型生物の化石が見つかることはほとんどないため、従来は年代測定が非常に困難であった。

年代分析法の進歩

しかし1990年代になって、チャートをフッ化水素酸で処理して得られる放散虫微化石の分析から、詳細な年代分析が可能になった。放散虫は進化が早く形態変化が明瞭なため、堆積年代推定の強力な手段となる[14]。また近年[いつ?] 二次イオン質量分析法(SIMS)によって玄武岩などの岩石に含まれる鉱物ジルコンを使ったウラン鉛年代測定法が発達し、火成岩の生成年齢が非常に正確に測定できるようになった[15]。これらのデータの積み重ねの結果、各個別の付加体について生成した年代が非常に正確に判定できるようになった。

最古の原核生物様化石

西オーストラリアのピルバラ地域のチャート層から、最古の原核生物様化石が発見されている[16][17]。この一帯はグリーンストーンベルト英語版と呼ばれる25億年以上前に形成された地質で、変性度の低い玄武岩や堆積岩が帯状に配列しているが、所々に花崗岩の貫入も認められている[18]。これらのことからこの地域の陸地形成について付加体地質学の考え方を元にした議論がなされている[19]。原核生物様化石の見つかったチャート層は、海底噴火による枕状溶岩の上にケイ酸塩が無機的に堆積したもので、放散虫はまだ発生していないためケイ酸塩は化学的に沈殿したものと考えられる。また溶岩に残っていた熱水変質の分析から噴火が起こったのは深さ1,000m以上の海底であることが判明している[20]

大洋底でのP-T境界の状況

P-T境界古生代ペルム紀中生代三畳紀の境界で、地球史上最大級の大量絶滅と呼ばれている事件。今まで見つかっている化石の記録から海生無脊椎動物の90%以上が絶滅したと推定されている[21]。化石生物の記録は陸地周辺の浅海のデータであるが、陸から遠く離れた大洋におけるP-T境界の証拠が岐阜県鵜沼に露出している付加体のチャート層(放散虫のケイ質殻を大量に含んでいる)で発見された。このチャート層の分析の結果から、P-T境界を挟む約2000万年という長い期間、大洋中の酸素が欠乏していたことが判明したため、「超酸素欠乏事件、スーパーアノキシア(Superanoxia)」と名づけられた。鵜沼では スーパーアノキシア前後に堆積したチャートは、海中に酸素が十分あり放散虫が繁殖していたことを示す「赤色チャート」(赤色の由来は酸化鉄)であるが、スーパーアノキシア期間は酸素の欠乏を示す「灰色チャート」(海水中の鉄分が酸化されない状況)、その中心時期であるP-T境界直後には放散虫の繁殖が認められず有機物も酸化分解されないまま海底に沈殿した「黒色炭質粘土岩」が存在する[22]。即ち大量絶滅事件であるP-T境界において、付加体の分析から 全地球規模で長期間に渡って大幅な酸素の欠乏という非常にカタストロフィックな変化が起こっていたことが判明した。


  1. ^ 『付加体地質学』 はじめに より
  2. ^ 『付加体地質学』3頁
  3. ^ 『地球史がよくわかる本』 27頁。
  4. ^ 『付加体地質学』24頁
  5. ^ 『生命と地球の共進化』 83頁。
  6. ^ 『生命と地球の共進化』 37頁
  7. ^ 『生命と地球の歴史』 205頁
  8. ^ 『付加体地質学』126頁
  9. ^ 『生命と地球の共進化』 208頁。
  10. ^ 『生命と地球の歴史』 141頁。
  11. ^ 『地球鉱物資源入門』 79頁。
  12. ^ 『日本地質図』
  13. ^ 『生命と地球の共進化』 54頁。
  14. ^ 『地球史がよくわかる本』 275頁。
  15. ^ 『生命と地球の共進化』 35頁。
  16. ^ Schopf, J. W. (1993). “Microfossils of the early Archean Apex chert: New evidence of the antiquity of life”. Science 260: 640-646. doi:10.1126/science.260.5108.640. 
  17. ^ Pinti, D. L.; Mineau, R. & Clement, V. (2009). “Hydroyhermal alteration and microfossil artefacts of the 3,465-million-year-old Apex chert”. Nature Geoscience 2 (9): 640-643. doi:10.1038/NGEO601. 
  18. ^ 『地球史がよくわかる本』 139頁。
  19. ^ 『生命と地球の共進化』 85頁。
  20. ^ 『生命と地球の共進化』 87頁。
  21. ^ 『生命と地球の共進化』 207頁。
  22. ^ 『生命と地球の歴史』 142頁。


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