五十嵐大介 作風

五十嵐大介

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/05 17:39 UTC 版)

作風

五十嵐は、音楽業界における「ミュージシャンズ ミュージシャン」のような、他のクリエイターに影響を与え、彼らが彼の作品を参考にして創作活動をするような「クリエイターズ・クリエイター」といえるような存在である[12]

絵が上手い漫画家と言われるが、その上手さはコミック風の流麗なペンタッチや、正確に仕上げるトーンワークなどの職人的な漫画製作というよりは、現実の世界から受け取った印象や感覚を漫画的な記号表現に出来るだけ変換せずにそのまま描写するという本来の絵画的表現方法としての上手さである[12]

作品は生き物、風景などの自然物と奔放な幻想イメージがあいまった情景が高い画力と繊細な描写で緻密に描き込まれている[10]。「人間は自然の一部なのだ」と感じさせる作品を意欲的に描いているが、原点は以前住んでいた埼玉県浦和市の調神社に入り浸っていた経験だという[7]。五十嵐は「街中なのに樹齢数百年という木がうっそうと茂っていて、そこだけ雰囲気が違う。風が強い日など、木漏れ日が揺れているなかにぼーっと立っていると、自分の皮膚と自然との境目がなくなっていく感覚がしたりして。森の中にも小さな生態系があって、小動物が食べたり、食べられたりを繰り返しているのも見ていました」と語っている[7]

風景に対して人物はやや簡略化されているが、これは背景に人物が埋もれないよう初期から意識していることだという[13]。背景が描きたくて漫画を描いている部分が大きく、人間を活き活きと描くことに苦手意識があるので登場人物をアシスタントに描いてもらおうと思ったこともある[10]

制作作業はデジタル作画ツールを使わず、フルアナログで行っている[1]。作画では枠線などを除き定規を使っておらず、建築物などもすべてフリーハンドで描かれている。つけペン丸ペンボールペンを組み合わせながら、フリーハンドの線で絵づくりを行う[14]。ボールペン(ぺんてるのHybrid)は、『魔女』以降使い始めた。普段メモなどで使用しており気楽に描けるということもあって漫画でも使い始めたもので、『魔女』はほとんどボールペンだけで描いた[15][注 2]。『海獣の子供』からはボールペンとつけペンを併用し始めた[17]。つけペンと違って自由に描けて持ち歩くこともできるボールペンは、五十嵐にとってスケッチなどにも使う一番手に馴染んだ道具だが、しなる部分が無いので非常に肩が凝るため、近年の作品ではその使用割合はかなり減っている[2]

基本的に全てのコマの仕上げは自分で手を入れて、アシスタントは使わない[2][注 3]

五十嵐自身は影響を受けた漫画として、小学生のときに読んでいたという藤子・F・不二雄の『ドラえもん』やつげ義春の『石を売る』、宮崎駿の『風の谷のナウシカ』(漫画版)[18]などを挙げ、また愛読している作品として杉浦日向子の『百日紅』を挙げている[18]

表現方法として影響を受けたのは、上記の押井守の映像作品のほか、草野心平の「蛙の詩」[注 4]民俗学者柳田國男の『遠野物語』の説明が過剰すぎず、読む側のイマジネーションを膨らませる文章、宮崎駿の『となりのトトロ』の流れる水の透明感や温度、季節によって変わる光などの表現だという[3][4]。特に宮崎駿には、意識下でも無意識下でも大きな影響を受けている[3]。子供の頃に見たテレビシリーズ未来少年コナン』や映画『ルパン三世 カリオストロの城』に感動し、映画『風の谷のナウシカ』の絵コンテ集は教科書代わりであり、物作りする上での考え方の指針となった本だという[3]

「私の想定読者は常に女性」とも語っており[19]、作品の主人公は少女、女性であることが多い。


注釈

  1. ^ そこでのちに『そらトびタマシイ』に収録されることになる作品群を執筆した[要出典]
  2. ^ 公式ブログによれば「うたぬすびと」以外はすべてボールペンで描かれている[16]
  3. ^ ただし、締め切り前には下書きの鉛筆部分への消しゴムかけと指定した箇所のベタ塗り、そしてスクリーントーン貼りなどの作業のために、手伝いにひとり入ってもらう。
  4. ^ 『海獣の子供』のクライマックスとなる「誕生祭」のイメージは、草野の詩の世界から影響されたもの。

出典

  1. ^ a b c d e 佐藤希 (2020年3月24日). “第23回文化庁メディア芸術祭「海獣の子供」 渡辺歩 / 五十嵐大介インタビュー (4)”. コミックナタリー. 株式会社ナターシャ. 2023年12月13日閲覧。
  2. ^ a b c 長野辰次 (2019年6月6日). “五十嵐大介、"幸福感"に包まれながら描いた『海獣の子供』誕生&創作秘話を明かす (2)”. otocoto. 株式会社バカ・ザ・バッカ. 2023年12月13日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g 長野辰次 (2019年6月6日). “五十嵐大介、"幸福感"に包まれながら描いた『海獣の子供』誕生&創作秘話を明かす (4)”. otocoto. 株式会社バカ・ザ・バッカ. 2023年12月13日閲覧。
  4. ^ a b 五十嵐大介プロファイル”. 文化庁メディア芸術プラザ. 文化庁 (2004年). 2007年12月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年12月13日閲覧。
  5. ^ a b 試し読み「SARU」/五十嵐大介”. IKKI公式サイト「イキパラ」. 小学館. 2023年12月20日閲覧。
  6. ^ a b c d e f g h i j 島田 2014, p. 2.
  7. ^ a b c d 成田おり枝 (2019年6月10日). “原作者の五十嵐大介を驚かせた、アニメーション映画『海獣の子供』のシーンとは?”. Movie Walker. 株式会社ムービーウォーカー. 2023年12月13日閲覧。
  8. ^ 橋本愛主演映画「リトル・フォレスト」 ベルリン国際映画祭への招待が決定!”. ダ・ヴィンチWeb. KADOKAWA (2015年1月14日). 2023年12月13日閲覧。
  9. ^ 日本映画リメイク作がWヒットを記録!「いま、会いにゆきます」「リトル・フォレスト」が韓国で大人気”. Kstyle (2018年3月19日). 2023年12月13日閲覧。
  10. ^ a b c d e 対談 伊坂幸太郎×五十嵐大介”. 伊坂幸太郎『SOSの猿』特設ページ. 中央公論社 (2009年11月9日). 2023年12月20日閲覧。
  11. ^ 南信長 2013, p. 43.
  12. ^ a b 小野寺系 (2019年6月13日). “『海獣の子供』なぜ賛否を巻き起こす結果に? 作品のテーマやアニメーション表現から考察 (1)”. リアルサウンド. 株式会社blueprint. 2023年12月13日閲覧。
  13. ^ 月刊IKKI9月号 2007, pp. 30–36.
  14. ^ 安原まひろ (2019年8月19日). “手描き作画と3DCGの共鳴『海獣の子供』”. メディア芸術カレントコンテンツ. 文化庁. 2023年12月11日閲覧。
  15. ^ 季刊エス4月号 2005, pp. &#91, 要ページ番号&#93, .
  16. ^ 公式ブログ2007年7月15日(2008年6月21日閲覧)
  17. ^ 大学漫画Vol.5 2006, p. 209.
  18. ^ a b このマンガがすごい! 2007・オトコ版 2006, p. 71.
  19. ^ 『四季賞クロニクル』付属ブックレット(筆記インタビュー)講談社、2005年
  20. ^ 南信長 2013, p. 44.
  21. ^ a b 島田一志 2005, pp. 138–156.
  22. ^ 大学漫画Vol.5 2006, p. 211.
  23. ^ 島田一志 2007, p. 29.
  24. ^ 島田一志「特集 五十嵐大介」『Mhz』Vol.3、マガジンファイブ、2007年、29頁
  25. ^ BELOVE編集部◇講談社 2022年6月1日のツイート2022年6月1日閲覧。
  26. ^ マンガ・エロティクス・エフvol.56 2009, p. [要ページ番号].
  27. ^ good!アフタヌーン8号 2016, p. [要ページ番号].
  28. ^ 五十嵐大介プロファイル”. 文化庁メディア芸術プラザ. 文化庁 (2003年). 2007年10月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年12月13日閲覧。
  29. ^ 五十嵐大介、木地雅映子の青春小説に表紙イラストを提供コミックナタリー


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